第四話 赤咲と少女たちの些細な誤解 その1
少女の死の映像製作を終えて数日後。
赤咲はその後も毎日のように、少女を攫っては色々な試みによる死の実験を繰り返した。
殺戮も過程と手順と手段を変えれば、芸術となる。
それは赤咲にとって、新しい発見となった。
殺戮方法の模索は、赤咲の新しい事への挑戦をも促す。
古代の拷問方法なども調べ、その中から比較的面白く、芸術的と感じるものを見つけ出し、現代風にアレンジを加えて実験を行う。
もちろん、高校への通学は継続しているので、あまり長丁場となる実験は出来ない。
そのためにどうしても簡単に済ませられるものに偏ってしまう。
しかしそのような環境でも既に三度の映像制作を試み、結果も上々であり赤咲の製作に対するモチベーションは大きな向上を見せた。
もちろん今夜もいつもどおり、映像制作を行う予定である。
そのためにまず一度帰宅して、制服から私服へと着替えようと帰路を急いでいるときだった。
赤咲の携帯から、突如として受信をつげる着メロが鳴ったのだ。
―ん? 恭子からか―
赤咲の携帯は呼び出し音で着メロを変えているので、携帯のディスプレイを確認する前から、呼び出した人物が誰かは分かる。
赤咲は迷わずに携帯に出る。
「もしもし、赤咲だけど」
「ふふふ、私よ」
電話の声はミステリアスな雰囲気を醸し出している。
なので赤咲もそれに付き合うことにした。
「私って誰だ?」
「私は私よ。ねえ赤咲……私困っているの。わけの分からない組織に追われていて……指定の口座に五百万振り込まないと私……私」
突如として声色と変えて、悪ふざけモードへと入る。
その芝居には赤咲も付き合いにくく、素で返してしまう。
「……おーい恭子。さすがにそのネタは古すぎるぞ。あと……組織って何だよ組織って……」
「あら? もう少しは付き合ってくれると思ったのにもうおしまい? ノリが悪いわよ」
「ノリが悪いって……大体組織ってどういう組織なんだよ?」
「組織は組織よ。世界征服を企む悪の組織。更なる詳細を語ってもいいけど、多分一時間じゃ終わらないわよ」
「じゃあいいわ。用が無いんだったら切るぞ」
赤咲はツッコミ気味な口調で返して、電話を切るフリをする。
「待ちなさい。用ならあるに決まってるじゃない」
それには恭子も少しだけ慌てた口調になってしまう。
「なら、先にそれをいえよ。何、つまらないギャグを俺にやらせるんだ」
「ふふふ。私とギャグをやれるなんて、とても栄誉なことよ。誇りなさい」
「あー、何だかもうどうでもよくなってきた。もう切るな」
「駄目よ。切ったら呪うわよ」
「怖い事いうなよ。大体用って何だよ。さっさと言え」
「電話で話せることじゃないわ」
「……つまり今から会いたいと」
「ええ、察しがいいわね」
「……待ち合わせ場所はどこがいい」
「そうね……最近流行りの、あのお洒落な喫茶店にして頂戴。前にも行ったと思うけど、フランス人パティシエがケーキを作っている綺麗な喫茶店よ。覚えてるでしょ」
「あそこか。まあいいけど……時間は?」
「大体三十分後ぐらいね」
「分かった。それじゃ」
「ええ、バイバイ」
恭子が電話を切るのを確認すると、赤咲は溜息を吐く。
恭子が待ち合わせを指定した場所は、ここからは距離がある。
もちろん待ち合わせ時間に間に合わないわけじゃないが、家に帰っている時間は無い。
「制服のままで行くしかないか」
赤咲は溜息混じりに道を引き返し、待ち合わせ場所の喫茶店へと向かうのだった。
新章スタートです。
少しの間コメディが続きます。