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十三話《繰り返しの変人》


琴鮫から貰った絵を、琴鮫に作って貰った筒に入れたところで、フレンチトーストが来た。


「フレンチトーストです……ってあれ? 変態君じゃん!」


店員さんはフレンチトーストを持ってきたと思ったら、そんな大声を出して僕を指差した。

というか、変態君ってなんだよ。

僕の高貴で繊細なイメージが崩れるだろう。


「誰だっけ?」


全く知らないぞ、この大声ショートカット。


「やだなぁ、やだなぁ。同じクラスの音萌(おともえ)巳已(みい)だよ。忘れてるとか酷い酷い。いくら私でも泣いちゃう泣いちゃう」

「へ、へぇ……音萌さんか」


無駄に二回繰り返すな。うざいうざい。

あれ? 移った?


「巳已ちゃんって呼んでよ呼んでよ。私と変態君の仲じゃない?」

「変態君って呼ばれてるところに全く仲の良さを感じないんだけど……本当に僕と君って仲が良いのかい?」

「良いも良い、よよいのよいだよ。よよいのよい」


よいよいうるせえ。騒ぐな喚くな。

祭りかここは……。


「あはは……」


適当に愛想笑いしておいた。


「一緒に魔王を倒したの、忘れたーとは言わせないよ?」

「魔王⁉︎ そんな世界感だっけ?」

「私達二人は二人は、世界感すら超越するんだよ」


うーん、おかしいな。

いくら忘れっぽい僕でも、こんな強烈なキャラ……忘れるかな?


「まぁそれはともかく音萌さん。そろそろ仕事に戻らないといけないじゃないかな?」

「あれあれ? そんなそんな感じ感じ? やばいやばい、店長に怒られちゃうよ」


そんな風にまたうるさいくらい二度繰り返した後、音萌さんは、「後一時間でバイト終わるから終わるから、待っててね」と言ってスタスタと去っていった。

え? 待たないといけないの?


「随分、変わった方ですね。あの人も蒜燈さんや慈宴さんみたいに凄い方なんですか?」

「いやぁ……そんなことはないと思うけど」


それなら覚えているはずだ。


「一時間、どうします? ぼくは危険なんでそろそろ帰らないといけないんですが……」

「え? あぁ、また能力者に追われないとは限らないもんね」

「えぇ、外出は一時間までと蒜燈さんに言われていて……」


厳しいな、蒜燈さん。

あの人なら琴鮫がいつ危険なことに巻き込まれるかも知ってるだろうに……。

まぁ、仕方ないか。

常に警戒しておくのは大事なことである。

あの蒜燈さんとはいえ、たまにはミスることがあるしな。

基本的にあの人は、少しドジっ子気質でもあるのだ。


「ということで、話せるのは後一テーマくらいですね。何話します?」

「じゃあ……琴鮫。君はなんで、もう少し男の子っぽい格好をしないのかな? いや、僕としては良いんだけど、僕としては良いのだけれどもね。僕としては、本当に良いんだけれども、やっぱり琴鮫は女の子と勘違いされたくないんだよね?」

「何回繰り返すのですか……。音萌さん超えてますよ。えーっと、ぼくが男の子っぽい格好をしてない……でしたっけ? うーん、そう言われても、ぼくとしてはこれが普通と思っていますからね。仕方がないのです」


仕方……ないのか?

まぁ、琴鮫のお父さんかお母さんが、琴鮫にこんな格好しかさせなかったんだろう。


「ん、そういえば……さ。琴鮫」

「はい?」

「君の親ってどこら辺に住んでるのかな?」

「以外と近いですよ。なんでですか?」

「いや、少し気になってね」

「あぁ、行こうと思っているならやめておいたほうがいいと思います」


ん?


「なんで?」

「二人とも、ぼくと一緒に交通事故で亡くなっているんですよ」

「あぁ……そうなんだ」


人生……何が起きるか分からないものだ。

それも突然のことだったのだろうな。


「あ、お兄様。格好といえばなんですが」

「うん」

「お兄様の学校ってどこにあるんですか? いつか行ってみたいんですが」

「格好から学校は無理があるんじゃないのかな⁉︎」


強引すぎる。

そんな話の繋げ方があってたまるか。


「あはは、まぁとにかく学校、行っていいですか?」

「うーん、まぁ良いよ。今度の補習の時にでも一緒に行こうか。僕としても琴鮫と一緒の学校は楽しそうだし」

「やったー! あ! では、そろそろぼくは帰りますね」

「ん、もう時間か……。以外と話せなかったね。また今度、蒜燈さんのところに行くから、その時はじっくり話そう」

「はい!」


そんな元気の良い返事をして、琴鮫は帰っていった。



その後、すっかり冷えてしまったフレンチトーストを食べて、することもないなーっとぼーっとしていると、誰かが僕の前に座った。


「待たせた待たせた? 巳已ちゃんだよだよ」


音萌さんだった。

もう一時間経ったのか……。


「やぁ、音萌さん。それで、要件は何なのかな? なんで僕を待たせたの?」

「そりゃあそりゃあ、そりゃあ! 変態君と話すために決まってるじゃん!」

「話す……って何? 夏休みの思い出をクラスメイトと共有しようって感じかな? それなら残念だけど、僕はまだ、海にも山にも行ってないよ」

「いやいや、いやいや、そうじゃなくて、さ。変態君……私は君と友達に、フレンドになりたいんだよ」

「はぁ……」

「じゃあ早速下ネタ話そ、下ネタ。好きでしょ? 下ネタ」


下ネタ下ネタ繰り返す女と下ネタを話すのはそこまで好きじゃないかな……。


「女の子が下ネタをそんなにバンバン話すものじゃないよ」

「気にしたらダメだよ。女子って以外と下ネタ話しまくってるんだから!」

「え、そうなの?」


知らなかった。

ちょっと詳しく聞きたいところだ。


「そうもそうだよ。そうそうそう」

「三回も繰り返さないでくれ。腹がたつ」

「毒舌だなぁ、そんなキャラだっけだっけ?」

「君にだけだよ。良いからさっさと女子の下ネタについて聞かせろよ」

「命令形⁉︎ うわーん! 変態君、こわーい」


うわぁ……音萌さん、きもーい。


「あ、そういえば帰って爪楊枝の数を数えないといけないんだった。ごめん、音萌さん。僕は帰らしてもらうよ」

「そんなありえない理由で帰らせないよ⁉︎」

「ありえなくないよ。僕の日課さ。爪楊枝を数えないと僕の一日は始まらない」


言って僕は立ち上がり、外に出ようとする。


「ちょとちょっとー! 待って待ってよ変態君。折角会ったんだしもっともっと話そうよ」

「ごめん、僕も今からバイトなんだ。こんにゃくに切れ込みを入れるバイト」

「へぇ、そうなんだ。引き止めてごめん……ってそんなバイト絶対ないでしょ!」

「世の中、君の知らないことは以外といっぱいあるんだよ」

「そんなバイトがないことは知ってる」


くっ……帰れそうにない。

もうなんだよ、こいつ。

霊剣スペルハートでぶった切ってやろうかな?


「あっ……そうだ。僕、頭悪いから、図書館に行って勉強しないといけないんだったー」

「明らかな棒読みだよだよ!」


なんかつっこまれてるけど、気にせず支払いを済ませ、僕は外に出ることに成功した。


「はぁ……面倒臭かったぁ」


思わず呟く。

なんだ、あいつ。

僕より頭おかしいんじゃないのか?


「はぁ……可愛かったって? やだなぁ。あまり褒められると困るよ」

「うわっ⁉︎」


音萌さんは、いつの間にか後ろにいた。


「図書館で勉強するんだよねぇねぇ? 教えてあげるよ」

「いや、いや、音萌さんには分からないような高度な問題だよ。地球の創り方とかを勉強しているんだ」

「高度すぎるよ! 神様目指してるのるの⁉︎」



 その後、そんな馬鹿みたいな会話を続けた結果、なんということか……僕は図書館で勉強を教わることになってしまった。


「なんだ……変態君、勉強出来るじゃない」

「…………」


早く帰りたいという気持ちで、思いのほか捗ってしまった。

うーん、感謝すべきかしないべきか……。

いや、一応勉強を教えてもらった訳だし、鬱陶しいし、うるさいし、面倒臭いけれど、お礼は言うべきだろう。


「ありがとう。君のおかげで色々わかった。これからも勉強を教えてくれると嬉しいよ」

「お? デレ期きたきた?」


やっぱりこいつうざいな。


「あ、そうだ。今日は秋宮君に焼肉を奢ってもらうんだけど、君も来るかい?」

「ん? 焼肉……? そりゃあ行くよ! 行く行く。というか秋宮君って焼肉とか奢ってくれたりするんだね。不良だと思ってたのに」

「まぁ、秋宮君……不良っぽいよね」


学校にもあまり来ないしね。


「さてと……じゃあ、連絡先交換しようか。そろそろそろそろ私もお昼ご飯食べに帰るしねしね」


しねを繰り返すなよ。

死ねと言われているみたいで嫌だ。

というかしまったなぁ……。

お礼をしようと下手に焼肉なんかに誘ったのは失敗だった。

連絡先交換とか嫌すぎる。


「わかったよ……」


僕はしぶしぶ、連絡先を交換した。


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