ああ嘆いてくださいませ
閲覧注意です。救いは一切ございません。すっきりどころかもやっとします。
ああ嘆いてくださいませ。
わたくしの声で、唇で、指で、胸で、足で、この体で。
めちゃくちゃに蹂躙して、ぐちゃぐちゃにかき混ぜて、どろどろに蕩けて、
昇天するほどに満足してくださいませ。
わたくしの声は心地よかったでしょう?
震えて涙に詰まりながらも甲高くあられもなく荒げて。
わたくしの唇は柔らかかったでしょう?
冷たい棘を温く湿らせて艶めかしく舌で舐めあげられて。
わたくしの指は心地よかったでしょう?
逞しさに跡を残そうと薄い色の爪に力なく引っかかれて。
わたくしの胸は柔らかかったでしょう?
豊かで弾力があって鋭い牙を滑らかに包みあげて。
わたくしの足は心地よかったでしょう?
緩く巻き付き導くように甘い蜜を滴らせて。
わたくしの体は堪らなかったでしょう?
激しく貫かれて熱い欲望をすべて受け止めて。
だから、今度はわたくしの番。
あなたの耳に囁いてあげる。あの日あなたがわたくしに向けた残酷な言葉を。
あなたの唇に押し込んであげる。あの日あなたがわたくしに舐めさせた冷たい刃を。
あなたの指に掴ませてあげる。あの日あなたがわたくしに触れさせたむき出しの腕を。
あなたの胸に落としてあげる。あの日あなたがわたくしに刻んだ絶望を。
あなたの足に流してあげる。あの日あなたがわたくしに滑らせた赤い雫を。
あなたの体に教えてあげる。あの日あなたがわたくしにもたらした最期を。
何の変哲もない毎日が続くと思って溜息を吐きながら帰路に着くわたくしを脇道へと引きずり込んで、悲鳴を上げさせないように口を手で塞ぎ、バランスを崩した体を立て直すことを許さずに何処とも知れぬ暗がりへと押し込んで、硬いコンクリートの床に背中から叩きつけられて、あまりの痛みに衝撃に動けなくなったわたくしに馬乗りになって、「お前が悪い。俺を裏切った。俺を好きなくせにあんな奴と寝やがって。これは当然の報いだ。お前が悪い。馬鹿なお前が悪い」そんな意味の分からないことを言って、微かな光源でもギラつく大振りなナイフを舐めさせて、恐怖を煽る動作から逃れようと首を掴んだ太い腕に必死で爪を立て、覚えのない怒りをさらに募らせ、わたくしの服をナイフで切り裂いて、高く悲鳴を上げたわたくしに興奮して、上着もスカートもブラも下着も勢い余って脚も引き裂いて、泣き叫んだわたくしの体を見下ろして、狂気に澱んだ目を血走らせ、獣のように叫びながら鋭いナイフを振り下ろして、乳房を、下腹を、何度も何度も突き刺して、腹を、胸を引き裂いて、引きずり出した腸を、内臓を、切り刻んで、筋肉の痙攣でびくびくと動くわたくしを醜く惨たらしく微塵にばら撒いた。
だから、今度はわたくしの番。
のうのうと生きているあなたを呪いましょう。
いつでもどこでも逃げ場なんてないとその愚かな脳に刻み付けてあげましょう。
わたくしの声を覚えているでしょう?
とてもとても痛かった。ひどくひどく痛かった。あなたのことなんて見たことも聞いたこともないのに、面識のない赤の他人なのに、何の勘違いをしてわたくしに好かれているなんて思い上がっていたのと聞くことの出来なかった言葉で蔑んであげる。
わたくしの唇を忘れていないでしょう?
新色のリップに彩られ、煌くグロスで艶めいて濡れた色をギラつくナイフに触れさせて、冷たい刃を舐めさせた。塞ぐことしか出来なかったのねと見せつけて上げる。
わたくしの指を覚えているでしょう?
綺麗に手入れされてネイルを塗った可愛らしい爪で少しだけ削った腕の皮膚。握ることも出来なかった手で今度はもっと深くえぐり取ってあげる。
わたくしの胸を忘れていないでしょう?
大き過ぎず小さ過ぎず形よく整った豊かな実り。飾ったブラは刺繍が丁寧で美しくて、とても高かったのに、あんなに乱暴に外されて悔しかった。触れることも出来なかった柔らかさを堪能させてあげる。
わたくしの足を覚えているでしょう?
細く長く適度な肉が付いたしなやかさに無粋な傷をつけて赤い錆色で汚した。床を擦ることしか出来なかったとがったヒールで踏んであげる。
わたくしの体を忘れていないでしょう?
日に焼かれず傷一つないまろやかで白く透き通った肌を見るも無残に突き刺し、引き裂き、切り刻んだ。
見ることしか出来なかった姿態に釘づけにしてあげる。
ねえ、準備は良いかしら?名前も知らない誰かさん。
ものすごくものすごく愚かなことをしたお馬鹿さん。
わたくし、おとなしい子に見えるとよく言われるの。でも、お生憎ね。とても嫉妬深くて怒りっぽくって昔蛇みたいだって言われたことがあるの。可憐な女の子を捕まえておいて蛇に例えるなんて失礼しちゃうわって思ったけれど、いまなら間違いじゃないわねって笑って頷いてあげられるわ。
ねえ、わたくしを嬲り殺した名前も知らない誰かさん。
今更謝ったって許してあげないわ。だってあなたは理不尽にわたくしを突き刺して引き裂いて切り刻んで恥ずかしい臓物まで晒させて、醜く惨たらしく凄惨に殺したの。
だから、今度はわたくしの番。
あなたが私にかけた時間の倍以上をかけてゆっくりゆっくり残酷に凄絶に醜悪に呪ってあげる。
誰もが目を背け、顔を覆い、恥も外聞もなく泣き喚いて逃げ出し、吐き戻し、震えて崩れ落ち粗相をするほど恐ろしく、あなたを飾ってあげる。
嬉しいでしょう?だってあなたはわたくしを好きなのだから。わたくしに構われて嬉しくて仕方ないでしょう。
愉しみにしておいてね。あなたは外側からわたくしを殺したから、わたくしは内側から殺してあげる。
あら、泣くほど喜んでくれるのね。でも待ちなさい、どこにもいかせないわ。
わたくしを何処とも知れぬ暗がりで殺したあなたの死に場所は太陽が燦々と降り注ぐ人通りの多い交差点の真ん中。世界で一番不可解で汚らしい姿を晒して頂戴。
ああ嘆いてくださいませ
わたくしの声で、唇で、指で、胸で、足で、この体で
めちゃくちゃに突き刺して、ぐちゃぐちゃに引き裂いて、どろどろに切り刻んだわたくしの手で、
わたくしにしたことを後悔しながら、地獄に堕ちてくださいませ。
最近の報道とかホラーものを見ていて出てきてしまった真っ黒け。
こんな現実も非現実も勘弁願いたいところであります。