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二十五話《地下で話す変人》


 宴さんに見逃してもらった翌日、僕は早速、朝から蒜燈さんの家へと向かった。

いつもの手順で地下室へと、降りていく。


「やぁ」


蒜燈さんはそう言いながら片手をあげて僕に挨拶をする。

脇が良い感じに見えて素晴らしい。


「蒜燈さん、夏服も美しいですね」


言って僕は蒜燈さんが座っている席の向かいに座る。


「やだなぁ……私が美しいことなんて私自身が一番知ってるよ」


自覚してやがった……。


「それに、ポニテにしてるのもポイント高いですよ。僕好みです」

「あっはっは、ありがとうね。ま、君がポニテ好きって知ってたからこうしたんだけど」

「ん? つまり僕の気が惹きたいんですか? 僕のこと好きなんですか?」

「それは、ないよ。私がポニテにしたのは君の注意を私に引きつけて、話をスムーズに進行するためだ」

「なるほど、さすが蒜燈さん」

「うんうん、もっと褒めて。私は褒められるのが大好きだ」


この人、多分結構な人たちに褒められてるとは思うんだけどなぁ……。


「さて、と……じゃあ本題に入ろうか?」

「あ、はい。でも道中、喉が渇いたので飲み物を頂けると嬉しいんですが」


さすが夏……喉が渇いて仕方がない。

身体中の水分が枯れそうである。


「あぁ……良いよ。えーっと琴鮫ちゃんから聞いた限りだと、コーヒー、好きなんだよね?」

「はい。あれ? そういえば琴鮫は?」

「屋上のプールで遊んでるよ。後で行ってきたらどうかな?」

「プール……ですか。水着持ってきてないですし、良いです」

「そう言うと思ってもう用意しているよ」


言って蒜燈さんは水着を僕に手渡した。

何この人……本当に怖い。


「あ、ありがとうございます」


僕がそれを受け取りながら、礼を言うと、蒜燈さんは「良いよ良いよ」と音萌さんさながらに二回繰り返し言って、僕の目の前にコーヒーをコトリと置いた。

早速一口頂く。

うん、美味しい。

これは誠に美味じゃのう。とか昔の人なら言いそう。

なんで昔の人に例えたのかは謎だけど、そういえば美味って漢字変えると微味にも出来るんだよな。

微妙な味で、微味。

実際、美しい味で、美味って言うのも訳が分からないし、昔の人は本当は、微妙な味で微味と使っていたのかもしれない。

それを現代人が都合良く解釈して美しい味、美味。

なんて言葉を作ったのだろう……などと推測出来る。

大体、美しい味って何だ?

味に美しいとか汚いとかあるか?

などと、僕がつまらないことを長々と考えていると、コトリと、サンドイッチが置かれた。


「これは……?」


と僕が聞くと、


「私の手作りサンドイッチだよ。味に保証は持たないけどまぁ食べてよ。まだ朝ごはん食べてないよね?」


と言った。

確かに食べてないな……。

それに美味しそうだ。


「では、遠慮なく、いただきます」

「はい、どうぞ」


そこからしばし、蒜燈さんと、雑談を交えながらの朝食タイムを取り、十数分間の休憩をした後、「さて……」と蒜燈さんが言い、話が始まった。


「まずは、私にも知らないことがあったという、報告をしておこうか」

「……? 蒜燈さんに知らないことなんてあるんですか?」

「うーむ、私は様々な儀式を得た結果、全ての知識という知識が頭に流れ込む体質になったということは知ってるよね?」

「はい」

「でも、その知識の情報網に異常があった。というより、例外があったんだよ」


言いながら蒜燈さんは三本の指を出した。


「……ん?」


何がしたいのだろうか?


「その例外は、具体的に三つあるということだよ」

「三つ……」

「鬼、悪魔、不死鳥、この三つだ」

「それって……」

「そう、それぞれ、君の妹、京歌ちゃん、そして君自身、最後は、秋宮君を指すね」


……どんな共通点があるのだろうか?


「なんで……その三つ、というより僕を含めて三人は、例外なんでしょうか?」

「その三つに関してだけは、私は何も知らないからだよ」

「何も知らない?」

「そうそう、本当になーんにも知らない」


あれ……? でもおかしいぞ? それなら。


「それなら、琴鮫を追っかけていたブルマ野郎を倒すとき、あの少女、つまり、恐らく悪魔の少女のいる場所を、教えてくれたじゃないですか? あれは何故わかったんですか?」

「あれは悪魔ちゃん自身が君に自分のいる場所を教えろと乗り込んできたんだよ。君がブルマ野郎なんかに何回も何回も殺されてループなんかしてるから」

「あの悪魔の少女、ループのことも知ってるんですか?」

「そうだね……多分知ってるんだろうね」


……さすが、蒜燈さんが例外と言うだけある。


「……蒜燈さんが、その三つに関して何も知らないのは分かりましたが、僕と秋宮君の、悪魔と不死鳥はまだしも、京歌の、鬼というのはなんでしょうか? あれは殺人鬼なだけで、本物の鬼が取り憑いてるとかではないんでしょう?」

「いや、本物の鬼が取り憑いてるよ」

「……っ、何故、京歌にそんなものが」

「知らないよ……何も知らないって言ったよね? でも」


ん?


「でも、なんですか?」

「でも、一つ。鬼、悪魔、不死鳥のような、私が全くもって知らない空想上の生き物は、君たちがその力を欲しい時に現れるというのは、あると思うよ」

「どういう意味ですか?」

「君は確か、最初に悪魔ちゃんを助けたいと思って、悪魔ちゃんに手を噛まれたんだよね?」

「……はい」

「その助けたいという思いが、彼女を、悪魔ちゃんを呼び寄せた。助けるには力がいる。だからこそ、悪魔の手や、悪魔の目などというものを君に与えたんだよ」

「なるほど……」

「これは秋宮君もだよ。秋宮君、実は死にかけた時があってね」

「あ、秋宮君がですか?」

「うん、そこで彼の生きたいという気持ちが、不死鳥……フェニックスを呼び寄せた」


ということは京歌も、鬼の圧倒的な攻撃力というか、人を殺す力が欲しかったということか?


「そんな、なら京歌は人を殺したいと願って、鬼と契約を……」

「いや、違うと思うよ」

「……?」

「京歌ちゃんは君がいないことでストレスが溜まっていた。これは確かだ」

「はい」


僕が、もうちょっと京歌と話してあげられていたら……。


「その結果、ストレスを発散させるため、鬼が来た」

「はい……」

「鬼はストレスを発散させるためにきたんだから、鬼として、最もストレス発散に適切な事を選んだ」

「それが……人殺し」


つまり、殺人は京歌の意思じゃないということか……。

良かった……本当に良かった。


「なら、蒜燈さん。その鬼を京歌から取り除けば……」

「うん、京歌ちゃんの夜の人格は無くなり、殺人鬼では無くなる」

「なら、蒜燈さん、取り除く方法を……」

「だから、知らないよ」

「あ……」


え、どうすればいいんだ?

蒜燈さんが知らない事を他の誰かが知っている訳ないし……。


「だから君は一週間後、宴に勝つしかない。宴に勝って、京歌ちゃんを長い時間かけて、更生し、鬼を取り除くしかない」

「宴さんに……勝つ? そんなの」

「無理だと思うよ」

「なっ……」

「勝てる確率は零に限りなく近い」


……でも、やるしかないということか。


「分かりました。僕は、宴さんを倒します。倒して、妹を助けます」

「そっか……じゃあ頑張ってね。私はどっちの応援もしないから」

「分かってますよ」


僕はそう返事し、帰る準備を始める。

あれ、そういえば……?


「そういえば、蒜燈さん。なんで前、僕が蒜燈さんに相談しに行こうとした時、会ってくれなかったんですか?」

「え、えと、ほら、今回の件に関しては私、何も知らなかったから……なんか、いつもはなんでも知ってるのに、知らないのって恥ずかしいじゃない?」

「……蒜燈さんって恥ずかしがるんですね」

「当たり前だよ」

「意外と可愛いですね」

「当たり前だよ」


恥ずかしがることなく肯定したよこの人……。


「じゃあ、琴鮫とプールで遊んだら帰りますね。一週間後にでも、生きてたら会いましょう」


言って僕は地下室から出た。


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