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キリングアート  作者: カルラ
19/22

第五話 キリング ノット アート その4

 そして翌朝。

 マリア5のメンバーは仕事のために、今は病院にはいない。

 赤咲も仕事の連絡があり一度事務所に出向いてから、再び病院へと戻っている。

 病院に着くと、桜は既に目覚めているらしく、面会謝絶でも無いので赤咲はすぐに病室へと通される。


「あっ、斬耶」


 病室に入ると、元気な桜の声が耳に入る。

 その様子には赤咲もすっかり安心してしまう。


「よっ桜。無事でよかったよ」


 赤咲も、いつものような明るい口調で話しかける。

「そういえば両親は? 昨日の夜はいたし、てっきり先に面会してると思ったんだけど」

「うん。さっきまでいたんだけどね。着替えを取りに戻るとかで帰っちゃった」

「そっか」


 桜のベッド脇にある椅子に赤咲は座る。

 桜は手術直後ということでまだ体を寝かせているので、自然と赤咲は桜を見下ろす形になる。


「退院には時間掛かりそう?」

「ううん。内臓とかは傷ついてなかったから、一週間ぐらいで退院出来るみたいだよ」

「そうなんだ。昨日の様子だと、かなりやばそうだったから心配したけど……大事じゃないならいいな。安心したよ」

「うん。傷痕も目立たないみたいだから、アイドル活動も続けられるみたい」

「そっか。それは何よりだな」


 言いながら赤咲は桜の頭を優しく撫でる。すると桜も目を細めてくすぐったそうな笑みを零す。


「くすぐったいよ」

「そっか。なら止めようか」

「ううん。続けて」

「了解」


 赤咲は続けて桜の頭を優しく撫で続ける。

 しばらくの間、桜はその気持ち良い時間に身を委ねる。


「ありがとう斬耶。それから……ごめんね斬耶」

「おいおいどうしたんだよ桜。なにを謝ってるんだ?」


 突然の桜の謝罪に赤咲は不思議な疑問を感じ取った。


「えっとね。せっかくのプロモーションビデオだけど……撮影にはちょっと間に合いそうにないから。さすがに海で泳いだり激しい運動するのは、一ヶ月は控えないと駄目だって」

「ああ、そういうことか。それなら別に構わないよ。撮影は延期してもらえそうだから」

「えっ? そんなこと……」


 赤咲のそっけない言葉に、今度は桜が疑問を覚えた。急なスケジュール変更が出来るほど、余裕のあるスケジュールでは無いからだ。


「まあ普通だったらかなり難しかったんだけどね。事情が事情だからさ。社長が各方面に取り合ってくれてる。さすがにメインボーカルの桜が不在だとプロモ撮影も無理だしね」

「そっか。けど……いろんな人に迷惑かけちゃってるね。ドラマの方も大変な事になると思うし……」

「ドラマ……そういえば、連ドラって最終回はまだ撮影が終わってなかったんだっけ?」

「うん。もうすぐ撮り終わる予定だったんだけど……共演者やスタッフの人たちにも申し訳ないよ」


 気落ちし、いたたまれないような表情を桜が見せる。

 その桜の様子に、赤咲は優しく桜の手を握る。


「桜が悪いわけじゃないよ。誰も桜を責めたりなんてしないさ」

「そうかな?」

「ああ。むしろ心配してるぐらいさ。だから落ち込んでるより、もっと元気な様子を見せたほうが皆も安心すると思うよ」


 ゆっくりと諭すような口調で赤咲は桜に語りかけた。

 すると桜も落ち着いてくる。


「ありがとう斬耶。何だか楽になった気がする」


 そして満面の笑顔を赤咲へと向ける。すると今度は赤咲の方が動揺してしまう。


「っ? 礼なんていいさ。当然のことだよ」


 ようやく素に戻り、照れて顔が赤くなる。

 そしてそれを隠すために、思わず赤咲は視線を逸らし、話も逸らそうとする。


「そんなことよりさ。えっと……桜、昨日一体なにがあったんだよ? 部屋の中で待ってるって言ってたのに」


―って、俺普通に何聞いてるんだ? こんなこと聞くべきじゃないだろ―


 言ってから赤咲は気付いた。昨日の今日で事件を聞くなど、無神経にも程がある。

 だが、そんな赤咲をよそに桜は特に動揺した様子は見せない。


「えっ? 昨日でしょ。たしか……せっかくだから、少しでも早く斬耶を迎えようと外で待ってたんだよ。そうしたらね。突然後ろから男の人の、『桜ちゃん見つけた!』って声が聞こえたんだ。それでファンの人かなって思って振り向いたら、変な奇声みたいなのを上げて、桜を刺しちゃったんだ」


「刺しちゃったって……何だか軽いな」


 想像以上に落ち着いて事件を語る桜に、赤咲は拍子抜けしてしまった。


「まあね。意外と刺された被害者ってパニックになるか、そうじゃないなら回りの人以上に冷静かの、どっちかだと思うよ。それにさ。桜の場合、痛いって思う前に意識が遠ざかっちゃったからね。でもあの時は本当に死んだと思ったよ。けど……なんだったんだろうねあれ。ストーカーかもしれないけど、桜、全く見に覚えが無いんだよね。どうしてだろ?」

「ストーカーってそういうもんじゃない? 特にアイドルなら、見ず知らずの他人からも変な感情を持たれることもあるしね。実害が来るまでは気付かないのが普通だと思うよ」

「でも、いきなり刺すまでエスカレートするかな? 普通ここまでする前に無言電話とか、怖い手紙とかありそうじゃない? もしくは部屋に忍び込んでるとかさ」

「部屋に忍び込むのはドラマだと多いけど、実際はかなり難しいよ。桜の部屋はセキュリティがしっかりしてるから、家族でも本人に連絡無しに部屋に入るのは不可能なはずだからね」

「そっか。じゃあ、あれは普通にストーカーだったのかな」

「多分そう思うけど……でもそれは警察にはもう話したの?」

「うん。でもね。凄いんだよ。朝、目覚めたらいきなり警察が事件のことを聞いてくるんだからね。本当にビックリだったよ。あれ、もしも気の弱い子なら泣き出してるよ。絶対にデリカシーとか欠如してるよ」

「まあ警察は被害者のケアじゃなくて、事件の犯人捜しの方が仕事だからね。刑事ドラマみたいな人情溢れる熱血刑事は期待しない方がいいよ」

「うん。あれは本当にそう思った」

「まあでも、それならすぐに犯人は見つかると思うから、心配しないでゆっくりと回復に努めた方がいいよ」

「うん。そうだね。一日でも早く復帰したいし」

「そうだよ。俺も皆も桜を待ってるから」

「期待して待っててね」

「ああ、そうするよ。じゃあ俺はこれで」


 話のキリがいいところで赤咲が立ち上がる。

 あまり桜に負担を掛けないために、長時間の会話は控えた方が良いという配慮だった。


―告白も完治するまでお預けだな―


 そんなことを思いながら部屋を出て行こうとする。


「あっ、斬耶……」

「ん? どうした」


 そして部屋を出る直前。

 背中から桜の言葉が耳に届く。


「えっと……上手くいえないけど……斬耶も気をつけて」

「俺が? 俺はアイドルじゃないし、顔出しもしてないよ」

「そうだけど……何だか嫌な予感がするの」

「嫌な予感?」

「うん。何となくだけど……とにかく気をつけたほうがいいような……」


 桜の言葉は、具体性は無いが、不思議と赤咲の心に深く残る何かがあった。


―桜の勘か。気をつけるべきだな―


「そうか。……分かったよ。いつもよりはちゃんと注意して帰ることにするよ」

「約束だよ」

「ああ。俺が桜との約束を破るわけが無いだろ」

「……そうだよね」

「何だよ! 今の間は?」

「あはは。ごめんごめん」

「しょうがないな。じゃあ俺ももう帰るから、バイバイ」

「うん。バイバイ」


 桜の声を背に受け、赤咲は病室から退室していった。



更新です。

この物語も終幕でと近づいています。

最後までお付き合いください。

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