十五話《ピカイチの変人》
夜になった。つまり、晩御飯である。
僕はもうお腹が空いて堪らない。
早く焼肉屋に行きたいものだ。
おっと、でもその前に……。
「えーっと、音萌、音萌は……」
あ、あった。
メールしておかないとな。
「『そろそろ行くから今日の喫茶店前集合でよろしく』……こんな感じかな?」
メールなんてしたことないからよく分からない。
すると、一分もかからずに返事は来た。
『うん、うん。わかったよー。巳已ちゃんは急いで急いでそちらに向かわしてもらうようよ』
まさかメールでも二回繰り返すとは……。
絶対面倒臭いだろ、罰ゲームでも受けてるのか?
まぁ、ということで僕と神中、秋宮君で、とりあえず喫茶店に向かうことにした。
「ねぇ、その音萌さん? 私たちと一緒に食事なんかして、大丈夫かしら」
すると道中、神中は複雑そうな顔でそう言った。
「ん? なんでだい?」
「私は未来人、秋宮さんはフェニックス、そして貴方はなんかよく分からないものじゃない?」
「なんかよく分からないものって……」
僕は一応一般人だ!
「その……私たち三人がいたら、結構色々なことに巻き込まれるじゃない? 能力者のこととか」
「まぁそれはそうだけど……」
「そんなことになったら、彼女も巻き込まれてしまうわよ?」
ぐっ……確かに。
でも!
「…………そうなったら、僕が助けるよ」
「貴方が……? また?」
「うん、まぁ友達だしね」
「なんで、なんで貴方はそこまで出来るのよ。私のためや、その音萌さんのため、そして未来のために、なぜそこまでやってくれるのよ」
「ん?」
そんなのは、簡単な理由だ。
「僕、女の子の前だと、つい張り切っちゃうんだよ」
「ふふっ……」
神中は僕がそう言うと、そんな風に笑った。
「貴方らしいわね」
「惚れた?」
「ううん、全然」
「そっか」
どうやら、神中フラグは立たなそうだった。
僕たち三人が喫茶店の前に着いてから、五分ほどして、音萌さんは来た。
「遅れてごめんごめん。変態君と秋宮、後……えーっと誰でしたっけ?」
「神中よ。よろしくね」
「チッ……あ、よろしくね」
あれ? 今、音萌さん、神中の挨拶に舌打ちしなかったか……?
気のせいか。
「じゃあ行こうよ行こうよ。変態君。私は私はお腹が空いたよ空いたよ」
二回繰り返すのオンパレードだな。
鬱陶しくて仕方がない。
「いやー、変態君。変態君」
「僕の名前は繰り返さなくていいよ」
「いやー、変態君。大変君」
「大変君っ⁉︎」
僕は相手するのが大変とは言われるけど、まさか大変君とまで言われるとは思っていなかった。
「いやー、とにかく変態君。今日は誘ってくれてありがとうね」
「うん……まぁ、お礼なら僕より秋宮君に言えばいいと思うよ?」
「そうだねそうだね。ありがとうね秋宮君」
そう音萌さんが言うと、秋宮君は「おう」と短く返事した。
「秋宮君面白くないないねー」
「秋宮君ってああ見えてクソ真面目だからね」
すると後ろの秋宮君に「クソ真面目ってなんだよ!」と言って軽く頭を叩かれる。
僕はそれに対してごめんごめん、と適当に謝った。
「あ、そうだそうだ。変態君」
急に音萌さんはそう言って小声で僕に話しかけてきた。
「ん? どうしたのかな?」
「今日、食事の後、少し二人で話せないかな?」
「いいけど、なんで?」
「いやいや、少しね」
ふむ、まぁいいか。
それから数分、僕らは店に着いた。
食事のシーンは割愛させてもらっていいだろう。
そんなに面白くもない。
秋宮君と神中は無言。
僕は音萌さんに永遠と扇風機についての話を聞かされていた。
扇風機とか微塵も興味ないから、本当に困った。
というか、地獄のような時間だった。
そして食事を済ませた僕たち四人は外に出た。
「あ、ごめん。神中、秋宮君。先帰っててくれないかな?」
「え? なんでかしら?」
「ちょっと音萌さんと話があるんだ」
「…………うっ、もしかして」
すると、神中は涙目になり「うわああああああ!」と言って去っていった。
大丈夫か……あいつ。
「ごめん、秋宮君。神中捕まえて帰っておいて」
「んあぁ、わかったよ」
そう言って秋宮君は走って神中を追いかけていった。
「それで……音萌さん。話って何かな?」
「えーっと……ね。私は、私は実は、能力者なの」
「へぇ……何の能力?」
「筋力を何倍にもする能力」
あんまり女の子っぽい能力じゃないな。
「それで……それでね。実は、人を操る能力者? に追われ追われているの」
「……っ⁉︎」
またあいつか……。
「なんで……僕にそのことを?」
「図書館」
「ん?」
「図書館で……実は見てたの、変態君のことを」
あれを見られていたか……。
「変態君なら、もし私が操られても助けることが出来る…………だから、お願いします!」
「……」
「私を、助けて下さい!」
「らしくないよ。音萌さん」
「へ?」
そう、音萌さんはあれじゃないといけない。
「二回、二回繰り返さないと、君らしくない。僕は君を助けよう。だから、らしくないことせずに、いつも通り、二回繰り返すんだ。なんか……落ち着かないしね」
「うん、うんうんうんうんうんうんうん! わかったわかったわかったわかったよ! 変態変態変態君!」
「うざいからやっぱり一回でいいや」
「酷っ⁉︎」
そんな会話をし、僕は秋宮君の家に戻った。
「ただいま」
「お、おい! お前急いで神中の部屋に行け! あのままじゃあ自殺するぞ!」
「は? え、あ、うん!」
僕は急いで階段を上り、神中の部屋へと向かう。
なんだ? なんだ?
なんで急に神中が自殺しそうになっているんだ?
「神中!」
「あ、なんだぁ……帰ってきたのね。ふふふ、私は、私は、私は私は私は私は私は!」
「おい、神中どうした!」
なんだこれ……神中さん目が死んでる。
怖いから怖いから……!
「あ、貴方って靴下……好きだったわよね。ふふふ、良いわ。私の靴下をあげる。この部屋にあるの全て持っていって……ふふふ、ああああああああ!」
狂ってる……!
なんだなんだなんだ……?
「貴方は音萌さんと永遠に幸せに過ごすのね……ふふふ、死ねばいいのに、死ねば死ねば死ね死ね死ね死ね死ね! 死ね! 死ね! あいつ! 何が音萌よ! 萌えないわよ!」
「ちょっと待て、神中。何か勘違いしてないかな? 音萌は能力者で、僕は相談を受けていただけだよ?」
「へ……」
すると、神中は乱れていた髪を手で整え、「ふぅー」と一息ついた。
「あれ? 貴方、なぜ私の部屋にいるのよ」
「え? いや、それは神中が」
「とにかく、出て行ってくれないかしら?」
「あ、はい」
僕はおとなしく従い、部屋から出た。
「神中って……比較的まともかと思っていたけど」
やっぱり、変人だ。
しかも今まででもピカイチだ。
これからは、扱いに気をつけよう。