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キリングアート  作者: カルラ
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プロローグ

地下室に少女の悲鳴が響き渡る。

圧倒的なまでの痛みによる苦痛と恐怖に満ち溢れた悲鳴。

悲鳴の主である少女は幼く、年齢はまだ十にも届かない。

そしてその幼くか細い四肢はベッドの上に大の字で磔にされている。

拘束する糸は真紅に染まっている。一矢纏わず剥かれた姿は何もかもを隠さず、目の前に立っている男にその全てを晒している。

男の顔つきは端正が取れた非常に美しい顔だ。

雰囲気からはまだまだこれからという若さが感じ取れる。年齢は十五~十八程度の高校生程度だろう。

だが、その男の両手に持っている物。そして口から紡がれる言葉は、その外見からは大きく乖離したものである。

右手にアイスピックを持ち、極めて明るい表情で冷たい言葉を紡ぎ出す。


「いい悲鳴だ。とても素晴らしい。やっぱり悲鳴は幼い少女が一番だな。あまり年齢のいった女ではまずそんな良い悲鳴は貰えない。それに比べて小さい女性は表現も素直で真っ直ぐでとても可愛い。でもその中でも特に君は素晴らしい。そんな良い悲鳴は今まででも中々聴いたことが無い。それにアイスピックの先端が刺さる時の表情もとてもいい」


嬉々とした様子で更にアイスピックで腹部や肩、腕や足にも突き立てる。

それは不規則な用で見えてとても規則的だ。

アイスピックでつけた傷口はある種の目印のようでもある。


「大体の目安はこれぐらいかな? 後は……これか」


アイスピックを脇に置いて、次に小型のトンカチと杭を使って目印の周囲の加工を行う。

その姿は匠の職人のようでもある。


「あっ、いっ、あああぁぁ」


少女の悲鳴は既に形は無く呻くのみ。

だが、その様子にはほんの少しばかり男も残念そうである。


「あれ? 反応が悪いよ。せっかくこの部屋の新しいオブジェになれるのに。それに今回は今までの中でも特に良い出来だ。君を使ったオブジェはこの部屋の中でも特に目立つ位置に置いてあげるよ。だから喜んで」


男はそういって、背後にある無数のオブジェへと目を移す。

それら全てが彼が誠心誠意、力を込めて一から作り上げた逸品である。

だが、悲しいかな。少女にはそれは理解出来ない。

自らを襲う激痛と恐ろしいまでの恐怖。

それについて考えるだけで頭がいっぱいだ。


「しょうがないな。でもこうすればちゃんと反応出来るよ」


男は優しそうな声で少女の指先に釘を突き刺した。

爪を割り、真紅の液体が飛び散る。


「あっ!! いやあああああぁぁぁぁ!!!!!」


大きな悲鳴が上がる。

マンネリな腹部への激痛にプラスして、神経の集中する指先へと放った強烈な痛みという名の刺激。

それは沈み行く意識を浮上させるには充分な物だった。


「よしっ! やっぱり君の悲鳴は大きい方がいいよ。控えめな女子の方が好きって人も多いけど、ある程

度は自己主張もしないとね。その方が君の雰囲気にも合ってるよ」


男は満足した表情で再び創作へと移る。

少女も意識が完全に覚めてしまった為に、悲鳴は大きく響き続ける。


「凄くいい悲鳴だよ。表情も怯えがはっきり出ていて最高だ。それだけされたら僕も負けていられないな。君に負けないように、絶対に凄く良いものを完成させてみせるぞ!」


悲鳴に触発されて、更に集中力も増し男の作業は続く。


そして、不眠不休の作業が四十時間を越えたあたり。

遂に新たなオブジェが完成した。


「やった! 遂に完成だ。凄い! これは完璧だ」


男は達成感に満ち溢れた笑顔で完成したオブジェを見つめる。


「うんうんうん。やっぱり思ったとおりだ。君は凄いよ。これで君は素晴らしい芸術品として永遠に生き続けられるんだ。おめでとう」


オブジェへと声を掛ける。

だが、それは既に人ではない。人であった何か。人の原型は留めていない。

でも、何かその歪な形のオブジェは不思議と芸術的ですらあった。


「そしてありがとう。俺にこのような芸術品を作らせてくれて。俺の芸術にその身を捧げてくれたこと、本当に感謝する」


男は厳かに人であったオブジェへと一礼を捧げた。


さて、ここで改めて部屋の中を見渡してみよう。

部屋は比較的、広い造りとなっている。

照明も数多く備え付けており、地下室でありながら充分な明るさを保っている。

では部屋の中にはどのような物があるのか。

この部屋に備えられている調度品。

それら多くはこの男が作った人間を基にした作品である。

先ほどの少女が磔にされていたベッドも、表面は人の皮で作られている。

拘束していた糸も腸を細かく裁断して作った物だ。

現在の部屋に置いてある百を超える数の芸術的なオブジェの全ては人間を基に制作した物である。

そして日用品の七割ほども、人間を原材料として作られている。

食器はもちろん、椅子や机も人間が材料となっている。

これだけの物を造るのに、費やした人間の数は三百を超える。

製作期間も二年以上にのぼる。


けれど男の創作はこれだけではない。

一礼を終えると、隣の部屋へと向かう。

その部屋は先ほどとは大きくイメージが異なり、内装は非常に落ち着いた印象を与える造りとなっている。

グランドピアノやヴァイオリンといった楽器が置かれており、いかにも音楽家といった感じの人物をイメージさせる部屋である。

男はピアノの前に座ると、蓋を開けて鍵盤を見つめる。


「いい刺激が貰えた。これなら新曲も最高にエキサイティングな物が出来上がる。よし、頑張るぞ」


自分に対して一喝し、集中力を高めて黒と白の鍵盤へと指を走らせる。

美しい指の動きで、聞くものの魂をゆさぶり、多くの物を幸せにする旋律を奏で、一曲の芸術品へと仕上げる。


この男の仕事。

それは作曲家である。

現在は大人気アイドルグループへの作曲を主な仕事をしている天才高校生プロデューサー。

それが彼の姿だ。

至高の旋律を生み出し、それに言葉を載せて、美しく才能溢れる若い女性達が歌う。

その過程を経て、一つの芸術的な音楽が完成する。

彼はその芸術を生み出す最初の工程を作るためにピアノの鍵盤を叩き続けた。


作業は六時間程度で完了する。

既に先ほどのオブジェの作成でいい刺激を受けた事もあり、先程よりも大幅に短い時間で作業を終えた。


「完成か。次の曲は今までとは大きく雰囲気を変えたが……これなら大丈夫だ」


男は自信を持った顔でピアノから立ち上がる。

そして、作業を完全に終えると疲れが一度に押し寄せたのか、体が大きく揺れる。


「さすがに徹夜は無理があったか。寝よう」


男は着替えるとすぐにベッドへと向かい、眠りへと入る。

その寝顔は、歳相応の普通の男であった。


アイドルグループへ対するプロデュースと作曲活動。

そして少女を基にした歪なまでに残酷なオブジェを作り出す創作活動。

二つの全く異なる芸術活動を平行して行う男がいる。

これは、これだけの物を創造し続ける一人の男、赤咲斬耶(あかさききりや)の物語である。


プロローグです。

今後順次公開していく予定です。

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