十話《悪魔の目の変人》
「蒜燈さん、確かに勝つ方法も知りたいんですが、まず、なんであのブルマ野郎が、琴鮫を追っているのか教えてくれませんか?」
「そんなの簡単だよ。幽霊の能力が、欲しいからさ」
幽霊の……能力が欲しい?
「どういう意味ですか?」
「どういう意味も何もないよ? そのまんまの意味で捉えてくれていい」
そのまんまの意味……。
ブルマ野郎は、琴鮫の幽霊の能力が欲しい。
だから、琴鮫を殺そうと追いかけている……。
「つまり、もしかしてなんですけど、能力者って、能力者を殺すと、殺した能力者の能力を奪えるんですか?」
「奪える……というより貰えると言った方が正しいかな。能力というのは神…………おっといけない。これはまだ君には言わなくていいことだったよ。ネタバレは良くない」
「……?」
「気にしないでよ。忘れて忘れて。全く……私ったらドジっ子だなぁ」
神……? 蒜燈さんは何て言おうとしたんだ?
「あの、蒜燈さん」
「ん? 何? 私のドジっ子属性に思わず萌えちゃったとか?」
「いえ、そうじゃなく……ただ純粋に疑問なんですが、幽霊と言うならば、琴鮫ではなく他にもいるんじゃないですか? それなのに何故琴鮫を……」
「弱いからだよ。琴鮫ちゃんは幽霊としては弱すぎるんだ。だからこそ、狙われた」
弱いから……狙うだと?
「そ、そんなの……最低じゃないですか」
「何を当たり前なことを言ってるの? 誰かを殺そうとしてる時点で、もう最低ってことはわかっていたでしょ?」
「それは……そうですけど」
そうかもしれないけど……。
「琴鮫ちゃんは、今回の件を乗り切ったとしてもずーっと狙われ続けるだろうね。悪い能力者がいる限りは」
「そんな……」
「まぁ、だから……まず、ブルマ野郎を倒せばいいの。それが、琴鮫ちゃんを助ける第一歩なんだから」
「わかりました……。じゃあ、今度こそ聞かせてください。あいつは、どうやったら倒せるんでしょうか?」
そう聞くと、蒜燈さんは一言、「悪魔の目」と呟いた。
悪魔の目?
「悪魔の目ってなんですか?」
「うん? 教えて欲しい?」
なんで焦らすような事を言うんだ……。
「はい、勿論」
「お姉さん、そんなに甘くないからねぇ。嫌だと言っておくよ」
そう言って蒜燈さんはクスリと笑った。
「そ、そんな……蒜燈さん。酷いですよ」
「でも、お姉さんはそんなに酷くもないからねぇ。ヒントくらいなら、もしかしたら教えてあげるかも?」
「な、なら! ヒントを……」
「今夜、九時、学校。はい、この三つがヒントだよー」
今夜、九時、学校……ヒントというかまんまだな。優しいじゃねえか蒜燈さん。
つまり、今夜の九時に学校に行けばいいんだな。
「ありがとうございました。蒜燈さん。でも、後一つ、お願いがあるんですが……」
「今夜の九時までここに居ていいか……でしょ? いいよ。そのくらいなら」
当然のように先読みされた……流石蒜燈さん。
数時間経って、時間は夜九時……。
場所は学校のグラウンド。因みに、琴鮫は蒜燈さんの家の地下室に預けてきた。
学校に勝手に忍び込んでいるけれど、これ、退学とか停学にはならないだろうか?
まぁ、どうでもいいけど……。
「さてと、ここに来れば何か分かると思ったけど…………全く何も起こらないなぁ」
それにしても、寒いなぁ……。
夏とはいえ、夜は冷める。
あぁ、蒜燈さんの家に上着置いてくるんじゃなかった。
そんなことを思っている時だった。
黒い影のようなものが蠢き、そして、僕の目の前に現れた。
「久しぶりだな、人間。まぁ、一日しか経ってないがなぁ」
夏休み、補習の帰り、僕が助けた少女がそこにはいた。
「う、うん。久しぶりだね」
この子と話すの、そんなに得意じゃないんだよなぁ……。
「それで……? 人間、お前は何故ここにいる?」
「悪魔の目……というのが何なのか、教えて欲しいんだよ」
「悪魔の目……か。少し痛むが良いよなぁ?」
「痛む?」
僕が疑問に思い、そんな風に首を傾げたその時だった。
少女は僕に向かって飛んできた。
そして、気づけば、右目、右目の眼球の目の前には、手があった。
少女の手だ。
そしてその手は、段々と近づいてくる。
「怖い怖い怖い怖い怖い」
なんで段々と手を近づけてくるんだよ。
そんなことを思ったその瞬間……。
ある程度まで近づいたその手は、ついに目を潰さんとするほどの勢いで、前に出された。
「痛えええええええええええっっ!」
僕のキャラに合わない、そんな声を出し、右目を抑えながら僕は悶える。
え? なんだ? これがあれか?
悪魔の目なのか?
目を思いっきり平手で殴る技ってことか?
こんなんであいつに勝てる訳ないだろうが……。
その後も、痛みは続き、十数分ほど、僕は右目を抑えていた。
そしてその痛みがマシになったところで、僕は是非ともこの目の前にいる少女に、クレームを言ってやろうと立ち上がると、もう目の前に少女はいなかった。
「クレームを言う暇さえも与えさせて貰えないのか」
与えてもらったのは痛みと怒りくらいだ。
まぁとにかく、目的? は達成したと言えるので、僕は蒜燈さんの家へと戻った。
「悪魔の目……手に入れたようだね」
蒜燈さんはそう言って鏡を取り出し、僕に向ける。
鏡? 何だと思い受け取って鏡を見る。
すると、僕の右目は赤く、否、紅くなっていた。
真紅の目へと変わっていたのだ。
「これが……悪魔の目ですか」
あんなんで貰えるんだな。悪魔の目。
「そう、悪魔の目。名称は能力探知」
「能力探知……」
これが、あれば……!
「これがあれば、あのブルマ野郎に勝てるんですよね?」
「あぁ、お姉さんが保証するよ」
よし、ここから反撃開始だ……!