第四話 赤咲と少女たちの些細な誤解 その3
二日後。
この日、赤咲は一日オフの予定だった。
時間は昼を少し回っている。
でも赤咲はまだベッドの中。
もちろん、赤咲は基本的に規則正しい生活を送っている。
これだけ遅くまで寝ているというのは、赤咲にとっては非常に珍しいことである。
しかしそれにも当然理由がある。
昨夜、赤咲は夜遅くまで映像製作を行っていた。
時間が有るのを利用し、さらに、題材としてとても良い少女を捕らえる事ができたのも手伝って、非常にエキサイティングなショーを映像に収める事ができた。
非常に凝った中世の拷問を現代で再現し、あらゆる悲鳴を再現する。
つい眠る事すら忘れひたすらにその作業に没頭し、映像の時間は全長二十時間を越える超大作となった。
それだけ長時間も作業を行えば、当然疲れもたまる。
赤咲が眠りに就いたのは、既に朝日も昇ろうという時間だった。
「んっ」
時折寝返りを打ちつつ、幸せそうな表情を浮かべて睡眠をとる。
しかし、突如として赤咲の睡眠を脅かす音が寝室に響いた。
音の主は携帯電話だ。
次第に音が大きくなり、赤咲の意識を眠りの中から浮かび上がらせる。
「ん? 電話か」
眠気眼をこすりながら、赤咲は携帯を取る。
液晶ディスプレイには、『陽菜』の名前が映し出されている。
「陽菜か。何の用だろ」
ただのクラスメイトであればこのまま眠ろうとも思ったが、マリア5のメンバーからの連絡であれば、話は違う。
赤咲はすぐに通話ボタンを押して、電話に出る。
「はい。赤咲です」
「ちょっとっ!!電話に出るの遅すぎっ!!」
電話に出て早々、聞こえてきた言葉は怒声だった。
その声に、半分寝ぼけ眼の斬耶の頭も完全に覚醒する。
「ああ、悪い悪い。昨日は中々寝付けなくて、今まで寝てたんだ」
「はあ! 今何時だと思ってんの。少しは規則正しい生活しなさいよね。早死にするわよ」
「大丈夫だって。普段はもっとしっかりしてるさ。昨日は本当に色々とアイデアが振ってきて、これを形にしないとって思ってさ」
「そう。ならいいけど」
赤咲の弁解に、すぐに陽菜は引く。
こんな事は本題ではないので、さっさと引いたようである。
そして陽菜は、こっちが本題とばかりに、語気を強くして話し出す。
「それよりも……あんた恭子と何やってたの!」
「はっ?」
しかし、その問いは斬耶には要領の得ない問いだった。
なにをしたといわれても、恭子のドラマの手伝いをしたという以外に回答のしようがないからだ。
斬耶は正直にそう告げる。
しかし、その回答は陽菜の怒りをさらに強める結果となる。
「はぁっ!? なに? ドラマの手伝いをしただけ? 思いっきりキスしてたじゃない。あんたさ。恭子と付き合ってるの? そうでしょ。ラブラブなんでしょ! そうなんでしょ!!」
恭子の怒りの度合いは、話すたびに増加している。
「いや、違うよ。それは誤解……」
「言い訳は見苦しいわよっ! どうせ、普段から色々やってるんでしょ。もうここじゃいえないような、男女の事も色々とやってるんでしょ。ああいやっ! 不潔よ不潔」
「……」
赤咲は言葉が出なかった。
完全に頭に血が上っており、誤解だと弁解しようにも、それが全ていいわけに聞こえるようだった。
しかし、それと同時に、一つの疑念が赤咲の脳裏によぎる。
―幾らなんでも、ここまで怒るなんて……何か理由があるな―
赤咲はそう予測をつける。
「なあ陽菜。出来ればちゃんと話がしたいんだけど」
「なに? いいわけなら見苦しいわよ」
「言い訳じゃない。ただ……このことについて、一度お前と話がしたい。
「はあっ! 何を言って……」
「電話で話すことじゃないと思うからさ。一度、一対一で話がしたい。今出てこれるか?」
「今ならまだ余裕があるけど」
「じゃあ、事務所近くにあるファミレスで待ち合わせをしよう。今から三十分後だ。いいな」
「分かったわ。じゃあしっかり話を聞かせてもらうわよ」
「ああ。ちゃんと話すよ」
「ええ。待ってるわ」
そういって電話が切れる。
赤咲は通話が切れたのを確認すると、一つ溜息をついた。
「はぁ……参ったな。まさか陽菜に誤解されるなんて」
呟くが、それで事態が解決するわけではない。
「とりあえず着替えてから行くかな。遅れたら、また怒られそうだ」
憂鬱な気持ちを抱えながら、赤咲は服を着替え始めた。