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神様のデスゲーム  作者: よっしー
第五章 願
79/81

20-2 規格外

 地上300メートルを真っ逆さまに落下するヴァラヴォルフとボレロ。

 地面激突の時間はおよそ7秒程。

 その僅かな時間の合間、ボレロは瞬時に大気を凍らせ、自身の周囲に2本の氷柱を作り上げた。

 そしてそれをそのままヴァラヴォルフへと発射する。


(くそっ、避けられねぇ!!!)


 素早く両腕で体を覆い、防御態勢をとるヴァラヴォルフであったが、2本の氷柱はその腕ごとヴァラヴォルフの体を貫く。


「がっ──!?」


 体を貫かれたままヴァラヴォルフは地面へと激突し、周囲に氷の破片が散らばった。

 対してボレロはまるで落下の際に自身の体にかかった重力などなかったかのようにタンッという軽い音を立てて地上へと降り立った。


「まさかこんなことで死んじゃったりしないわよね?」


 氷の庭園に横たわるヴァラヴォルフに軽い口調で話しかけるボレロ。


「当たり……前だろ……」


 ヴァラヴォルフ少しよろめきながらも立ち上がり、体に刺さった氷柱を引き抜きながら答える。

 致命的な傷も再生してしまうヴァラヴォルフの能力、しかしそれは傷を負った際に生じる肉体への負荷が無くなるわけではない。

 つまりヴァラヴォルフは能力を使用するたびに確実に自身の体力が削られていくということである。


 ボレロはそんなヴァラヴォルフを見ながら「次はどんなことして遊ぼうかしら」と指を口に当てながら悩み始める。


 そんな時、ヴァラヴォルフはある事に気がついた。


「これは……雪?」


 よく見れば2人の周囲には何かキラキラと光り輝く物が雪のように降り注いでいた。


「あっ、気がついた?」


 すぐに警戒を強めるヴァラヴォルフであったが、その様子を見てボレロは楽しそうに笑う。


「フフ、そんなに警戒しなくでもいいわよ。これはただの小さな氷の結晶、あたしが能力を使うと毎回自然にでるの。どう? とても綺麗でしょ?」

「いいや、全然……」


 そう答えるヴァラヴォルフであったが、内心では違っていた。

 命のやり取りの最中、一時も気が抜けないようなこの状況下でヴァラヴォルフは確かにその氷の結晶を綺麗だと感じていたのだ。


 光を反射しながらキラキラと光り輝く結晶の中に、とても美しく微笑む氷の女王。

 まるで自分の今まで見てきた世界は偽物だったとつきつけられるような、それほどまで幻想的な世界。


 ヴァラヴォルフは思ってしまう。

 この美しい場所で死ねるのならそれでもいいのではないかと──


(いや、何考えてんだ……俺はこんなところで死ぬわけにはいかないだろうが……)


 ここで思い出すのはこの4日間行動を共にしていた少女の笑顔。

 最初はただ利用するためだった。

 利用するだけ利用して、使えなくなれば殺そうと思っていた。


 そのはずだった──


 だからおおかみさんと同じばけものでうれしいの!


 今はわたしがおおかみさんのおともだちだからさみしくないね!


 おおかみさんがたすけてくれるって思ってたからへいきだったよ!


 絶対……絶対に約束だよ!


「あぁ、そうか……俺はあいつが大事なんだな……」


 このゲームに参加したのは元々は自分の意思ではなかった。

 だが、参加が決まってからはある目的のためにヴァラヴォルフは戦った。


 自由になりたい──


 一族のしがらみなど無く、争いも無く、誰も自分を恐れず干渉しない。

 そんな自由な場所へ行きたかった。


 しかし何故だろう、いつの間にかその目的は自分の中から消えていた。

 別に自由でなくたっていい、ただ傍で化物のような自分を友達だと言ってくれる1人の少女がいればいいと。

 そんな事を思うようになっていた。


 失いたくない。

 そして自分も死ぬわけにはいかない。


 ヴァラヴォルフは目の前の本物の化物を睨みつけ、そして全快させた体に力を込める。

 自分のためではない……ただメルルとの約束を守るため一匹の狼は戦う。



 ◇



「そうね、良いこと思いついたわ」


 ボレロはそっと右手を前に出すと、そこに自分達に降り注ぐ氷の結晶を集めた。

 やがてその結晶は形を作り、ある物をボレロの手の中に形成した。


 それは切っ先から柄の先まで氷で作られた日本刀。

 もちろんヴァラヴォルフは日本刀など見たことはないが、ただ1つ分かることがあった。


(あの刀……相当やべぇ……)


「フフ、あの氷人形よりも上手に作れたかしらね」


 そう言ってボレロはその刀を軽くビュンと縦に振った。

 特に力を込めるわけでもなく、ただ刀を上から下へと軽く振り下ろしただけ。

 たったそれだけの動作でヴァラヴォルフのすぐ横の氷の地面は遙か先まで割れ、更にその割れ目から海辺の岩にぶつかった波のような氷の塊が咲いた。


「あら、結構いいわね」 


 満足気な表情をするボレロにヴァラヴォルフは目にも留まらぬ速度で攻撃を仕掛ける。

 極端な話、ヴァラヴォルフの攻撃はただ1つ、自身の強化した肉体での直接的な物理攻撃のみである。

 四肢や体を狼に変化させ、驚異的な再生能力を誇るヴァラヴォルフの能力ではあるが、炎を出すことも水を出すことも念動力を使うこともヴァラヴォルフにはできない。

 できるのはただ自身の体を傷つけながらでも一撃で敵の急所を引き裂くことだけ。


(あの刀の攻撃をまともに受けたらだめだ……その前になんとしてもあいつの喉笛を掻き切ってやる)


「確かにあなた速さだけならあたしよりも上ね、でもそれだけじゃこのあたしには指一本触れられないわよ」


 自分に迫るヴァラヴォルフに対し、ボレロは庭園の地面へ自身の能力を発動させる。

 するとボレロとヴァラヴォルフの前に巨大な氷の壁が現れた。

 しかしヴァラヴォルフはそれを素早く避け、最短距離でボレロの元へと向かう。


 壁を迂回し、ヴァラヴォルフの目がボレロの姿を捉えた時だった。

 突如ヴァラヴォルフの前に鋭く尖った氷の氷柱の先端が目の前へと現れる。

 頬を掠めながらもそれを回避するヴァラヴォルフ、しかしボレロの攻撃はそれだけでは終わらない。


「あたしの力は全てを凍らす、そして凍らせたものは全てあたしの力」


 氷柱を避けたヴァラヴォルフを囲んだのは、まるで蛇のようにうねうねと動く細長い氷の柱だった。

 その数はおよそ50を越え、その全ての尖った先端がヴァラヴォルフへと向けられる。


「くそがっ!」

 

 素早い動きでその一本一本を砕きつつ避けるヴァラヴォルフ。

 生き物のような動きをするその氷の柱は速さで言えばそれほど脅威ではない。

 しかし、砕いても瞬時に再生し、その数を増やしていく柱にヴァラヴォルフは徐々に追いつめられていった。


 そして気づいた頃にはヴァラヴォルフの周囲のほとんどは氷で覆われ、逃げ場をほぼ失う。

 そんなヴァラヴォルフにおびただしい数の氷の柱は一斉に襲いかかった。


(ちっ、あそこしか逃げ場はねぇ……)


 360度ほぼ全て氷で囲まれたヴァラヴォルフは柱と柱の間に唯一の隙間を見つけ、すかさずその隙間から抜け出す。


「フフ、いくら速くてもこうしちゃえば捉えるのは簡単ね」


 窮地を脱したヴァラヴォルフを待ち受けていたのは微笑みながら氷の刀を振り上げるボレロだった。

 

(まずい!?)


 ヒュンッと風を切る音がヴァラヴォルフの耳に届き、その刹那ヴァラヴォルフの左腕は宙を舞った。

 腕を失って少しバランスを崩しながらもヴァラヴォルフはその場から急いで離れる。


「あら、確実に仕留めたと思ったのにしぶといのね」


 落ちてきたヴァラヴォルフの左腕を掴んで、ボレロは関心したようにそう言う。


(あぶねぇ……)


 ボレロ・カーティスという規格外の化物の強さはヴァラヴォルフの想像を遥かに超えていた。

 一度でも判断を誤れば待っているのは死。


(はっきり言って全く勝機が見つからないな……)


 自分の全力を出しても触れることすら叶わない相手にヴァラヴォルフは思考を巡らす。

 その最中、ヴァラヴォルフは自身の体の違和感に気づいた。


(左腕が……再生しない……?)


 驚異的な再生能力により、四肢がもげようと瞬時に回復するはずの体。

 しかしたった今ボレロに切り落とされた左腕は一向に再生する素振りを見せていなかった。

 不思議に思い、切られた肩先を見てヴァラヴォルフはその理由を瞬時に把握する。


「そういうことか……こりゃいよいよピンチってやつだな……」


 綺麗に切断された切り口が凍っていたのだ。

 肉も骨も血管も細胞も、全てか完璧に凍りつき、ヴァラヴォルフは回復能力の発動をすることができなくなっていた。

 

「フフ、これでもう詰みかしら?」

「ふざけんな……こんなで勝った気になられても困るんだよ」


 そう言うとヴァラヴォルフは凍らされた切断面の少し上を自身の爪で切り落とした。

 これで再生すればなんの問題ない、そのはずだった。


「再生……しない?」

「あら残念。その考えは悪くないけどあなたあたしの能力を少し誤解してるわよ。あたしの刀はあなたの肉体を凍らせただけじゃない、あなたの回復能力を凍らせたの」

「なん……だと……」

「言ったでしょ。あたしは能力は全てを凍らせる、もちろんあなたの能力もね。まぁとは言ってもあなたの能力の本質的な部分までは片腕に触れたくらいじゃ無理だったけど」


 ボレロは平気な顔でそう言いながら切り落としたヴァラヴォルフの左腕をまじまじと見つめ、突然それに噛み付いた。

 そしてそのままその肉を引き千切り、口の中に含む。


「んー、狼男のお肉って思ったより美味しくないわねぇ。やっぱ生のままじゃだめなのかしら?」


 モグモグと口を動かし、それを飲み込むとボレロは残った左腕を無造作に投げ捨てた。


「まぁいいわ。きっとクロードなら美味しく料理してくれるから」


 口元に付いた血を舌で舐めるように拭き取り、ボレロはヴァラヴォルフに向け剣を向けた。


「充分遊んだし、お腹も減ったわ。もう終わりにしましょうか」

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