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子どものいる風景 ~スーパーの少年~

作者: 成井隆

 週一度のスーパーでの買い物は、カートを押すのが私の役割になっている。

 いつものように、野菜売り場から回り始めた。日曜日ということもあって、スーパーの食料品売り場は混んでいた。

 三年生くらいだろうか、少し太り気味の男の子がカートを押して私の横をすり抜けた。妹らしい女の子が一緒だった。二人はじゃれ合いながらカートを進めていた。

 その後ろから母親がついていく。母親は棚から品物を手に取っては、連れの女性とあれこれ意見を交わしている。二人の意見が一致した物は、少し先を行く息子を呼びとめてカートに入れていく。連れの年配の女性は少年たちの祖母らしい。女性たちは品選びに一所懸命である。

 少年と妹は、じゃれ合いながらカートを押している。そのじゃれかたは、決して周囲に迷惑をかけるほどのものではなかった。むしろ、ほほえましくも感ぜられた。  


 母親が、ふと、

「あら、おばあちゃんはどこにいっちゃったのかしら?」と言った。

 祖母らしい人はそこにいるのだから、<おばあちゃん>とは、少年たちにとって曾祖母に当たる人なのだろう。

「〇〇、さがしておいで」と、母親が少年に指令を出した。

 妹とじゃれながら歩いていた少年は、押していたカートを妹にそっと渡した。妹は、ごく自然にそれを受け取った。そして少年は、ひいばあちゃんの捜索に向かうべく、人混みに向けて一歩を踏み出した。

 捜索に向かう少年の口から出た言葉は、「いやだなあ」でも「分かったよう」でもなかった。歩き始めた少年の口から出ていたのは、ある童謡のメロディにのせた「まいごの まいごのひいばあちゃん・・」という替え歌だった。

 とっさに思い浮かべたのであろうか。

 可笑しかった。私は思わず吹き出しそうになるのをこらえた。


 魚売り場の近くで、ひいばあちゃんの手を引きながら歩く少年の姿が確認された。ひいばあちゃんは、買い物カゴを片手に、しゃんとした姿勢で歩いていた。

 二人の後ろ姿を見送りながら、私は、

「まいごのまいごの・・」と、とっさに反応できるこの少年の素朴な性格と、これからの成長を想像して、いい気分になっていた。

 そのとき背後から、私を()かす妻の声が聞こえてきた。      


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