三話《風をつかう変人》
「な、なにが起こっているのかな?」
上からの爆発音に驚き、僕は女に問いかける。
「わ、わからない……けど、とりあえず家の外に出ましょう。ここじゃあ危険よ」
「うん、わかったよ」
そう言って僕は、女に着いて行くように外へと向かった。
外に出ると真っ暗で、普通の夜、という感じである。
だが、焦げ臭い。
そして、心なしか風が強いようにも感じる。
それから、爆発音がした上を見ると、無くなっていた。
僕の家の、二階と三階が……無くなっていたのである。
余りにも突然に起きた、非日常な出来事に何も考えられない。
言葉が……出ない。
ボーッと、無くなった部分を見ていると、人影が見えた。
細身、高身長……というのはわかるが、それ以外は煙で見えない。
ふと、女の方を見ると、女は震えていた。
肩を両手で掴みながら、震えていた。
「どうしたんだい?」
「ひっ!」
女は僕が話しかけるとそう言って驚いた。
「だ、大丈夫よ……そ、それより、貴方は早くここから逃げて」
女は僕に震えた声でそう言う。
身体の震えも止まっていない。
「逃げろって……一体、今何が起こっているのか説明してくれないかな?」
「説明してる暇なんてないわよ……貴方、秋宮さんじゃないってことは、ただの一般人なんでしょ? なら、ここは危険なのよ。早く逃げて!」
「逃げない」
そう言うと女は飽きれた顔でこちらを見た。
「あ、貴方……何を言っているの? おかしな人だとは思っていたけど、家が吹き飛ぶなんて事態を見たら分かるでしょ? これはもう普通のことじゃないって、これは、異常なことなんだって分かるでしょ?」
「うん……」
でも……たとえ、普通じゃなくても、異常でも、危険だと分かっていても……。
「でも、隣に震えている女の子がいるんだ。そこから逃げるほど、僕は臆病じゃない!」
そう言った時、声が聞こえた。
その声に女はびくりと肩を揺らす。
「この辺で空気の乱れがあったから来てみたがぁ……なんだ? お前ら。一般人じゃねえかぁ」
煙は消え、その声の主が見えた。
男、高身長で痩せ型……か。
パッと見たところ……身長は余裕で百八十は超えているな。
もやしみたいな奴だな……。
「真妓輪ぁっ! お前だけは! お前だけは許さない……よくも、お父さんと……お母さんを」
すると、突然女はそう言って男を睨んだ。
真妓輪……? 男の名前か?
「あぁ? お父さん? お母さん? お前何言ってんだぁ?」
「貴方は! 未来で私のお父さんとお母さんを殺したのよ!」
「あ? お前……頭のネジ吹っ飛んでんのか? タイムマシンなんか信じちゃってる系ですか?」
「黙れえぇっ!」
言って女は光線銃を取り出し、真妓輪に向けて放った。
すげぇ……未来っぽい。
「……? おもちゃかよ。ビックリさせやがって……」
「え……? おもちゃなんかじゃ……」
嘘だろ? あいつ、光線銃を弾きやがった。
「はぁ、ガキの相手は疲れ…………ってお前、中々いい身体してんじゃねえか! ヒャハっ」
そう言って、男は女の方へと向かう。
やばい! 女——神中が!
「ひっ!」
神中はそんな風に怯えた声を出す。
「神中! 逃げろおおおおお!」
僕はそんな風に叫ぶことしか出来なかった。
「うっせえんだよ!」
そんな風に叫んだ僕に対して、そう言って男は何かを手から放つ。
風……? だろうか?
それは僕の顔をかすった。
ズキリとした痛みが頰に走り、ふとその位置に手を伸ばす。
手を見ると、血。
「あ、あぁ……」
恐怖でそんな情けない声しか出てこない。
かすっただけでこの威力……もし心臓なんかにぶっ刺さったら…………!
想像しただけで吐き気がする。
「おお……運が良いな、お前。この攻撃、千回に一回しか外さないんだぜ? ヒャハっ! おもしれぇ! まずはてめえをぶっ殺して、じっくりとこいつの身体を楽しませてもらうとするぜええええ!」
そう言って繰り返し、男はヒャハっ! と声をあげ、僕に向かい再び風を放った。
くっ、むしろさっきので死んでた方が運が良かったんじゃないか?
そんなことを思っている今この時も風は俺に向かって近づいてくる……どうする? どうする?
時間がない。
「くっそぉっ!」
僕は、思わず手を伸ばした。
右手を……歯型がたっぷりとついた右手を、伸ばした。
そして風がその右手に当たったその時だった。
風は消えた。
まるで最初からそこには何もなかったかのように、まるでそれを別世界へと追放したかのように、完全に風は消え去ったのである。
「え……?」
思わず自分の手を見つめる。
少し……熱い気がする。
「お、お前……何をしやがった! 俺の能力をどうしたってんだよ!」
僕にも分からない……。
それを示すため、手をブンブンと振ると、僕の家の一階が吹き飛んだ。
「へ……?」
おいおい、今これ……僕の手から出たよな?
もしかしてコピー系の能力でも手に入れたか?
そう思って僕は断言した。
「残念だけど、僕の勝ちだ。僕の能力はコピー……君は負けだよ。えーっと真妓輪くんだっけ? 君は、僕に出会ってしまった自分の不幸を一生後悔するがいいさ。そして、僕はさっきの幸運に感謝するよ」
そしてその後、手を男に向け、僕は放つ。
能力を、奴の風の能力を……!
「あれ……?」
うーん?
ははは……!
「出ない…………」
やっべぇ……どうしよ。僕、勝てる気しない。
「何やってんだぁ? あれぇ? もしかしてぇ、もしかしてぇ、まだ能力を使いこなせてない感じですかぁ?」
ば、バレてる。
「そ、そそ、そそん、そそんな、そそんな、そんな、わ、訳……な、にゃいにきみゃってりゅだろおお、おお」
「動揺しすぎだろ。頭おかしいんじゃねえのか?」
「良く言われるよ」
はい、という訳で……どうしよっかなー。
「じゃあな。今度こそ死ね」
「あ……」
能力が来たので、また右手を出すと能力は消えた。
「ちっ、使えねえ癖に消すなよ」
「さあ? どうかな? 次は成功するかも?」
そう言って能力を再び放とうとする。
すると、ビュンっ! と風を切る音がし男の右腕が吹き飛んだ。
「な、あ…………があぁ。俺の、俺様の、右手があぁぁ!」
「ふっ、これで分かったよ。能力の使い方がね」
「な!」
僕は手を振る。
「……うーん、なんでだろうね?」
また風は出なかった。
「お、お前……ふざけるなよぉ!」
ふざけてはいない。失礼な奴だな。
あ、そうだ!
「神中、お前こいつのこと殺したいんだろう? 僕、人を殺すなんて嫌だからさ。もうほとんど死にかけだし、さっきの光線銃で殺しておいてくれないかな?」
「…………へ? え、今私に振るの? えーっとじゃあ、遠慮なく、殺します!」
バキューン!
光線銃からはそんなコメディチックな音が出た。
パッと見たところマジでおもちゃにしか見えないな。
そして、男はうめき声をあげ、死んだ。
「ふぅ、ということで……僕の家、壊れちゃったんだけど、未来の技術で治せたりは出来ないの?」
「そんなものはあるにはあるけど、今は持ってないわ。ごめんなさい、巻き込んでしまって」
「巻き込む? 何にだい?」
「え、だからさっきみたいな戦いに……」
戦い? いつの話をしているのだろうか?
僕はそんな戦いとやらは知らないぞ。
「まぁよく分からないけど、気にしなくていいよ」
「ふふっ、貴方……正義の味方みたいね」
どこがだろう?
この子何か勘違いしているんじゃなかろうか?
「さてと、じゃあ仕方ないかぁ……うん、家が治るまでは秋宮君の家にでも泊めてもらうとしよう」
「秋宮さんの家に行くんの? なら一応私も行ってもいいかしら? ミッションがあるの」
「わかったよ。じゃあ、行こうか」
僕達は歩き出した。
一人の高校生の家に、お世話になる為に。