三十一話《詰んでいる変人》
僕が向かっているのは、蒜燈さんから教えてもらった秋宮君曰く、異常なものが集まりやすいという、ショッピングモールの地下。
異常なもの……例えば、能力者。
風を操る。
重さを変える。
スピードを上昇させる。
筋力を増加させる。
人に乗り移る。
などということを、容易にやって見せるものたちである。
能力者がいつ頃から現れ、能力をどうやって手に入れたは、神のみぞ知ると言ったところで、誰も知らないけれど……いや、例外として蒜燈さんは知ってはいるらしいが、とにかく、能力をどうやって手に入れたかは、全くの不明だが、その能力はとても驚異的である。
その一部のせいで、未来の世界が滅んでいるといえば、その驚異がとても分かりやすいだろう。
そして、先ほど述べたショッピングモールで僕が戦う能力者の能力は、時を操る。
言い換えれば、時間の操作……である。
タイムスリップに時間のループ、巻き戻しや早送り、止めたり動かしたり、そんなことが出来るのだ。
全く、チートにも程がある……。
異能バトルものでなら、基本的に最強キャラ級のポジションを与えられるくらいだ。
そんなのと、今日、僕は戦う。
一週間前の約束通り、戦う。
勝てば全て終了。
能力者たちとのバトルからも解放され、未来の崩壊も阻止でき、最高のハッピーエンド。
まさに、最終決戦。
だが、負ければ死……である。
能力者との戦いはそんなものだ。
負けはイコールで死に繋がる。
僕は一度、いや二度ほど、スピードを上昇させる能力者と戦い、死んでいるから分かる。
その際は、ループによるやり直しが効いたが、それが今回はない。
そのループを作り出した、時を操る能力者と戦うのだ。
当たり前だろう。
つまり、そんなチートな能力を持つ相手と僕は命がけで戦う訳だが、不思議と心配はなかった。
ずっと妹とイチャついて一週間を過ごしたくらいだ。
なぜだろうか? と、考えた時。やはり、彼の、つまり、時計箱のただ純粋に戦いたい。という感じの言葉が、僕に安心を与えてるのだろう。
殺したいではなく、戦いたい。
恐らくそれでも、彼は僕を殺してはくるんだろうけれど、やはり言葉の重みというものはあり、戦いたい……というのは殺したいと言われるよりも、リラックス出来るのだ。
そのリラックスが、良い方向に向けば良いと、ショッピングモールに向かう今も思っているが、もしも悪い方向に向けば、つまり油断すれば、負ける。
だから、気を引き締める。
夏ももうすぐ終わりに近づいてるのか、夜の空は肌寒い……が、より僕の集中を高めてくれるし……丁度良いだろう。
「さて……」
長々とそんなことを考えていると、ショッピングモール前に着いた。
「遂に……最後か」
思えば、あっけない最後だ。
因縁の敵とのバトルではなく、ぽっと出の敵とのバトル。
盛り上がりに欠ける……と言えば僕が戦うことが好きみたいだが、それにしてもこれは、盛り上がりに欠けるといっても良いだろう。
まぁでも、仕方あるまい。
人生とはこんなものだ。
物語のようにはいかない。
ドラマチックさなんてない。
ストーリー性なんてない。
今回の話は至って簡単。
ラスボスから戦いを挑まれたから、それを買ったという訳だ。
ちょっと派手な、喧嘩をするだけなのだ。
そう考えると、気分も楽になる。
「ふぅ……」
少し溜息をついてから、集中する。
そして僕は扉を開けた。
そこから地下へと向かう。
地下に来るのも七月以来か……。
割と最近なようで、懐かしい気がする。
「相変わらず……暗いなぁ……」
呟きながら、僕は足を進める。
うーん、この地下。誰も使わないとはいえ、余りにも暗すぎではないだろうか?
こんなことなら、ライターやマッチでも持って来れば良かった。
前回は秋宮君が炎で明るくしてくれたんだけどなぁ……。
「はぁ……」
と溜息を一回吐いてから、僕は周りが暗い代わりに、辺りを目を光らせるかのように集中して見渡す。
すると、遠くで何か輝くものを見つけた。
その輝くものも、僕に気づいたかのように近づいてくる。
「よぉ、ライバル。来たんだなぁ……」
首にアクセサリーを付けた時計箱が、そこにいた。
「やぁ、時計箱。来てあげたよ……」
僕は言ってニヤリと笑った。
「さて……とぉ、早速始めるかぁ? ライバル」
「あはは、出来れば初めたくはないけどね」
「仕方ねぇ……これが運命ってやつだぁ」
「運命……か。じゃあ僕が勝つか、君が勝つかも、もう運命で決まってたりするのかな?」
「さあな」
時計箱がそう言ったところで、僕たち二人の拳がぶつかりあった。
「あれ? 能力はどうしたのかな?」
「お前に使っても吸収されるだけだろぉ? それなら使わねえっ!」
「能力使わないと、もうただの喧嘩だね。これ」
そんな会話をしつつも、殴り、蹴りの応酬。
身体は段々とボロボロになっていく。
それに伴い、呼吸も粗くなっていき、疲れも出てくる。
このままじゃあらちが空かない!
そう思い、僕は取り出した。
「霊験……スペルハート!」
最速の剣。霊験スペルハート……これならば、勝てる。
「それを待ってたぜええええっ!」
「…………⁉︎」
何⁉︎
どういうことだ?
「こういうことだよぉ……っ!」
気づけば時計箱は僕の背後に回りこんでいた。
しかも、霊剣スペルハートを片手に持ちながらである。
「な…………⁉︎」
背後から勢いを込めた剣撃が僕を狙っている。
やばい……!
そう思って咄嗟に適当な方向に避ける。
すると奇跡的に、僕の真横を剣先が通り過ぎた。
「おおい、おい、どうした? こんなものか?」
まさか、僕の能力である吸収が、唯一発動しない瞬間である、能力を解放する時を狙って、能力を使ったというのか……?
……これはマズイな。
僕は素手、相手は霊剣スペルハートを持っている。
あれ、詰んでしまった……?




