十六話《神中無月》
神中が少しおかしくなった日から、数日が経った。
神中が来て風使いを倒し、琴鮫と逃げブルマ野郎を倒した時は、一日一日が、とんでもなく長い気がしたが、普通の日々ばかり続いてると、やはり人生なんてものは、時間なんてものは早く進むものであり、ここ数日間はなんだかあっという間に過ぎ去った気がする。
影入……奴はまだ何もしてきていない。
このまま今日も何も起こらなければ八月。
そうなれば蒜燈さんに聞いて、すぐに対策を練り、さっさと倒すとしよう。
そういえば、この数日間は、音萌さんと連絡をとっている。
といっても内容は、何か異常なことはなかったか……とかそんなものだが。
今のところ、音萌さんは無事だ。
何事もなく、今日も夏休みを謳歌していることだろう。
まぁそんな音萌さんに対して、僕なんかは今、秋宮君とテレビを見ているだけ……あぁ、なんて微妙な夏休みだろう。
うーん、昼から蒜燈さんの家にでも行こうかな?
琴鮫もいるだろうし……。
そんなことを思った時だった。
扉が勢いよく開かれ、女性の姿が見えた。
そしてその女性は言った。
「遊園地に行きたいわ!」
というか神中だった。
「それで……なんで僕と二人なのかな?」
「え、あ、いやぁ……秋宮さんは宿題があるって言うじゃない?」
「僕にも宿題はあるよ」
いや、まぁ家とともにどこかにいっちゃったけど……。
あれ、やばくないか? 僕、退学になったりしないよな?
まぁ……大丈夫だろ。いざとなったら蒜燈さんにテストの答えを全て教えてもらえばいい。
「まぁいいじゃない。あ、私はゲットゴースタートに乗りたいわ」
「ゲットゴースタート?」
なんだそれ。僕は英語得意じゃないから分からないぞ……。
「貴方、ゲットゴースタート知らないの? この時代では人気だとパンフレットに書いてあったわよ」
「もしかして、ジェットコースター?」
「…………当たり前じゃない。何を言ってるのよ貴方は」
……。
「まぁいいよ。乗ろうか」
「ええ!」
その後、回数にして二十五回。
僕はジェットコースターに付き合わされた。
「……ねぇ。神中」
「ん? 何よ」
「……あ、アイスでも食べないかな? 買ってくるけど」
「いらないわ」
あ、そうだ。神中はアイス……ちょっとの間いらないんだった。
「よ、よし。じゃあ少しあそこのベンチで休憩しよう」
「もう疲れたの?」
「まあね」
昼から夕方までぶっ通しでジェットコースターに乗っていればそりゃあ疲れるよ。
それから僕たちはベンチに座り、数分ほど休憩した。
「はっ⁉︎」
気づくと夜。どうやらベンチで寝ていたらしい。
横では神中が僕にもたれかかりながら可愛い寝息を立てて寝ている。
「…………」
うん、普通に可愛いよね。神中。
って、今何時だ⁉︎
そう思って時間を確認する。
夜九時……。
もうすぐ遊園地も閉まる時間だ。
「神中! 起きて! 九時だ」
「ふぇっ? もう九時なのぉ……?」
可愛い……。
いや、そうじゃなくて!
「意識をはっきりさせるんだ! 神中」
「やぁっ! あーくんと一緒に寝たいのっ!」
あーくんって誰だ? もしかして僕か?
いつも貴方って呼んでるし……貴方のあからあーくんってことか?
「おーい、神中」
「あーくん……しゅきぃ」
なんだこの萌える生物は……。
「神中、頼むから起きてくれ! 僕の理性がある内に!」
「…………ん」
「ん?」
「あ、おはよう。今、何時なの?」
「えーっと……九時だけど」
ふう、やっと普通になったか。
「え? もう? 大変じゃない」
「ん? 何がかな?」
「最後に観覧車に乗るのよ!」
「え、あ、うん」
僕が返事をすると、神中は僕の手をギュッと握り、観覧車へと走った。
「綺麗だね」
「ええ、綺麗ね」
ギリギリセーフ……。僕たちは観覧車乗れた。
やはり上から見る景色は綺麗で、僕たちは目を輝かせる。
「あの……貴方」
「ん?」
「少し、質問していい?」
「いいけど……」
なんだろうか?
「貴方には……恋愛感情? というものはあるのかしら?」
「え、まぁ……うん。あるけど」
僕も人間だ。それくらいの感情はある。
「では、貴方には……彼女はいるの?」
「ううん、いないし、いたこともない」
はぁ……。彼女欲しい。
「では、例えば……女の子から告白されたら、貴方はどうするの?」
「そりゃあ……嬉しいけど。やっぱりどんな人か分からないと、答えることはできないよ」
当たり前だ。
「では……例えば…………例えばよ? あくまで例えば、私が! 私が付き合ってって言ったらどうする?」
「…………神中は素直じゃないね」
「へ?」
「良いよ。神中……。僕は君が好きだ。その素直になれないところなんかも全てが愛おしい。僕は、神中、君に出会った時から君が好きで好きで堪らなかった。一目惚れしてしまったんだよ」
「一目惚れ……?」
「いや、一目惚れって言っても別に、顔だけで決めたんじゃないよ? 確かに神中は可愛いけど、中身も好きなんだよ。未来のために頑張るところや、この前は音萌さんを心配したりして、とっても優しいそんな神中が好きなんだ」
「……で、でも私、少し変よ? 嫉妬深いし、俗に言うヤンデレ気質よ?」
「そんなところも全て受け止めたい。そう思うくらい、僕は神中が好きなんだけど駄目かな?」
「う、ううん……駄目じゃない」
「じゃあ、僕からも質問があるんだけど良いかな?」
「え? う、うん」
僕は神中に質問した。
「僕と、付き合ってくれる?」
神中はそれに答えてくれた。
「はい!」
今までで一番の笑顔で……。
「ねぇ、貴方」
「ん? 何かな? 神中」
観覧車から降りた僕たちは、手を繋ぎながら帰っていた。
「名前……。私のこと、名前で呼んでくれない?」
「うん、良いよ。無月。でもその代わり、僕のことはあーくんって呼んでくれないかな?」
「え⁉︎ なんでそれを……」
「さっき寝ぼけて言ってたよ」
すると、無月は顔を赤らめて、僕の顔をじーっと見る。
「あ、あーくん?」
可愛い。僕の彼女可愛い。
え、何これ、世界で一番可愛いんじゃないのか?
そんなことを思った時だった。
ポケットから振動音。
つまり、メールである。
「あーくん、見ていいわよ。遅くなっちゃったし秋宮さんが心配しているのかもしれないわ」
「あ、うん。分かったよ。無月」
言ってメールを見る。
相手は音萌さんだった。
書いてある内容は……。
『ショッピングモール』
たったそれだけが、書いてあった。