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神様のデスゲーム  作者: よっしー
第五章 願
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20-4 一つ目の鍵

 ボレロ・カーティスはヴァラヴォルフとの戦いを終え、火柱の立った城門へと急いでいた。


「さっきのは一体なんなの……」


 早足で現場へと向かうボレロの表情には若干の焦りが見えていた。

 自身の能力で作り上げた氷の上にいる人間を自分が見通せないはずがない。

 しかしボレロは今、メルルとクロード以外に人間を感知していなかった。


「あれは明らかにクロードでもお姫様の能力でもない……」


 自分の力で把握できない相手、そしてそれと対峙しているであろうクロード。


(あいつ……もし死んだら一体誰かあたしの世話すんのよ……)



 ◇


 

「クク、中々に興味深い能力じゃの。こやつはお前さんの組織のデータにはおらんのか?」

「はい……ですがこれだけの力……確実にA級以上のものでしょう」


 城門の前でそんな会話をするのは魔術師ローゼンクロイツとECS副会長アレックスであった。


「しかしこやつの能力、どちらかと言えばお前さん等の能力よりも儂と近い気もするのう」

「それはつまりこいつは魔術師だということですか?」

「そこまでは言っとらん。じゃがただの能力者というわけではなさそうじゃ」


 2人の前に横たわっているのはボレロの執事である全身傷だらけのであるクロードであった。


(これが黒の魔術師ローゼンクロイツの力……ですか……)


「のうお前さん。確かクロードとか言ったな。ちょいと儂の研究に付き合う気はないか? 協力してくれるというのであれば命だけは見逃してやってもよいのじゃが」

「嬉しい誘いですがご遠慮させて頂きます……ワタクシは生涯お嬢様の執事ですので……」

「そうか、それは誠に残念な返事じゃな」


 ローゼンクロイツは深くため息をついて自身の身長よりも遥かに長い杖をクロードへと向けた。


「元の世界なら体の一部でも持って帰れたのじゃが」


 杖の先端が青白い光を発する。

 次の瞬間には膨大な力がクロードの体を消し去る、そんな時だった。

 1人の少女がローゼンクロイツに向けて声を上げた。


「あなたあたしの執事になにしてんのよ!!!」


 それはボレロ・カーティスであった。

 ローゼンクロイツはボレロの方を向くと杖を引っ込め、ニヤリと笑う。


「やっと来よったか、氷の小娘」

「お、お嬢様!?」


 ボレロはクロードの周りの氷を操り、ローゼンクロイツ達からクロードを自身の元へと引き寄せる。

 そして自分の傍に移動させたクロードに怒鳴りつけた。


「あんな奴ら相手になにしてんのよ!!! それでもあたしの執事なわけ!?」

「ハハ、これは手厳しい……これでも一応全力を出したのですが……」

「言い訳無用よ!」

「……申し訳ございません」

「もういいわ! 次やったら絶対に許さないんだから!!!」


 そんな2人を見ながらローゼンクロイツは軽い口調でボレロへと話しかけた。

 

「その辺にしといてやったらどうじゃ。なんせそのクロードとかいう男の相手は儂じゃったのだからのう」

「そんなの関係ないわ! それよりもどうしてあなたがここにいるわけ?」

「クク、まぁ成り行きというやつじゃよ。それにしてもその態度、100年前とか変わっとらんのう、目上の者にはもっと敬意を表さんかい」

「いちいちうるさいわね。あなたのその偉そうな態度もぜんぜんっ変わってないじゃない」


「ふ、二人とも落ち着いてください!」


 いがみ合う両者に割って入ったのはアレックスだった。


「僕らは別にあなたと戦いに来たわけではありません」

「あら、なら何しにここに来たわけ?」

「メルル・ルルミック、千里眼のお姫様と呼ばれる少女を探しにここに来ました」

「ふーん、あなた達もあのお姫様が目当てってわけ」

「達も?」

「ええ、ついさっき狼男さんもここにお姫様を探しに来たのよ。まぁあたし達がそうなるよう仕向けたんだけど」


 アレックスは先程すれ違ったドイツの狼男ヴァラヴォルフを思い出す。


(やはりローゼンクロイツさんの言っていたようにヴァラヴォルフはここにメルル・ルルミックを探しにきたのか……)


「でもどうしてそんな事を……」

「どうしてってそれは……あら、どうしてかしら? ねぇクロード、どうしてあの狼男と戦うためにわざわざあのお姫様をさらったの?」


 ヴァラヴォルフと戦うことだけしか考えていなかったボレロはそんな疑問をクロードに投げかける。


「言いませんでしたか? あの男は何かを守ろうとする時に驚異的な力を発揮する、そうワタクシは確信したのです。その際の力ならお嬢様の遊び相手として充分かと思ったのですが」

「ああ、そういうこと。まぁ確かに人間にしては強かったわね」


 ボレロはついさっきまでのヴァラヴォルフとの戦いを思い出す。

 思い返せば自分を相手にあれほど戦える能力者というのには過去にそういなかった。


「まぁでも結局あたしに傷一つつけることなく死んじゃったけど」


 それを聞いてクロードは戦いが終わったことを察した。

 それと同時に、自分が認めたあのヴァラヴォルフでさえボレロを完全に満足させることはできなかったという事実も知ることとなる。


「そうですか。それでそのメルル・ルルミックは今どこに? 僕らは彼女さえ手に入ればここに用はありません」

「お姫様? それならそこにいるわよ」


 ボレロはそう言って自分の後ろを指差す。

 そこには呆然とした表情で立ち尽くすメルルの姿があった。


「おおかみさんが……しんだ?」


 そのメルルの顔を見て思わず笑顔になるボレロ。


「フフ、そうよ。彼はもう死んだの。この世界のどこにもいないのよ」

「う……そ……うそうそうそ!!! そんなのぜったいうそ!!!」

「あら、そんなに信じたくないなら自分の能力で彼を見てみなさいよ。今頃あっちで氷漬けになっちゃってるわよ」

「だって……約束したんだもん……待ってろって……すぐに行くからって……」


 ボロボロと目から涙を流すメルル。


「のうボレロよ、その娘をこちらにおとなしく渡してくれんかのう。そうすれば儂らは別にお前さんと戦う理由もない」

「うーん、そうねぇ。まぁ見たいものはもう見れたしこの子にはもう用なんてないしねー」


 そう言いながらボレロはメルルと近づいていく。


「でもね、一つ勘違いしてるわよあなた」


 距離は縮まり、泣きじゃくるメルルを見下ろすようにボレロは微笑む。


「あたしね、あなたとも戦いのよローゼンクロイツ。それにあの狼男と同じようにこの子も氷の中に入れてあげる方が美しいと思わないかしら?」


 そう言ってボレロはメルルの頭に手をかざした。


「なっ、やめ──」


 ローゼンクロイツとアレックスとがすぐにそれを止めようと動こうとするが、その目の前に黒い翼を生やし、残った僅かな力で起き上がったクロードが立ち塞がった。


「バイバイ、お姫様」


 ローゼンクロイツの手がメルルの頭に触れる。


 その瞬間だった。

 ボレロの背中にゾクリと得体のしれない何かが走った。

 それは今までにたった一度だけ感じた感覚。


 100年前、まだシュレム・ヘクセがローゼンクロイツを名乗る前の事。

 シュレムを連れていたあの黒の魔術師ローゼンクロイツと出会った時と同じ感覚。


 自分の命を脅かす程の強大な力の塊を目の前にした時と同じだった。


「マ゛モ゛ル゛」


 突如として現れたのは黒いオーラを身に纏ったヴァラヴォルフだった。

 全身の毛を逆立て、白目を向き、完全に理性を失ったその姿はまさに怪物。


「なっ──」


 ヴァラヴォルフは虚を突かれたボレロの腕を切り裂いた。

 ボレロは右腕から血を流しながら身を引き、ヴァラヴォルフの姿を確認する。

 そこには先程の戦いで負った傷は一切ない。


「なるほど……あなたも人間であることを完全に捨てたってわけ……」


 ボレロの白い肌から赤い血が地面へと滴り落ちる。

 自身の腕から流れ出る血を見て、ボレロは今までに無いほど不気味に微笑んだ。


「これよ……あたしはこういう遊び相手が欲しかったのよ!!!」


 ボレロを中心に、周囲に冷気が広がった。

 肌を刺すような痛みを感じさせるほどの冷気。


 それはボレロが完全に本気となったことを意味していた。


 だがそんなボレロを止めたのはヴァラヴォルフではなく、執事であるクロードであった。

 クロードはボレロを背後から腕で抱え、巨大な黒い翼を羽ばたかせて上空へと一気に飛び去る。


「ちょ、ちょっとクロード!!! 邪魔しないで!!!」

「ダメですお嬢様」

「どうしてよ!!!」

「今はあの男だけでなくローゼンクロイツもおります。いくらお嬢様でも分が悪いかと」

「ふざけないで!!! あんな奴らあたしなら──」

「分かっております……しかし、しかしここはどうか……」


 ボレロはそんなクロードに対し、怒りを露わにする。


「そんな事あたしが納得するわけないじゃない!!! 今すぐ降ろしなさい!!! でないとあなたも殺すわよ!!!」

「構いません。どうしてもあの方々と戦うというのであればこのクロードを殺してください」


 その言葉にボレロはグッと歯をかみ殺し、ため息をつく。


「ふんっ、まぁいいわ……今回はあなたに従ってあげる……」


 不服そうに呟くボレロを見てクロードはホッと胸を撫で下ろした。

 クロードが危険を顧みずに行動を起こしたのはもちろんローゼンクロイツという人間の存在が大きかった。

 しかし、それ以上に彼が恐れていた人物があの場にはいた。


 それはアレックスとローゼンクロイツと共に行動を共にしていた人間、白石 希望の存在。


(あの女……本当に人間だったのでしょうか?)


 戦うことも口を開く事もしなかった白石であったが、クロードは確かにあの場で感じていた。

 アレは自分達とは何か根本的なところで違う次元に立っていると。


 

 ボレロを抱え飛び去っていくクロードを眺めながらアレックスは口を開いた。


「何とか戦いは避けられましたがあの男をどうすれば……」


 ボレロ・カーティスという脅威が去った事に安心しつつも、アレックスは新たに現れた脅威であるヴァラヴォルフに目をやる。

 そんなアレックスの心配をローゼンクロイツは特に気にすることもなく、軽い口調で口を開く。


「なに、心配はいらん。見たところもう限界のようじゃ」


 ローゼンクロイツの言葉通りヴァラヴォルフはフッっと意識を失ったように倒れ、そのまま変身が解け、元の人間の姿へと戻る。


「おおかみさん!!!」


 そんなヴァラヴォルフに駆け寄るメルル。


「能力の暴走……いや、その一歩手前と言ったところかのう。なんにせよ危ないところじゃった」


 ローゼンクロイツはそう言いながら倒れたまま動かないヴァラヴォルフと、その体を泣きながら抱きしめるメルルの元へと向かう。

 そしてメルルの頭にポンッと手を置いた。


「安心せい。この男はまだ死んでおらんよ」

「ほんとに……ほんとに?」

「ああ。じゃが危険な状態ではあるのは間違いない。すぐにでも治療を始めるぞ」

「たすけて……くれるの?」

「無論じゃ。じゃがその代わりにお前さんには儂らに少々協力してもらぞ」

「なんでもする!!! おおかみさんが助かるならわたしなんだってする!!!」

「クク、いい子じゃ」


 神殺しによるゲームの崩壊。

 それを為すために必要な一つ目の鍵を、こうしてローゼンクロイツとアレックスは手に入れた。

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