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九話《実は幽霊の変人》

 今、僕たち二人は、ある場所へと向かっている。

その場所は、町では有名で、そこを通れば、大抵の人は驚き、足を止める。

思わず写真を撮る人も続出し、一時は一種の観光スポットのような扱いをされていた。

そんな場所へと、向かっている。

通称、黄金邸。

名の通り、金……完全な純金だけを使って作られた豪邸である。

町の皆からは、金持ちのおふざけ。などと言われている。

その輝きは人々を威圧し、純金の豪邸などという余りにも泥棒が狙いそうな場所だというのに、今まで入った泥棒は一人、たったの一人だそうだ。

まぁその一人も相当、凄腕だったのだろう。

三年、三年という月日が経っているというのに、まだその犯人は捕まっていないらしいのだ。


さて、なぜそんな所へと、僕たちが向かっているかと言うと、そこには何と僕の知り合いがいるのだ。

流石、変人と知り合う体質の僕。

そんな金持ちとさえ知り合える。

まぁ、それは嘘だ。

ここに住んでいる人は、別に金持ちでもなんでもない。

この豪邸は、知り合いから留守の間預かっているだけなのだそうだ。

住んでいる人は、少し変わっている以外は、特に何ともない一般人である。


名は、蒜燈(ひるとう)(あき)

大人の女性、高身長、スタイルは良い。

一年前に知り合った。

僕がこの人とどうやって知り合ったのかはどうでも良いとして、その時から僕は本当に困った時は、基本的にこの人に助けを求めている。

この人は、凄いのだ。

いや、凄いなんていう一言でしか彼女を表せない僕の語彙力の低さでは良くわからないかもしれないが、とにかく凄いのだ。

別に、能力を持ってる訳でも、ものすごい強い訳でもないけれど、頭を使うようなことなら、この人がいれば大抵解決する。

例えば、推理小説にこの人を登場させたら、一ページもかからずに解決してしまうだろう。

そのくらいの人なのだ。

大袈裟でも、拡大解釈でもなんでもない。

本当に、こうなのだ。こういう人なのだ。

今回の事も、この人に相談すれば解決するだろう。


「あれが……温暖邸?」

「いや、別に暖かくはないよ。さっきも言ったけど、黄金邸って言うんだ。琴鮫」

「売ったらいくらになるんだろう? ワクワクしますね」

「ああ言うのは値段を気にしたら駄目だよ。琴鮫。見て楽しむんだ」


黄金邸が見えて来たところで、僕たちも気が抜けてきたのか、そんなつまらない会話を、楽しんでいた。


「見て楽しむ……ですか。確かに綺麗ですね」

「うん、綺麗だな。琴鮫」

「なんかさっきから語尾かと思うくらい、ぼくの名前を必要までに呼んでません?」

「気のせいだろ。琴鮫」

「また言った! 絶対わざとだ!」


少し怒り気味の琴鮫、頬を膨らませて可愛い。

あ、この可愛いはあくまで小さい子を見て微笑ましいなぁ……と思う可愛いだよ?

決して恋愛感情なんかじゃあない。


「わざとじゃないって……琴鮫」

「また言ったー!」

「ごめんごめん、実は琴鮫って何回言えるかの挑戦をしていたんだ。因みに今日はもう今ので八回目だよ」

「どれだけつまらない挑戦をしているんですか……」


くっ、本当は七回しか言ってないってとこにつっこんでほしかった。

いや、そんなの普通覚えている訳ないけど……。


「でも、僕的に、挑戦につまらないも何もないと思うんだよ。挑戦は挑戦することに意味があるんだ」

「挑戦は挑戦することに意味があるって当たり前じゃないですか……何を名言みたいに」

「つまり、琴鮫は琴鮫することに琴鮫があるんだよ」

「漢字二文字を全て琴鮫ににしてもただ単に、ぼくの名前を言ってるだけですよ」


琴鮫は琴鮫することに琴鮫がある。

うん、迷言だな。

おっと、僕としたことが間違えた。名言だ。

決して迷言なんかじゃない。


「因みに、今ので十回、琴鮫って言ってる」

「え? 八回と三回で十一回じゃあ……」

「あ、あぁ、さっきは八回って言ったけど実は七回なんだよ」

「そんなつまらない嘘ついて何の意味があるんですか……」


琴鮫は呆れ顔でそう言った。


「意味のない嘘なんてない!」

「だから意味はなんなんですか! 名言風に言っても誤魔化せませんよ」

「意味は……ない」

「意味のない嘘……すぐに見つかりましたね」


会話もそこそこにして、僕たちは黄金邸にたどり着いた。


「蒜燈さーん!」


僕は大声で中にいるであろう蒜燈さんを呼ぶ。

すると、扉のロックが解除された。

うーん、毎回毎回思うけれど、こうやって叫ぶのは喉が痛いから、そろそろ蒜燈さんに電話番号とか教えてもらいたいものだ。


「じゃあ、行こうか。琴鮫」

「はい、お兄様」


僕たちは黄金邸の中へと入っていった。


 黄金邸の中は、外とはギャップがあり、別に全てが金という訳ではなく、普通の豪邸……という感じであった。

普通の豪邸って言うのもなんかおかしい気がするが……。


「さてと……」


僕は、そう言ってから、中に入ってすぐの所に置かれている、黄金の壺の中の、スイッチを押した。

黄金邸には、地下室がある。

その地下室へと通じる階段を、出現させる為の、スイッチをという訳だ。

ゴゴゴゴゴと、大地が揺れる音がした。

そして、トイレへと向かうと、そこは、もう階段に、地下室へ向かう階段になっていたのだ。


僕たちは階段を使い、下へと降りていく。

階段を降りれば降りるほど、寒くなっていき、琴鮫は肩をぶるりと震わせた。


「大丈夫かい、琴鮫」

「え、えぇ。でも夏服なのにこの寒さは反則ですね」

「うーん、上着があったら貸してあげたいんだけど今は持ってないからなぁ」

「いえ、いいですよ。お気持ちだけで嬉しいです」

「そっか……」


その後、僕たちは寒さに震えながら、やっとのことで階段を降りきった。

震える手で、そこにある扉を開ける。

すると、暖かい空気が僕たちを包み込んだ。


「はい、上着。必要だから用意しておいたよ」


すぐに目の前に現れた蒜燈さんは、そう言って、ポンと、僕の手の上に、新品の、いかにも暖かそうな上着を置いた。


「あ、ありがとうございます。蒜燈さん……。でも、僕より先に琴鮫に上着をあげてくれませんか?」


僕はそう言って震えてる琴鮫を見る。

うん、この部屋は確かに少しは暖かいけど、まだ寒いし、琴鮫がかわいそうだ。


「え? 琴鮫ちゃんに上着を? いらないよ」

「はい?」

「いや、だっていらないでしょ? ね? 琴鮫ちゃん」

「い、いや、蒜燈さん! 琴鮫はこんなに寒がっているんですよ? 上着くらいあげても!」

「はーい、ストップ」


そう言って蒜燈さんは僕の顔の前に手を出した。

つい動きを止める。


「だから、いらないんだよ。彼女にはね」

「な、なんですか……? 琴鮫のことが嫌いなんですか?」

「いやぁ……私がそんなつまらない理由で意地悪なんてすると思うのかな?」


う……。


「お、思いません」

「だよね。じゃあ説明すると、彼女は幽霊なの」

「は?」


琴鮫が……幽霊?


「そうだよね? 琴鮫ちゃん」


蒜燈さんは琴鮫の方を向いてそう言った。


「え、あ、う……」

「え、あ、う……じゃ分からないよ。早く君のお兄様に言ってあげなよ。真実を……」

「で、でも……」

「大丈夫、君のお兄様はそんなことで君を見捨てたりはしないから」


そして、琴鮫はこちらを向いた。

何かを決意した顔で……。


「お兄様!」

「何かな? 琴鮫」

「ぼ、ぼくは! 幽霊なんです!」

「へぇ」


いや、幽霊でも琴鮫は琴鮫だしな。

何も変わらない。


「あれ? でも幽霊だからって寒いことは寒いんだよね。琴鮫」

「え、あ……はい」


じゃあやっぱり上着いるんじゃないか……。

僕は思わず蒜燈さんを睨む。


「怖い顔しないでよ。私が上着はいらないって言ったのは、琴鮫ちゃんが幽霊の能力で服を作れるからだよ」

「服を作れる……? 幽霊ってそんな能力があるんですか?」

「あるよー。幽霊って意外と万能なの。服作れるし、炎出せるし、身長は自由自在だし」


それは凄いな。


「という訳で、琴鮫ちゃん。もう君のお兄様は君が幽霊なのを知ったんだから、能力を使っていいよ」


蒜燈さんはそう言って近くに置いてある椅子に座った。

そして、そう言われた琴鮫は、コクリと頷き、次の瞬間には冬服姿へと変わっていた。


「おぉ、可愛いねぇ……琴鮫ちゃん。お姉さん萌えちゃうよー」


蒜燈さんは冬服姿の琴鮫を見て、コーヒーを飲みながらそう言った。


「あの、蒜燈さん……琴鮫は男ですよ?」

「そんなの、もちろん知ってるけど?」


知ってるのに、ちゃん付けするのか……。


「さて、蒜燈さん。琴鮫が冬服になったところで、早く話を始めましょう。奴が来るかもしれない」


僕はそう言って、蒜燈さんに早く話をするように促す。


「あのブルマ野郎なら、ここには来ないよ。あいつは、琴鮫ちゃんの幽霊パワーを感じ取って君たちを追いかけてるからね。ここはそれが遮断されてるから、絶対にこない」

「なるほど……」


というか当然の事のようにブルマ野郎のこと知ってるな。


「よし、じゃあ話をしようか。何だっけ? あのブルマ野郎に勝つ方法が知りたいんだよね?」

「えぇ」

「良いよ。教えてあげる」


蒜燈さんはニヤリと笑いそう言った。


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