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キリングアート  作者: カルラ
17/22

第五話 キリング ノット アート その2

 翌日である。

 赤咲は昨日の決心が鈍らないうちに、桜へと連絡を取った。

 すると、都合のいいことに今夜の七時からは何の予定も無いとのことだ。

 多少の時間の前後は有るので、それを考慮し七時三十分に桜の家で会うことにしている。

 そして今は、待ち合わせ時間の約二時間前だ。

 今現在、赤咲の目の前には桜の親友である杏がいる。

 場所は、オープンカフェ。

 赤咲と杏は、テーブルを挟んで向かい合う形で座っている。

 杏の前には紅茶と、バニラアイスの乗ったシフォンケーキ。

 赤咲の前には、カプチーノとザッハトルテがある。

 話している内容はシリアスな内容ではない。

 どちらかといえば世間話といえる程度の内容の物である。

 二人の雰囲気も比較的明るいものだ。

 最も、赤咲には少しだけ思いつめたような表情が見え隠れしている。


「それで斬耶君。結局、桜ちゃんとはどうなったんですか?」

「いや……別にどうなったってわけでもないんだけど……」

「そんなこといって、結構大事だったんじゃないんですか? 恭子さんも巻き込んで、もうマリア5の一大事! みたいな」


 杏はいつも以上に明るいテンションで、興味津々という風に赤咲への質問を続ける。

 その杏の高いテンションには、赤咲も押され気味だ。


「いや、そんなわけじゃ……」

「私だけ蚊帳の外だったなんて、酷いです。恭子さんと桜ちゃんのトラブルで、陽菜が斬耶くんを焚きつけたんでしょ。私も絡みたかったのに」

「いや。それならミリアも同じようなものだろ」

「でもミリアちゃんは桜ちゃんと斬耶君とがいい感じのところで割り込んだって聞きましたよ。私も何か話に入りたかったのに」

「そうは言っても……」


 杏は赤咲に先日の事件の事を根掘り葉掘り聞いてくる。

 普段は引っ込み思案であるが、メンバー全員が関係したトラブルで一人だけ蚊帳の外だったというのは、杏にとって非常に面白く無いものだったのだ。

 そのため、こうして赤咲にことの詳細を聞きながら、半ば八つ当たり気味に色々とレポーター並みの追及をしてくる。

 しかしこういう杏の新しい面を見るのは、赤咲にとっても楽しい物でもあった。


「でもさ。その時杏はロケで沖縄に行ってたんだろ。しょうがないよ。別に誰も杏を無視したわけじゃないんだし」

「でも……」

「それにその細かい情報は、メンバーから知ったんだろ」

「はい。陽菜が大体教えてくれました」

「ならさ。今回は別に……さ。仲間外れってもわけでもないんだしさ。それにミリアも最後にちょっとかき回しただけで、結局は大して何かをやったってわけでも無いし……ちょっとタイミングが合わなかっただけさ」

「そうですか……まあいいですけどね」

「ああ。ところで……」


 話が止まりかけたので、杏の沖縄ロケの話へと話題を転換しようと赤咲が試みた、その時だ。

 赤咲の携帯電話から着信を知らせるメロディが鳴った。


「っと、悪いな」

「いえ。構いません」


 一度断ってから、電話に出る。

 相手は桜だ。


「あっ、斬耶? 桜です」

「ああ。うん。そうだけど、どうした?」

「待ち合わせ時間なんだけど……ちょっと遅れそうなんだ」

「そう? どれくらい?」

「ちょっと分からないけど……あと一時間もすれば終わると思うから、八時半なら多分大丈夫」

「そっか。うん。大丈夫。全然いいよ」

「ごめんね」

「謝る事じゃないさ。じゃまた」

「うん。またね」


 気にしてないと爽やかな感じで一度別れを告げてから電話を切る。

 すると杏が興味津々な様子で聞いてくる。


「ねえ。今の桜ちゃんでしょ。なんだったんですか!?」

「いや……今はまだ駄目だ」

「教えてくれないんですか」

「ああ。状況によってはだけど、伝えるべき時になったら、絶対に教えるから。でも今は駄目だ」

「……はい。そんな真面目な顔ならもう無理っぽいですから今日はいいです。でも、斬耶君。言う時になったら、絶対にすぐに教えてくださいよ」


 赤咲が真面目な表情を見せると、杏もあっさり引いてしまう。


「ああ、それは約束するよ」


 優しい顔で杏に告げる。

 それから一度、腕時計へと視線を移す。

するとまだ約束の時間まではかなりの時間があった。


―時間有るし、このまま雑談だけで時間潰すのも勿体無いな―


「……なあ杏。この後暇か?」

「えっ? 何ですか?」

「少し時間も出来たから、今からどっか行かないかと思って。それとも何か予定でも入ってる? それなら無理はする必要は無いけど」


 友達を誘うような、気軽な雰囲気で杏を誘う。

 すると杏は驚きつつも嬉しそうな表情を見せた。


「そんな。予定はないですけど……でもいいんですか?」

「誘ってるのは俺だし、良いに決まってるだろ。それとも都合悪い?」

「そんなことありません。それじゃどこ行きましょうか」


 赤咲の誘いに杏が応じ、二人は今後の予定を話し合う。


「どうしようか。杏はどこか行きたい所ある?」

「そうですね。映画にします? 今面白い映画やってるんですよ」

「ああ、例の全米で大ヒットしたアクション映画か。そういえばまだ見てなかったけど……杏ってああいう映画が好きなんだ。てっきりラブロマンスとかが好きだと思ってたよ」

「はい。熱い恋愛ロマンスも好きですけど、やっぱりアクションですね。映画は激しい方が好きです」

「そっか。じゃあ行こっか」

「はい」


 予定も決まり、二人は映画館へと向かう。


 それから約二時間後。

 二人は映画を見終え、椅子に座りながら楽しくしゃべっていた。


「面白かったな。あのビルからの脱出シーンは特に良かった」

「はい。爆発を利用しての大脱出とかもう燃えちゃいました」

「まさかマシンガンの弾幕をあんな感じで避けるなんて思わなかったぜ。あれ、絶対に物まねとかでネタになるよな」

「想像したら笑えますね」


 楽しそうに映画の感想を話している。

 二人共、映画を見るのは久しぶりだったのもあり、テンションもかなり高くなっていた。

 しばらくは、見たばかりの映画を話の種に楽しい時間を過ごす。

 そして更に五分ほど話し続け、ふと杏が思い出したように携帯を取り出す。


「そういえば、携帯の電源切りっぱなしでした。斬耶君も大丈夫ですか?」

「忘れてた。そういえば携帯切ったままだったな」


 杏に続き、赤咲も携帯を取り出して電源を入れる。

 赤咲の携帯にはメールの受信が一件入っていた。


―桜からか。何だろ?―


 メールを確認する。

 すると、メールの内容はこうなっていた。


『斬耶へ。桜だよ。お仕事早く終わったので、先に家で待ってるよ。斬耶の伝えたい気持ちって何かな? もしかしたら桜が喜ぶ話? きゃっ、恥ずかしいよぉ……でもね。何だか斬耶の気持ち、桜と同じだと思うよ。だから、期待して待ってるよ。出来るだけ早く来てくれると嬉しいな。それじゃ、待ってるよ  桜より』


 メールを見るや、赤咲は少し焦った表情を見せる。


「……悪い杏。ちょっと急用出来た。もう行くわ」

「えっ……ああそういえば用事があるんでしたね。桜ちゃんに会いに行くの?」

「そうだけど」

「そうですか……あのね。また今度……機会があったら遊んでくださいね」

「もちろんいいよ。じゃバイバイ!」

「はい。さようなら」


 赤咲は杏に手を振りながら別れる。

 そして、杏の姿が見えなくなると、走って桜の家を目指す。

 桜の家はこの場所からは決して遠くはない。

 急げば十分とかからずに着くだろう。

 しかし、赤咲は一刻も早く桜に会いたかった。

 あのメールを読み、今はこの想いを桜へと伝えたい。

 その想いがとても高まっていた。


―桜に伝えないと。もう待たせたら駄目だ!―


 急いで桜の家へと向かう。

 そして赤咲が全力で走り、わずか五分強程度で桜の住むマンションまで着いたとき。

 赤咲は奇妙な違和感を覚える。

 マンションの前に人だかりが出来ていたのだ。


―なんだ? この人だかり……この近くに桜が住んでるのがバレた? ……にしても、今時アイドルが近くに住んでいるぐらいでこんなに人が来るわけ無いし……なんだろ?―


 赤咲は首を傾げる。

 この人の多さははっきり言って、普通ではなかった。

 しかし、その原因が分からない。


―誰かに聞いた方が早いか―


 とりあえずと、赤咲は近くにいる一人の男性に声を掛ける。


「あの? 一体なにがあったんですか?」


 赤咲が質問をすると、男は興奮気味に話し出す。


「ああ。女の子が刺されたんだよ!」

「えっ!?」


 赤咲の顔から血の気が失せる。嫌な予感を感じたのだ。


「凄かったぜ。血がかなり出てさ」


 男は赤咲の表情の変化に気付かず、興奮気味に話す。

目の前で起こった事件に、サスペンスドラマのような興奮を感じているのかもしれない。

 男の言葉を聞きながら、赤咲は強い胸騒ぎを感じ取る。


―刺された? 女の子? 落ち着け。女の子なんていくらでもいるだろ。桜って決まったわけじゃない―


「えっ? あの……刺された女の子って……」


 震えるような声で男へと問いかける。すると男は人ごみの奥のほうへ指を指した。


「ああ。まだ倒れてるよ。誰か救急車呼んでたかな?」


 その言葉に、赤咲は自信の胸が早鐘を打つのを感じる。


―まさか……いや。落ち着け。告白を目前にナーバスになってるだけだ。関係ない。事件と桜には何の関係も無い―


 自分に言い聞かせながら、人だかりを潜り抜けながら、その奥へと進む。

 その倒れている少女が桜で無いと確認する為に。


―なあに。桜なわけがないだろ。ついさっきメールが届いたばかりだ。きっと、部屋の中で俺を待ってるはずだ。ちょっと確認して、桜じゃないと分かればすぐに部屋へと向かおう。時間はまだ大丈夫だし、焦る必要は無い。これはただの野次馬根性みたいなもんだよ―


 動揺を押し殺しながら進む。

 そしてしばらして人ごみを潜り抜け、倒れている少女へと視線を向ける。

 現場は想像以上に酷かった。

 かなりの出血量と、それを伴う血だまり。

 そしてその中心にいるのは、赤咲の最も見知った人物だ。


「……さ………く…………ら?」


 赤咲は頭が真っ白になるいうのを、その時に始めて実感した。

 これから想いを伝えようとした相手。

 鮮血に染まった蒼葉桜をその視界に捉えて、赤咲斬耶の世界は暗転する。


更新です。

急展開でしたがこれからノンストップでラストまで駆け抜けますよ。

お楽しみに

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