六話《可愛らしい変人》
「なぁ」
僕は今、僕の目の前でコーヒーを飲んでいる、少し変わった変な少女に、話しかけようとしていた。というより話しかけた。
「はい?」
「なんで、僕のコーヒーが欲しかったんだ?」
「え……えと、あはは」
今、この少女、明らかに何かを誤魔化したぞ。
「じゃあ名前を教えてくれないかな?」
「えーっと……冷遊師琴鮫です」
「へぇ、琴鮫か。よろしくね」
「う、うん」
なんだその微妙な返事は……。
「あ、あの!」
すると、琴鮫は突然そう言って立ち上がった。
「ん? 何かな?」
僕はそう言って耳を傾ける。
「えっと……あの、えっと、ぼくを!」
「食べてくださいって? いやいや、いくら僕でもそれはちょっとね」
「食べる……?」
わお! 純粋ぃっ!
ますます萌えるぜ!
「それより何より、ぼくを! ぼくを助けて下さい!」
おっとっと、シリアス突入ですか?
「助ける……?」
「は、はい。何者かに追われているんです」
「へぇ」
うーん、何者か……ねぇ。
「助けてくれますか?」
「いいよ。君は僕が助けよう」
「あ、ありがとうございます!」
言って琴鮫は抱きついてきた。
「ひゃっふううう!」
おっと、思わず変な声をあげてしまった。
「え、あ、ごめんなさい。僕に抱きつかれるなんて嫌ですよね?」
「そんな訳ないだろ! 僕は君を愛しているんだから!」
「ふぇっ⁉︎」
リアクションが可愛い。
あれ……そういえば、なんか目線を感じる。
周りをキョロキョロと見ると、お客さんが僕のほうを見てザワザワとしていた。
あー、そりゃあこんなところで女が男に抱きついていたらなぁ……。
「で、でも……ぼくは…………」
そんな風に琴鮫は何かを言おうとしていたが、それよりなによりも、とりあえずこんな風に注目されていてはろくに話も出来ない。
という訳で、僕は琴鮫の腕をしっかりと掴み、外に出た。
あ、もちろんお金は払ったよ?
後、なんか引っ張ってる時に琴鮫が「うわああああああ!」とか叫んでいた気がするけど気にしないでいいだろう。
「はぁ……はぁ……」
琴鮫はそんな声をあげ、とても疲れているようだった。
なんでだろうね?
「ふぅ……急いで外に出たけど、琴鮫、ここどこか知ってる?」
「し、知りませんよ……」
「だよね。僕も知らないんだけど……どうしようか?」
一応、場所としては、今僕たちは、公園にいる。
だが、どこの公園にいるのかが、分からないのだ。
「あの、貴方の名前を……教えてくれませんか?」
そう言えばまだ言ってなかったな。
とにかく、これから一緒にいる訳だし、そういう呼び方のようなものはしっかり決めておいたほうがいいだろう。
この子なら、いざという時、名前を呼ぼうとして迷いそうだ。
「うーん、お兄様とでも呼んでおいてくれないかな?」
「え、お、お兄様、ですか?」
あー、良い!
お兄様って響き最高!
「よし、もう一回言ってみて」
「お、お兄様?」
「うん、可愛い。もう一回」
「か、可愛い⁉︎ あ! え、えと……お兄様!」
「凄い可愛い。最後はお兄ちゃんって呼んでみて」
「お、お兄ちゃん!」
生きててよかったぜ。僕!
「さてと、じゃあ話を聞かせてくれないかな?」
ここからは本題だ。
「え、えと……話は昨日に遡るんだけど」
うんうん。昨日ね。
「昨日から、ブルマだけを履いた筋肉質のおじさんに追われているんです」
「ただの変態じゃねえかっ!」
なんだよ。ブルマだけを履いてる?
さらに筋肉質? そんなおっさんがこんな子を追ってるのか? 犯罪的すぎる図だぞ!
「お、お兄様……?」
おっと、僕としたことがキャラが乱れてしまった。
いけない、いけない。
今はパートで分けるならばシリアスパートだ。
もっと真剣にいこう。
真剣にブルマだけを履いてるおじさんの話を聞こうじゃないか。
「なんでもないよ。琴鮫……僕はたまに叫んでしまうという癖があってね。気にしなくていい」
「それは少し病院に行ったほうが……」
それはそうだ。ついそんな訳のわからない癖があるという嘘をついてしまったけれど、これじゃあ僕が不審者じゃないか。
「大丈夫、医者には治らないと言われている」
「何も大丈夫じゃないよ⁉︎」
「あれ? 敬語は?」
「あ、ごめんなさい」
「いや、いいよ。僕は敬語を使われるのがそこまで好きじゃない」
まぁでもお兄様呼びなら、やっぱり敬語がいいかな?
「いえ、ぼくは敬語を使います」
意外と頑固だな。でもグッジョブ!
お兄様呼びプラス敬語は男の理想だ。
さらにボクっ娘。僕としてはワクワクが止まらない。
「さてと、じゃあ話をブルマに戻そうか」
ここからは真剣だ。
「あの、え? ブルマの話?」
「僕はブルマが相当好きなんだよ。これは男全てに共通すると言っていいかもしれないけれど、とにかくブルマが好きなんだ」
「え、あ、うん……」
どうしたんだ? 琴鮫のやつ……自分がブルマの話を始めたのに。
「まずどこが一番好きかと言うと、そもそも僕は脚フェチでもあってね。その脚が余すことなく露出されているというところが堪らないんだよ!」
「う、うん」
「そしてブルマだけではなくたまにブルマからはみ出るパンツ、あれはとてもそそる。ブルマとパンツのコラボレーション! まさに神と言ってもいい」
「あ、はは」
「そしてそのはみ出るかはみ出ないかという一種のチラリズムに似たものも僕をさらに興奮させるんだ!」
そして、僕がなによりもブルマにおいて好きなのは!
「あのブルマからはみ出たパンツを! 直す仕草なんだよ! 確かに定番で、平凡かもしれないけれど、あれはもう仕草の極致なんだよ!」
「う、うん……」
折角、僕が語ったというのに、琴鮫はそんな曖昧な返事をした。
「琴鮫はブルマの何が好きなんだ?」
「あ、あの……」
「ん?」
言いにくいのかな? やっぱり女の子だもんな。
「ブルマじゃなくて……ブルマを履いたおじさんに、ぼくが追いかけられた話をしてたんだけど」
……すっかり忘れていた。
「って変態じゃねえか⁉︎」
「さっきもそれ言ってたよ」
うーん、この記憶力はどうにも……。
「あの」
すると、また琴鮫はそう言って僕に何かを言おうとしていた。
「ん? 何かな?」
「も、もしかして……」
もしかして?
「もしかして……お兄さんって少し頭おかしいの?」
…………それを言っちゃあいけないよ。