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クズ女の一日A(2)

移動した先ではキモ面田口がせわしなく目をキョロキョロさせていた。挙動不審も良いところだ。恵は田口の席とは正反対の方に顔をやっていた。これ以上こいつの姿を見ていると気分が悪くなる。恵と田口は一言も会話もしないまま、二時間目の授業である美術がスタートされた。


今回の美術は、三日ほど前から製作を開始した、版画を作る時間だった。恵は授業の間、頻繁に雪子の席のほうに目をやっていた。その結果、雪子が隣の伊藤と時々会話をしていることがわかった。


トーク内容もわからず二人揃って、版画の作業に必死でお互いの顔を合わせてはいないのだが、双方ともに口を動かしているのでなにか話をしているのは間違いない。しかも心なしか二人とも少し笑みを浮かべているように映って見えた。


お前がイケメンと口を利くんじゃねえよ。恵は小学校のときから使っている彫刻刀を強く握りしめた。自分の拳がわなわなと震えてる。もう良い。見ていて不愉快だ。恵は視界を机の上に戻し、美術の時間の終了を知らせるチャイムが鳴るまで一心不乱に版画作りに取り掛かった。


二時間目の授業のあとは休み時間だ。恵は自然の内に自分の席に集まった凛、雪子とお喋りをしていた。


「雪子良かったね。イケメンの伊藤の隣で。さっきの版画のとき、なんか色々と話してなかった?」


凛が雪子に視線を向けながら言う。雪子は少し気恥ずかしそうにしながら口を開いた。


「う、うん……。伊藤くんの方から話しかけてきてくれて。倒れてたハトを助けるって優しいねとか、俺だったら面倒だから見かけてもムシしちゃうかも。とか……」


「はぁー。結構フレンドリーな口調だったんだね」


「そ、そうだね。でも……」


雪子の表情が暗いものとなった。


「私あんまり上手く受け答え出来なくて……。そうなんだ、とかふーん、とかぐらいしか言えなかったんだ……」


「そっか。雪子、あんまり男と話したことないんだっけ?」


凛の問いに雪子がうなずく。


「そう。まともにしゃべったことあるの、お父さんと弟ぐらいかな。あ、あとは学校の先生ぐらい」


「うーん。それじゃあ同世代の男との会話は緊張しちゃうかもね」


腕を組みながら凛はつぶやいた。なんとも悩まし気な顔をしている。


「あの……凛ちゃん、なにを考え込んでいるの?」


雪子がオドオドした様子で凛に尋ねた。凛は目をキリッとさせて答えた。


「いや、雪子と伊藤との仲を良くさせる方法を熟考してたんだけど」


「ええ?なんでそんなことをしようとしてるの?」


「だって、向こうから話しかけてきたんでしょ?だったら伊藤と仲良くなれるチャンスじゃない。親しい男が出来たら、今までほとんど経験したことのない異性との会話も増えるだろうし」


「別に私は男の人としゃべりたいわけじゃ……」


「ああ、ごめん、もしかして余計なお世話だったかな?」


凛は申しわけなさそうな表情をした。雪子は大きくかぶりを振った。


「ううん。そんなことないよ。ただ……。仲を具体的にはどういう………」


「だからそれを今熟考してたんじゃない。恵、なんか良い案ない?」


話を振られ、恵は答えに窮した。なぜこんな女に協力せねばならんのだ。恵は「そうだねぇ……」と思考を巡らせてるフリをした。こんなことで頭を使いたくない。


しばらくして、必死に考えましたけどダメでしたという感じを意識しながら恵は言った。


「ごめん。私バカでアホだからなにも思いつかないや」


「恵ちゃんはバカなんかじゃないよ。成績とか私より全然良いし……」


雪子がこちらに目をやりながら告げてきた。続けて凛が同意を示してくる。


「そうだよ。賢いじゃん恵は」


私は別に本気で自分のことをバカだと思って今の言葉を口にしたわけじゃない。ただそう言ったほうが今の雪子たちみたいに、私のことを褒めてきてくれる。それが非常に心地良い。例えその賞賛してくる相手が、大嫌いな雪子だったとしてもそれは変わらない。


「ふーん、そうかな」


恵は快感を覚えながら小首をかしげて見せた。それに対し、二人とも大きくうなずいてきた。全身が幸福で満たされていく。そう実感出来た。


恵が今日、一番の良い気分になったとき、休み時間の終わりを告げるチャイムが鳴った。雪子と凛が自分の席に戻っていった。恵は上機嫌の状態のまま、三時間目の授業を受けた。しかし四時間目の授業が終わり、昼食の時間を迎えたころには恵はまたしてもいらつきを覚えていた。


恵は母親に作ってもらった弁当を食べ終え、雪子の席に視線を移した。雪子は生意気にも食事を取りながら、あのイケメンの伊藤と二時間目のときよりも親しげに会話をしている。だんだん二人が仲良くなっていっている証拠だ。恵にとっては非常に忌々しい光景だった。バカみたいに笑ってやがる。雪子をにらみながら恵はつぶやいた。


昼食の時間が終わり、二度目の休み時間が訪れた。先刻の様に雪子と凛が自分の席にまで足を運んできたので、恵は二人と会話をしていた。


「雪子、なんかさっきよりも伊藤と仲良くなってない?」


凛が問いかけた。


「うーん……。そうだね。さっきよりはちゃんとコミニュケーションは取れてる……と思う」


雪子が自信なさげな口調で返答する。


「どんな会話してたのさ」


恵は頬杖をつきながら聞いた。


「えっと、その……。趣味はなに?とか最近なにか面白いことあった?とか聞かれて……。一応それに対して、料理ですとか、昨日下校途中で変な格好をしたおじさんがいて、それが面白かった。とか答えて」


雪子はそこで一旦言葉を区切って、また喋り出した。


「私も彼とまったく同じ質問をしたら、『身体を動かすこと』とか、『なーんにも面白いこと起きないんだよね。退屈の極みって感じ?」って返されたよ」


「うんうん、それで他にはなにか言われなかったの?」


凛が期待の色を漂わせた。


「その。実は……」


雪子は目を泳がせ、頬をほんのり赤く染めたのち答えた。


「実は良かったら今日一緒に帰らないか?って誘われちゃって」


「へぇ、すごいじゃん!」


凛が急にテンション高めの声を上げた。身を乗り出して興味津々といった感じだ。


「お互いの家の場所を話したら結構近所ってことがわかったから、帰り道が同じなんだし一緒にどう?みたいな……」


「すごいじゃん、すごいじゃん」


凛がすごいじゃんを連呼する。国語の成績がイマイチな彼女らしい感想だった。


「それ言われて私頭の中が真っ白になったの。だから自分でもわかるくらい、めちゃくちゃ動揺しちゃって……。なんとか一言『わかりました』って答えるのが精一杯だったんだ」


断れよ、ブス。恵のそんな思いを知る由も無い雪子が話を続ける。


「だから今日は二人で自転車で帰ることに……」


「すごい、すごい!やったじゃん!」


凛はもう自分のことの様に、満面の笑みを浮かべて叫んだ。ちょっとうるさい。隣で黙々と本を読んでる田口がビクつくぐらいに大きな声だった。


「うん、それで伊藤くんも帰宅部だから、今日は授業が終わったらすぐに帰るんだ、ごめんね」


恵、雪子、凛の全員ともに部活には入っていない。つまり伊藤と同じ帰宅部だ。だからいつもは、三人で放課後の教室でたわいもない会話をしていたりしたのだが……。


「そっか、そっか。それじゃあしょうがない。今日の放課後は恵と二人でガールズトークしとくよ」


「うん。本当、ごめんね」


雪子が謝罪の言葉を口にした。ざけんな。すまないと思っているなら、今からでも遅くない。伊藤に『やっぱり一緒には帰れない』って断ってこい。今すぐ、即刻、速やかに。


「良かったじゃん、雪子。伊藤と一緒に自転車で帰れるなんて羨ましいよ」


恵は本心を悟られないよう努めながら雪子に話しかけた。雪子は照れ笑いと思われる表情を浮かべた。


「あ、ありがとう。恵ちゃん」


「じゃあ、頑張りなよ。雪子」


凛が雪子の背中を軽く叩きたながら言う。雪子は困惑顔になり尋ねた。


「なにを頑張れば良いの?」


「そりゃあ、まあ色々……ね?」


凛が恵を見やった。恵はなにも言わず雪子を見つめた。


「え、え?なになに?」


雪子が当惑しきった様子でオドオドとしている。


「フフ、まあ、いいや。取り合えず本当に良かったね。雪子」


凛が優しい口調で告げる。と、同時に休み時間の終了の合図であるチャイムが鳴った。二人は自然の内に自身の席に帰っていった。


五時間目の授業は体育だ。男子はこの教室で体側着に着替えるが、女子は別の空き教室で着替えを行う。というわけなので早々に女性陣たちが教室を出ていく。当然、恵も廊下に出る。そして思わずニヤついてしまった。この体育の時間で、伊藤と一緒に下校するという雪子の約束を台無しにする行為を行う。いやあ。今から楽しみだな。恵は笑うのを堪えながら空き教室へと歩いていった。

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