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プロローグ

 


「やだ!見てエドワード様よ!」

「きゃー!いつ見ても麗しい」

                         

                        

 物陰から黄色い侍女たちの声を背に、エドワード=エド・アルビノン公爵子息。現在は伯爵の位を賜っている彼は、国王に呼ばれて謁見の間へと急いでいた。

 右に流したプラチナブランドが、窓から差し込む陽の光によってさらに輝く。澄み渡る、青空のような瞳は長い睫毛のなかで煌めき、濃紺のベルベットのコートをひらりとはためかせ、今日も女性を虜にしていた。

 その後ろには護衛でもあり幼馴染でもある、アンセム=アディ・フランソワ子爵が、イタズラっ子のように赤い瞳を細めて笑う。

「エドワード様は、今日も一段と輝いておられますね」

「うるさい。黙れ」

 声を低くして、エドワードは彼を睨みつけた。

 それに両手を軽くあげてアンセムは苦笑する。その仕草がさらに馬鹿にしているように見えるのは、エドワードの気のせいではないだろう。昔から人を小馬鹿にしたようなところがあるのだが、エドワードの秘密を知る限られた人でもあり、唯一の親友とも呼べる相手であるのだ。

「それにしても、急な呼び出しでしたね」

 謁見の間へと続く長い廊下を歩きながら、アンセムは首を傾げだ。

 それは、エドワードも不思議だった。

「ああ。何か急用があったんだろう」

 エドワードとアンセムは、もともと今年13歳になるリリアンヌ王女の親衛隊、隊長と副隊長の間柄だ。その関係で呼ばれたのではないかと、エドワードは考えていた。

 そうじゃなくても、答えはもう目と鼻の先だ。考えるまでもないだろう。

「ま、何事もなければいいですがね・・」

 人目があるから普段の砕けた喋り方じゃないのが、エドワードをなんだから不安にさせた。

 長い廊下を終えて、見えて来た豪奢な金と赤でできた大きな扉は、衛兵である2人の騎士によって重々しく開いたのだった。







 扉を潜り抜け赤いビロードの絨毯が王座まで続く。

 大理石でできたその謁見の間は、エドワードの歩く足音しか響かない。

 護衛であるアンセムは、入ってからすぐに右側で待機している。これ以上、彼は王へは近づくことを許されていないからだ。

 両脇には陛下の親衛隊である、精鋭揃いの騎士が立ち並び、真ん中を畏怖することなく歩いて行くエドワードは、ある意味強者であるだろう。

 ようやくたどり着いた王座をまえに、エドワードは片膝をついて、最上級の礼をとった。

「陛下におかれましては、ご機嫌麗しく。エドワード=エド・ハワード、陛下に呼ばれ参上仕りました」

 ハワードとは、伯爵の性である。兼ねてから活躍をしていたエドワードに、陛下がアルビノンの爵位を継ぐまでの間、ハワード伯爵という爵位を献上してくれたのだ。

 それは歴代にないことで、エドワードは若干17歳で一目おかれる存在である。

「ああ、エドワード!その堅苦しい挨拶は必要ない。面をあげよ!」

 焦れたような壮年の声に、エドワードは言われた通り玉座を見上げた。

 豪奢な赤い椅子に腰掛ける彼ーーグラナシオ=ジオール・サニファン・アラフォーディオ国王陛下その人だ。

 美しく伸ばされた黒髪を後ろで1つに纏め、紫紺の瞳を持つ年の割に美しいその人は、アラフォーディア王国の唯一無二の存在である。

 それはそれは昔は美丈夫だったグラナシオは、歳をとってシワを増やし、さらに磨きがかかったと、世のご婦人の中では有名な話だ。さらには、エドワードと年の近い娘が、陛下の妃になりたいとまでいう始末。

 昔はむかしで大変だったらしいが、今はいまで大変な気がする。

「エドワード、久しぶりですね」

 こっそりため息をついていたエドワードは、陛下の左側に立つ、これまた美しい人に視線をよこした。

「お久しぶりでございます。リーリア様ご機嫌麗しゅう。今日もお美しい(かんばせ)でいらっしゃる」

 金の瞳と、茜色のふわりとした髪をもつリーリアは光の妖精と呼ばれ、社交界の花であった元、リーリア=リー・シャーロン侯爵令嬢である。今は、グラナシオの正妃を務め、愛妻家と名高いグラナシオの唯一の妻だ。

「あたりまえだ、エドワード。リーリアは外見だけじゃなく中身も美しい」

「もう、陛下ったら」

 自分の妻を褒めちぎるグラナシオに、ほんのりと頬を染め恥じらうリーリアに、エドワードは苦笑という名で流すしかない。

 たまに宰相閣下である、シュロ=シン・ディオス公爵が仲が良すぎていたたまれないと、愚痴をこぼしていた。

 と、そこまで考えて、エドワードは不思議に思い首を傾げた。

 普段、右側に立てる側近の彼がいないのだ。

「ディオス閣下はどうされたのです?」

「ん、?ああ、奴は今大事な任務を任せてある」

「はぁ、そうなのですか?」

「ああ!まあ!気にするな!」

 グラナシオにどこか無理やり納得させられ、渋々頷く。

 あまり追求されたくないのだろう。

「ところで陛下、今日はいかような要件で呼ばれたのでしょうか?」

 そういうことならと、エドワードは話を本題に移すことにした。

 うむと、(うさうや)しく頷いて、グラナシオは口を開いた。

「リリアンヌの親衛隊隊長の任を解き、明日からエセルバートの側近に命ずる」

「・・・は?」

「だから・・」

「はいぃいぃいいいいぃいい?!」

 頭で理解するより、身体が反応し反射的に立ち上がったエドワードに驚くグラナシオに、その横で花が咲いたかのように微笑み続けるリーリア。

 ひくりと頬をひきつらせるエドワードは、もう卒倒寸前であった。



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