十七話《乗り移れる変人》
「無月……ショッピングモールって聞いたら、何が思い浮かぶ?」
「ショッピングモール……? 特に何も思いつかないわ」
「そうか……」
「どうしたの?」
無月にそう言われ、僕は音萌さんから来たメールをすっと見せた。
「なるほど……ね。急にこんなメールが」
「秋宮君なら……何か分かるかな?」
「それは分からないけれど、とりあえず秋宮さんの家に帰りましょう」
「そうだね」
一時間ほど経って、僕たちは秋宮君の家に戻った。
「おお、お前ら遅かったな」
秋宮君はそう言ってコーヒーを一口。
「まぁ、ちょっとね。それよりさ、秋宮君」
「ん? なんだよ」
「ショッピングモールって聞いて、何が思い浮かぶ?」
「な……ショッピングモールだと?」
「ん? 何か知ってるのかな?」
「んー、これを語ると随分長くなっちまうから省くけど、まぁショッピングモールには中々、思い出があるな」
「へぇ……じゃあ秋宮君。音萌さんからショッピングモールとメールが来たんだけど、これはどんな風に考えればいいかな?」
「ショッピングモールねぇ……普通にそこにいるってことを示してるんだろうな」
ん……まぁ、普通に考えればそうなんだけど。
「問題は、どこのショッピングモールにいるかってことだよ」
「それで、俺にショッピングモールで何が思い浮かぶかって聞いたのか……」
僕は首を縦に降る。
「うーん、まぁさっき俺が思い浮かんだショッピングモールだと思うぜ?」
「どこにあるのかな? そこ」
「割と近くだ。そこには異質な奴らが集まりやすいって前、蒜燈さんが言ってた」
なるほど……蒜燈さんなら間違いない。
「ちっ、というかショッピングモールってだけ送られてくるってことは音萌の奴、今相当やばいことになってんじゃねえのか?」
「多分……ね」
「なら急ぐぞ! 俺が案内する」
「ありがとう! あ、無月」
秋宮君が急いで走っていくので僕もついていこうとしたが、その前に無月には言っておくことがあった。
「何かしら、あーくん」
「君は留守番していてくれないかな? 後は僕に任せてほしい」
「わかったわ。信じてる」
「引き止めたりは……しないんだね」
「当たり前よ。本当に信じてるもの」
愛してるよ。と僕は言って秋宮君に追いつくように走り出した。
「遅いぞ!」
「ごめんごめん、じゃあ、行こうか」
「あぁ、暴れてやるぜ」
「ほどほどにね」
そして、僕たちはショッピングモールに着いた。
「こっちだ!」
秋宮君に言われ着いて行く。
「え、でもそっちは入り口じゃないよ……」
「こっから地下に行けるんだよ!」
だからと言って従業員用の入り口に、勝手に入っていいのか?
というか秋宮君、なんで鍵開けれるんだよ。
「なんで、地下にに行くのかな?」
「普通、上のあんなに人いるところで事件なんて起こさねえだろ!」
「それもそうか……」
駄目だ、僕。少し冷静にならないと……。
彼女が出来たということで少し、テンションが上がっているのかもしれない。
そんなことを思いつつ、僕は秋宮君について行き、下に降りた。
「ここは?」
「……ここは、昔使われていた従業員用の地下駐車場だ。今は使われてない」
「へぇ……」
真っ暗で殆ど何も見えない。
そう思っていると、秋宮君は手から炎を出し、天井に浮かべた。
「これで少しは明るいだろ?」
「そうだね」
そう僕が秋宮君に返事した時、明るくなったお陰で、あるものが見えた。
人である。
ショートカットのうるさそうな顔をしている女の子だ。
つまり……音萌さん。
僕は手を上げて、音萌さんを呼ぼうとする。
だがその瞬間、僕は吹き飛ばされた。
吹き飛ばされ、脆くなった壁に、壁を砕くかのような勢いでぶつかる。
というか、僕は壁に減り込んだ。
身体中に死を告げるかのような激痛が走る。
「死にたく…………ない」
死にたくない。僕はまだ、死にたくない。
彼女を、無月を残して死んでたまるか!
最後に力を振り絞り、火事場の馬鹿力で、何とか壁から出て、立ち上がる。
けれど、それも虚しく、僕は倒れ——
「おっと……大丈夫かよ。これ、飲め」
倒れることはなかった。
秋宮君に支えられ、僕は秋宮君から貰った水を飲む。
だが、ただの水ではない。
フェニックスの炎で熱した水。
つまり、回復効果がある。
「ふぅ……随分マシになったよ。ありがとう」
「おう、それで……あいつなんだよ。音萌……なのか?」
「一応そうだとは思うけど……」
けれど、様子が明らかにおかしい。
音萌さんはもっとアホっぽいオーラが出ているはずだ。
だが、あいつから出ている黒いオーラのようなものは……黒いオーラ?
「秋宮君……きっと、音萌さんは操られている」
「あ? そういえば黒いオーラが見えるな」
だけどあの黒いオーラ……ただの黒いオーラじゃなくて、なんというか濃い?
普通に操られている人よりも濃い黒だ。
「はーい、間違いでーす。私は音萌さんではありませぇん」
すると、突然彼女は口を開けた。
この感じは……。
「くふふ……この娘、相当強力な能力を持ってたから、乗り移っちゃいましたよぉ」
絶対そうだ……。
影入衣、人を操る能力者。
でも、操るじゃなく、乗り移る?
「乗り移る……ってどういう意味なのかな?」
「あ、そうですかぁ……。わかんないですかぁ……。実はですね。ボクの能力は操る能力ではないのですよぉ……くふふ」
なら、なんだと言うのだ……。
「ボクの能力は人に乗り移る能力なのですよぉ……つまり、少しずつ魂を使い、色んな人に乗り移っていたって訳ですよぉ」
「な……」
そういうことか。
「それでですね。この娘は中々に使えそうな身体をもっていましたからねぇ……魂の大半を使って乗り移っちゃったってことですよぉ」
「だから……さっきも」
「えぇ、この娘の能力、使い放題ですよぉ……くふふ」
筋力を増加させる能力……。
「でも、君の何よりの強みは色々な人を操れることだ。たった一人なら、僕の右手で終わりだよ」
「くふふ……ボクを舐めない方がいいですよ」
言ってから影入は、指をパチリと鳴らした。
すると、バタバタとした足音のようなものが段々と近づいてくる。
近づいてくるにつき、それは勢いを増し、振動がボロボロの地下駐車場に響く。
そして入ってきたのは一人の男。
否、二人の女、いや、それも違う。
人、人、人、男女など関係無く、ただひたすらに人が来る。
全員が微弱な黒いオーラを出しながら、殺気に満ちた目でやって来る。
数は見えるだけで千は軽く超え、後ろにもまだまだ控えがいる。
まさか……全部。
「そう、ボクですよ。ボクの能力の力です」
「君、本気になったら世界中の人、操れるんじゃないの?」
「いえいえ、この能力も一応見ただけで発動とかではなく、見えないだけで光線のようなものは放ってますからねぇ。避けられる人には避けられますよぉ……くふふ」
「そうかい……」
それにしても、この状況はやばい。
千人を超える大群を避けつつ、ラスボスである影入を倒す……か。
「くっ……やるしかない」
「おーっと、お前、俺のこと忘れてねえか」
そう決意した時、後ろから肩を叩かれる。
「秋宮君……」
「あっちの大群は俺が意地でも維持してやる。フェニックスの回復力で回復しながら、永遠と防御してれば大丈夫なはずだ」
「でもそれじゃあ、秋宮君が……!」
「おいおい、気にすんな。俺はな。たまには格好つけてぇだけなんだよ」
言って秋宮君は千人を超える大群へと突っ込んでいった。
ふっ、最高に格好いいよ。秋宮君。
さてと……。
「じゃあ、こっちも始めようか。影入。君を早く片付けないと、僕の親友が死んでしまうよ」
「さぁて、出来ますかねぇ……くふふ。ボクを倒すことが」
「さぁね。でも、やるよ。君の身体である音萌さんと、約束しているんだ。守るってね」
さぁ、勝ち目の無さそうな戦いを始めよう。