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一話《未来からの変人》

「ねぇ、宮秋君……この前のテストどうだった?」


夏休み某日、補習のせいで学校にいる僕。

その僕は、友人の宮秋君とそんな他愛のないことを話していた。


「どうだったって……補習に呼ばれてる時点でお前と対して変わらないよ」


僕は全教科零点だから、相当変わると思うけどね。テストっていうのはどうもやる気がでない。

その後も会話を続け、補習が始まった。

そして補習が終わった後、僕は急ぎ足で帰ろうとしていた。

折角の夏休みなのだから、早く帰って寝たいのである。

もちろん、クーラーガンガンで。


「あれ?」


そんなことを思っている時だった。

小さな、女の子を見つけた。

田舎町、アスファルトの上で一人、座り込んでいる女の子を見つけた。

この炎天下、危険かもしれない。


「そこの君」


そう思った僕は、少女の近くに行き、そう言って話しかける。


「ん?」


すると、そう言って、女の子はこちらを見た。

目を見ると、純粋さが溢れ出しそうなくらい綺麗で、輝いており、僕はつい目を反らす。


「こんなに暑いのに、そんなところに座り込んで大丈夫なの?」


僕は女の子と同じ視点までしゃがみ込み、聞いてみる。


「大……丈夫……じゃない」

「えーっと 何が大丈夫じゃないのかな?」


すると、純粋な目をギロリと尖らせ、女の子はこちらを睨むように見つめ「契約しろ」と短くそう言った。


「契約……?」


なんだ? 契約って。


「おい、契約しろ……」

「あの、契約って何なのかな?」

「契約は……契約だ。人間よ。お前は早く己の手を差し出せ」


手? なんのことだろうかと、僕は手を女の子の前に出す。


「それで、良い」


そう言って、女の子はニヤリと笑い、僕の手を……噛んだ。


「……!」


急なことにビックリし、思わず手を引いたものの、女の子はまだ噛みついている。

痛いから! 噛みつかれるの痛いから!


「契約……完了というところか」


そう言って、女の子は僕の手に食い込んだ歯を引き抜いた。


「な、何がしたかったんだい?」


うーん、この子、何者だろうか?


「おい、人間……名前を言え」


やけに偉そうだな。


「僕の名前は、あー……うん、やっぱりやめておこう」

「な! おい、人間。なぜ名前を言わん!」

「いや、なんか君に名前を教えるのは怖そうだ」


定期的に家まで来て噛んできそうだ。

それは怖すぎるな。

すると、女の子はなんて呼べばいいのか? と言うことを聞いてきた。

うーん、なんて呼べば……か。


「お兄ちゃんとか?」

「私は、お兄様という言い方のほうが好きだ」


いや、知らねえよ。

なんでその年でそんな謎の価値観を持っているんだよ。


「じゃあ、お兄様でいいよ」

「そんなことを私に言わせるのか……人間、お前らの種族はいつからそんなに気持ち悪くなった」


お前が言ったんだろうが!


「それじゃあ、ご主人様でいいよ」

「ご主人? はっ、人間ごときがか? さすがにその呼び方は出来んなぁ」

「さっきから思ってたけど、君って厨二病なのかな?」


僕がそう言うと「厨二病?」と女の子は首を傾げた。

なんで厨二病は知らないんですか……。


「いや、なんでもない」



うーん、というか僕はいつまでこの女の子と話していればいいんだろうか?

噛みつかれたり、やけに偉そうにされたりで、全くメリットがないじゃないか。

むしろ、家でダラダラとする時間が減らされてる分、デメリットでさえある。


「ねぇ、僕そろそろ帰って良いかな?」

「え? 帰るの?」

「いや、帰るよ。だって君、元気そうだし、僕は心配だから話しかけただけなんだよ」


そういうと、女の子はムーっとした顔になり、一言、「暇だ!」と大きな声で言った。


「暇だと言われてもなぁ……」

「おい、人間。お前なにか好きなことはないのか? 血を飲むこととか、骨を食べることとか」

「君は僕をどんな人間だと思っているんだ……」


悪魔か? それとも化け物か?

発想が怖すぎるぞ!

それとも、最近の子供ってみんなこんな感じなのか?

いやいや、それこそ怖いな。


「じゃあ、何が好きなんだ?」

「えーっと、女性の靴下を舐めるのが好きだけど……」

「へぇ、女性の靴下を…………」


あれは良いものだ。

妹のは少し不味かったけどね。


「ってただの変態じゃん!」


すると、女の子は大きな声でそう言った。

ビックリする。やめて欲しい。


「変態とは失礼だな。別に僕は女性の靴下を舐めることによって、匂いやらなんやらで興奮する訳ではなく、ただ純粋に女性の靴下を舐めるのが好きなだけなんだよ」

「お前のキャラが急に濃くなって私は純粋にビックリするよ」


キャラが濃い? 僕ほど普通で、一般的で、平均的な高校生もいないだろうに……。

女性の靴下を舐めたいという気持ちは、誰もが持っていて当たり前なものだろ?

この女の子は女性の靴下を舐めたくならないのだろうか?


「それで、何の話をしていたんだっけ? 好きな靴下の話だった?」

「違う! 靴下の話はどこかに置いておいて」

「じゃあまずは僕の好きな靴下についてなんだけど……」

「続けるの⁉︎ この靴下の話続けるの⁉︎」


うん、と僕は首を縦に振り話を続ける。


「出来れば一日は話したいね」

「長いよ!」


うーん、そうかな? まぁ、そう言うのならやめておこう。


「それで、何の話をしたいのかな?」

「うーん、好きな……食べ物は?」


意外と普通だな。まあそれくらいなら答えられる。


「お刺身かな。僕は魚が好きなんだよ」

「おお、私も好きだぞ。人間の食べる魚は美味いからなぁ。お刺身も良く食べる……。醤油に漬けると美味いんだよなぁ……」


醤油?


「え?」


思わず僕はそう言って聞き返す。


「ん?」


ん? と言われてもなぁ。醤油ってなんだよ。刺身に関係ないじゃないか。


「醤油って、刺身とどう関係があるのかな?」

「ん? 人間、お前もそうやって食べるだろ? 刺身を醤油に漬けて」

「え? 何を言っているのかな? 刺身をなにかにつけるなんて気持ちが悪いよ」


想像しただけで、寒気がする。

刺身に醤油なんて、そんなことする人は異常だよ。


「ああー! さっきからなんなんだよお前は! もう帰っていい! 帰っていいよ!」

「うん、じゃあそうさせてもらうよ」


何だったんだろうか? 全く変な子だった。

そして、僕は家へと帰った。



 そういえば、僕の周りには変人がよく集まる。

例えば、僕の幼馴染である三白義(みしらぎ)は、僕にやけにベタベタとしてくる。

僕のような何の個性も何もない普通の人間に、いくら幼馴染とはいえ、高校生にもなって、一緒に買い物に行こうだの何だのはどうかと思う。

他にも、僕の妹三人は、僕とまだ一緒にお風呂に入ろうだとか言い出したりして、本当に少しスキンシップが激しすぎると思う。

全く、あいつらの将来が心配になるよ。

それはさておき、僕はやっとのこと家に着いたのだが、あの女の子とどれくらい話したのだろうか? 帰るころにはもう夜になっていた。

因みに、僕は今、一人暮らしだ。

もう高校生だから大丈夫だろうという判断らしい。

うん、まぁ気楽である。

因みに因みに、この家は、僕の住んでいるこの家は、幼馴染に買ってもらった。

三階まであるそこそこデカイ家だ。

一人暮らしをしていると、部屋が余って仕方がない。

うーん、汗が凄いなぁ……。

やはり、夏だというのに、あんなところにずっといたからだろう。

よし、風呂に入ろう。

僕はお風呂は九時だと決めているが、二回入っても問題はないしな。


「う……しみるな」


シャワーを浴びると、右手がずきずきと痛い……。

なんだろうかと見てみると、歯型がびっしりとついていた。


「な、なんだよ……これ」


犬にでも噛まれたんだったか? いや、そんな訳がない。

今日の僕は、生徒の模範として、夏休みにも関わらず学校に行き、帰り道、困っている女の子を助け、まっすぐ家に帰ってきたはずだ。


「随分、都合の良い記憶ね。少し引くわよ」


ん? 今声が……。

そして振り向くと、そこには女がいた。

僕と同年代……いや、年上だろうか?

胸の大きさは普通、形は中々と言える。


「あ、お客さんですか?」

「客がなんで風呂にいるのよ!」


知らないよ。何を怒っているんだろう……この人は。

もしかして、僕が裸を見たからか?

いや、そんな訳はあるまい。

そもそも、見られるのが嫌ならば、僕が入っている風呂にいる訳がない。

というか…………。


「なんで貴方は勝手に人の家のお風呂に入っているんですか!」

「今⁉︎ 遅くない?」


うーん、確かに……。

女の人がお風呂に入ってくるというのは、中々羨ましく、理想で、夢ではあったけれども、実際起きると混乱してしまうのかもしれないな。


「それにしても、中々良い体してますね。それで……なんでしたっけ? お客さんでしたっけ?」

「だからなんで客が風呂にいるのよ! というか変態⁉︎」


勝手に風呂に入ってきた女に変態と言われた。うーん……変態と言われても、興奮しか出来ないのはなんでだろう?

まぁ、でも僕は変態ではないので一応否定しておこう。


「僕は変態じゃないよ。それで、お客さんでしたっけ?」

「なんで意地でも私ををお客さんにしたいのよ!」

「ん? お客さんとしたい? いやいや、とんでもない。いくら貴方が魅力的な体とはいえ、会ったばかりでそういうことはしませんよ」


そう言うと、女は「はぁ……」と溜息を吐いた。


「どうしたんですか? 変な人にでも会いましたか?」

「えぇ、あぁ、うん。本当についさっき……」


この人もいろいろ大変なんだな。

人生いろいろあるもんだ。


「それで、なんでしたっけ? お客……」

「さんじゃないから!」

「お客さんじゃないんですか」


菓子でも差し上げようと思ったのにな。無駄に余った、無駄に高いお菓子……。


「私は! 未来から来ました!」


すると、女は急に大声でそう言った。


「未来から……ですか」


また、変人に出会ったしまったようだ。



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