非武装少女クララちゃん2
私はクララ。
将来、魔王になることを約束された(はずの)女の子。
ただし生まれがオカピ。
【オカピ】
鯨偶蹄目キリン科の哺乳動物。
足の縞模様が美しく、森の貴婦人などと呼ばれる。
頭胴長1.9-2.5m 肩高1.5-2.0m 体重200-250kg
体型的にはウマに似ている。
雄大な山谷が育む川の流れ。
濃密な大森林。
私が生まれたのはそんな遥かなる大自然の中。
まだ生まれたばかりの私。
生まれた時から、先代の【悪】より受け継いだ記憶と知識と宿命が使命を果たせと駆り立てる。
だけど今は何の力もない、私。
これがヒト型種族に生まれたんだったら、特別な才能を開花させるに苦労はなかったはずなんだ。
だってヒト型種族は才能を磨き、実力を高める為の技法や手段が確立されているはずだから、Lv.上げに困るなんてなかっただろうし。
でも私はオカピ。
大自然の中では食われる側のイキモノ。
獰猛な肉食獣(主に豹)に常に狙われるイキモノだ。
考えなくてもまだまだ悪として起つには時期尚早。
私が死んでも、次の悪の芽がどこかに生まれるだけではある。
だけど生まれたからには使命を全う……出来なかったとしても、名を残すくらいの功績は出したいじゃないか。
生まれてすぐに豹に食われて終わった魔王(草食動物)なんて……ああ、マヌケ過ぎる!
今ここで終わっても誰にも私という存在がいたことには気付かれないだろうが……記憶は、次の悪の芽に引き継がれるんだよ!!
こんな間抜けな一生、次代にそのまま残すなんて耐えられない。
何としてでも、あんな悲惨なスタート切ったのにアレだけのことを達成したのか!と次代に讃えられるような一生を送りたい。
でも大自然の中で生き抜く知識と経験の足りない私。
今まで様々な種族に生まれた代々の悪の記憶と知識はあるものの……大概がヒト型種族や魔物、魔族など。
草食な動物に生まれたモノは皆無! 私以外!
私が史上初! 全く嬉しくねぇ!!
誰もこんな快挙は望んでいなかった。
野生の草食動物として生きた知識と記憶が全くないので、本当の意味で一から築き上げていくしかない。
ここは野生の掟に従って、まずは最も身近な先達……実の親から大自然の中で生き抜く術を身につけなくては。
最初はどうなることかと思ったけれど、慣れれば何とかなるかも……ん?
あれ、そういえば今日は母しかいないな。
父を最後に見たのはいつだっけ。
確か昨日の昼、餌を探しにどっか出かけてたような……
そういえば、父の姿が昨日から見えない。
「おかーさん、おとーさんは?」
「クララちゃん……」
「昨日から帰ってないの?」
「クララ……私達は弱いけれど、だからこそ強く生き抜かなくっちゃいけないのよ」
そういえば、父の姿を昨日から見ていない。
「うん、わかったよ。おかーさん」
「ごめんね、ごめんねクララちゃん……お父さんにはいつかきっと、きっとどこかで会えるから……」
何となく、察した。
それって死後だよね、お母さん?
私達が暮らす大自然。
おうちは大森林。
主な天敵は、豹。
大自然の掟は、今日もとってもシビア。
そんな中、オカピに生まれた私。
クララちゃん0歳。
――ちっくしょぉぉおおおおおおっ なんでオカピなんだよぉ!
命の危機そのへんに転がり過ぎじゃねぇか!!
「おかーさん! この葉っぱ、キラキラした味がする!」
「まあ、本当ね。次にいつ食べられるかわからないからお腹いっぱい食べましょう」
「この葉っぱ、なんていう葉っぱ?」
「これは『美味しいごはん』よ」
「あ、うん……(所詮野生動物、知識はその程度か……)」
そんな今日でも、餌はとっても美味しくいただけるのは野生の強みだと思う。
前世から受け継いだ美食の記憶は数あれど、今は葉っぱが1番美味だと思う。
味覚は完全に草食動物ナイズされていた。
まあオカピの身体なんで当然だけどな。
しかし数ある魔王の大概は肉を主食にしてたようなのばっかりだってのに……今は試してみる気にもなれん。
代わりに肉食全開でいた頃にゃ単なるオマケか飾り程度にしか感じられなかった希少価値の高い野菜や香草薬草の類に涎が湧いて仕方ない。
私もいつか、あの野菜や果物が食べられるように、なるんだ……!!
その為にも魔王として実力をつけ、いずれは相応しい地位を得る必要があるんだが……そんな先行きが全く見えない、今日この頃。
悪の使命を果たす為にも、人間やエルフ共に恐怖を与えてこそなんだけど。
「かーさん、私……決めた!」
「何を決めたの、クララちゃん」
「私、ヒトを滅ぼして、その生息跡地に美味しい葉っぱが生える木を増やす魔王になる!」
「???」
きょとーんとする、母。
あ、野生動物には理解できなかったか?
「つまりね、美味しい葉っぱがたくさん食べられるようにしたいの」
「それは素敵ね! お母さん、クララちゃんの夢を応援するわ!」
母は素敵に食欲に支配された眼差しをしていた。
さすが野生動物、生存本能と欲望に忠実だ。
「でもクララちゃん」
「なに、おかーさん」
「ヒト? とかマオウ?ってなにかしら」
「あー……えっと、かーさん、見たことなぁい? こう、2本足で歩く……えぇと、頭のてっぺんにだけ毛が生えた生き物」
「??? ああ、山向こうに住んでいるディダラボッチさん達かしら」
「それよりもっと小さいやつ! えっと、豹よりは小さい……かなあ?」
「うーんと……?」
どうやら母は、ヒト型種族……人間やらエルフやらを見たことがないらしい。
母よ……ディダラボッチは妖怪だ。
いつか世に恐怖を蔓延させ、暗黒を支配する魔王にならなくっちゃいけない。
だけど、その為にはヒト型種族に恐怖をばらまいて力をつけなくっちゃと思った矢先。
「ヒト、ねえ……?」
「本当に見たことないの、おかーさん」
「うぅん……お猿さんとは違うのよね?」
「似て非なるモノだよ、かーさん! まだ二足進化してない猿とはやっぱり違うイキモノだから!」
あ、うん……やっぱ道のりは遠そうだわ。
人里すら見えないこの場所で、一体どうやってヒト型種族に恐怖をばら撒けば良いんだろうか。
私の起つ日は……まだまだ遠い。
クララ Lv.1
種族:オカピ
職業:野生動物
HP:5
MP:2
SP:2
スキル:野性の力Lv.1 野生の勘Lv.1 哀願ビームLv.1
称号:悪の芽 魔王の後継者
装備:毛皮(自前)