十九話《妹に備える変人》
僕の、妹の話をしよう。
僕の三人いる妹は、全員僕に似て変人だ。
まずは長女、名は美惑。
大人しく、基本的には温厚であり、もの静かで特にこれといった特徴がないと思いきや、実は変態である。
僕は変態君なんかと呼ばれたりするけれども、その変態性は僕を余裕で超える。
飛び越えてくる。
彼女の変態性が天まで届くとするならば、僕なんかは地だ。
まさに天と地ほどの差。
うーむ、誰に似たのやら……。
因みに髪は長い。僕好みである。
おっと、僕好みと言っても恋愛感情なんかは一切ない。
妹なんかに恋はしない。
さらに何かしら説明するならば、服……についてだろうか。
美惑は、ハートの付いた服しか着ない。
アクセサリーやその他小物に至ってもそうだ。
何のこだわりがあるのだろうか? 昔から、自分のものにハートが無いと、引くほど変態的なことを言い、我が家を氷河期かと思わせるほどに冷やしてくる。
氷の能力者か……?
と思うほどだ。
さて、長女の説明にやけに時間がかかってしまったので、続いて次女三女といきたいところだが、出来るだけ短く話そう。
最初に話すのは次女、名は京歌。
こちらも長女と同じで基本的には温厚、だがうるさい。
とにかくうるさい。
あのうるさいが特徴の、二回繰り返すショートカット女でもこいつよりはうるさくはないだろう。
後ついでに言うとわがまま。
お前はどこのお嬢様だと言いたいほどのわがままなのである。
でも、基本的には可愛いので許してしまうのが更にこいつのわがままを加速させている気がする。
長女と同じように、髪型について一応説明すると、ツインテール。
うん、妹っぽいね。
可愛くてツインテール……うーん、なんて小悪魔。
これで服もあざとい感じなのでもう小悪魔というよりただの悪魔だ。
こいつの彼氏になる奴は苦労しそうだなぁ……。
いや、彼氏なんて僕が許さないけどね。
次女も思ったより長くなってしまった。
こうなれば三女もゆっくりと、そしてじっくりと説明するとしよう。
三女、名は猫夜。
人見知り、大人しい。
でも一度怒るととんでもなく怖い。
昔から力がとんでもなく、一度家を全壊させたことがある。
もはや人間業ではない。
問題を起こした為、現在は学校に通っていない。
家に引きこもり、格闘ゲームを延々とやっている。
服はずーっとパーカー。
家に引きこもっているのだし、別にいいかもしれないが、裸にパンツとパーカーだけという服装は、少々適当過ぎじゃあないだろうか。
まあ、そんな格好も妹とでなければ萌えるものなのかもしれないが……。
何故、僕がこんなにも長々と妹について説明したのかということを説明するならば、それは今日、僕の妹が、我が家にやってくるのだ。
八月の中旬だったろうか? 電話がかかってきた。
「もしもし、お兄ちゃん。私ですよ。貴方の可愛い可愛い可愛すぎる妹、美惑ですよ」
「自分で自分のことを可愛いって言うのはどうかと思うよ」
というかどれだけ可愛いを連呼するんだ。
音萌さんもビックリだ。
「まぁまぁ、お兄ちゃん。私に対する態度をお忘れに? お兄ちゃんは私に対しては敬語を使い、語尾にはブヒを付けないといけないのでは?」
「僕が忘れっぽいからって適当なことを言わないでくれるかな」
なんて妹だ。自分の兄をなんだと思っているんだ。
「あらあら、お兄ちゃんって忘れっぽいんでしたか。すっかり忘れていました」
「絶対嘘だ」
「いえいえ、嘘などつきません。ついたこともありません。むしろつけません」
「最後に嘘ついてるじゃないか。嘘をつけないっていう嘘をついてるじゃないか」
「おやおや、気づきませんでした」
……ったく。この妹はなんというか。
「そろそろ本題に入ってくれないかな? なんで急に電話なんてしたのかな?」
「そろそろ、本題にですか。はい。えーっと……一週間後、お兄ちゃんの家へ行かせてもらいます」
「ん? 急にだね」
「はいはい、折角の夏休みですからね。久しぶりにお兄ちゃんに会いたいのです」
「ふーん……」
まぁ高校に入ってからは合ってないからなぁ……。
「さてさて、要件はそれだけです。お兄ちゃんから質問はありますか?」
「何か用意しておいたほうが良いものはあるかな?」
「うんうん、そうですね。お兄ちゃんの愛を用意しておいて下さい。私たちスリーシスターズはブラザーラブエナジーに飢えています」
「そっか」
スリーシスターズって……。ブラザーラブエナジーって……。
英語覚えたての中学生かよ。
「ではでは、お兄ちゃん。また後日」
そう言って美惑は電話を切った。
うーん、一週間後か。
まだ宿題、残ってるんだけどなぁ……。
「誰からだったの?」
すると、雑誌を読んで、ソファーに座り、くつろいでいる無月が、首を可愛く傾げながらそう言った。
「妹から、一週間後に家に来るんだって」
「へぇ、妹さんが……私や影入ちゃんのことはどう説明するの?」
「あー、うん。彼女と……奴隷?」
「彼女はともかく奴隷はちょっと引くと思うわよ」
「うーん……どうしようか?」
「影入ちゃんは秋宮さんの家か音萌さんの家に預けたらどうかしら?」
「あぁ……じゃあ後で音萌さんに連絡しておくよ」
言ってから僕も無月と同じソファーに座った。
「それで、無月はどうする?」
「ここにいるわよ?」
「へ……?」
「大丈夫よ。引きこもるから」
「流石に駄目だよ。心配だ」
「なら、妹さん達に彼女と紹介するしかないわね」
「うーん、猫夜が来なければいいけど……」
そう、猫夜。
問題は猫夜なのだ。
猫夜だけは危険すぎる。
「猫夜?」
「うん、三女なんだけど……猫夜は、僕が小学生のころ、家に女友だちを連れてきたら、家をぶち壊したんだよ」
「ぶち壊す……って壁とかを?」
「ううん、家まるごとだよ」
「それは……怖いわね」
あの妹、なんであんなことをしたんだろうか?
女性が駄目なのか?
「うん、まぁ……そういうことで、猫夜が来るかもしれないから、無月には避難しておいてほしいんだよ」
「仕方ないわね。なら未来から透明になれる服を取り寄せておくわ。貴方のお陰で、未来もそこそこ安定してきているから、一週間もあれば来ると思うわ」
「うん、ごめん。ありがとう」
「いいわよ。彼女だもの」
愛してる。と僕は言い、その後多少ほどわいわいと話したりした後、僕は外に出た。
奴隷の影入を連れて、図書館に勉強しに行くのだ。
「ご主人様ぁ……くふふ。最近は平和ですねぇ」
「ん? 影入。君が何も起こさなければもっと平和だったんだけど?」
「……すいません」
影入はそう言ってショボーンっとなった。
なんか虐めてるみたいだからやめてほしい。
「まぁいいよ。君のお陰で家が直ったしね」
「……ご主人様ぁ!」
そう、僕の家が直った。
影入の能力で、建築のプロを大量に操り、家を一週間程度で建てさせたという訳である。
まぁ悪いことをしているとは思ったし、一応、財布の中に、幼馴染から生活支援として送られてくるとんでもない大金の一部を入れておいた。
十分仕事に見合う料金だっただろう。
因みに、僕の家には今、僕、無月、影入の三人が住んでいる。
本当は僕と無月だけが理想だけど、影入は僕が監視しないといけないので仕方あるまい。
それに、意外と楽しいしまぁいいだろう。
「そういえば影入、一週間後、音萌さんの家に泊まってもらってもいいかな?」
「え⁉︎ 音萌ちゃんの家にですかぁ! いいんですかぁ?」
「うん、君も随分大人しくなったからね」
影入、やけに音萌さんのこと好きなんだよなぁ……。
乗り移ったこともあるというのに……。
「ありがとうございますぅ! ご主人様ぁ!」
そう言って影入はニコニコと笑った。
可愛いじゃないか……この子。
その後、ルンルンと歩く影入に着いて行くようにして、僕は図書館に辿り着いた。
「やっほーやっほー、変態君!」
すると、僕より先に音萌さんは着いていたようで、手を振りながらそう言った。
「一人で山彦を起こさなくていいよ。音萌さん」
相変わらず元気な人だ。
「ごめんごめんごめんごめん。ついテンションが上がっちゃって上がっちゃって」
「でも図書館だし静かにしようね」
「はーいはーい」
はいは一回だ。
いや、音萌さんに限っては全ての言葉を、一回に抑えて貰いたいところだが……。
というか、図書館で静かにするという子供にするような注意を、高校生にすることになるとは思ってなかった。
「さて、じゃあ今日も勉強を教えてほしいんだけど……」
「はいはいはいはい、わかったよー」
はいを四回も繰り返しやがったこいつ……。
そんなことを僕が思っていたということを僕が思い出したところで、とりあえず回想終了。
まぁとにかく、そういうことで今日、僕の妹が来る。
変態の長女、うるさい次女、怖い三女、の三姉妹。
騒がしい日々になりそうだ。
そんなことを思っているとチャイムの音が鳴った。
僕は歩いて扉を開ける。
見えたのは三人分の人影。
無事に全員、来れたようである。