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神様のデスゲーム  作者: よっしー
第五章 願
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19-3 氷の女王との邂逅

【6:27 森エリア】


 メルルが拐われてから3時間程が経過しようという頃、ヴァラヴォルフは氷の城の門の前に辿り着いた。


(ちっ、思ったよりも時間がかかった……)


 ヴァラヴォルフの体力はすでに限界に近かったが、それでも乱れた息を整えながら開けっ放しになった氷で作られた門の中へと足を踏み入れる。


 中には巨大な庭園と城。

 そのどれもが氷で出来ており、朝日に反射して幻想的な世界を作り出す。


「どこだぁああああああああああああ!!! 出てこい吸血鬼野郎!!!!」


 ヴァラヴォルフは叫んだ。

 その声は城中に響き渡り、振動は庭園に咲く氷でできた草花を砕く。


「そんなに大声で叫ばなくてもちゃんと聞こえておりますよ」


 そう言って空から自身の背中から生えた翼でヴァラヴォルフの前に静かに降り立ったのはボレロの執事を名乗るクロードだった。


「メルルはどこだ」

「そう焦らずに。まだゲームは終わって──」

「どこだって聞いてんだよ!!!」


 ダンッとヴァラヴォルフの足元の氷が砕け散り、一瞬にしてクロードとの距離を詰めてその胸ぐらを掴むヴァラヴォルフ。


「ほう、この間よりも随分と早くなっておりますね」

「答えろ」

「……お姫様はあの城の最上階におります」


 その言葉と同時にクロードの体が一瞬にして蝙蝠へと分裂し、ヴァラヴォルフの手をスルスルと抜けていく。

 そしてその無数の蝙蝠は空中で再度クロードの体を形作った。

 それに対してヴァラヴォルフは睨みつけるような形相で爪を立てる。


「そんなに興奮なされないでください。最初に言ったでしょ? このゲームはあなたがこの城の最上階に着けばお姫様はお返しすると」

「つまりお前は俺が最上階に行けないよう邪魔をするってわけだろ。いいよ、早くこい。こっちはもう我慢の限界なんだ」

「承知しました。さっそくですがあなたのお相手になりましょう……と言いたいところなのですが少々状況が変わりました」

「なに?」

「本来なら私があなたの相手をしてもう一度力を確かめてからお嬢様のあ遊び相手になってもらう予定でしたが、そんな悠長な事をしている時間はないようです」


 クロードは少し残念そうな表情をすると、ヴァラヴォルフに背を向けた。


「あなたはこのまま城の最上階を目指してください」


 そう言ってクロードは城の門へと飛んで行く。

 何かの罠か……そうヴァラヴォルフは考えたが、クロードからは全くと言っていいほど殺気を感じない。

 ヴァラヴォルフはクロードに警戒をしつつも、城へと向かうことにした。


 無理に戦わなくていいならそれに越したことはない。

 自分はただメルルの元に向かうことだけを考えればよいのだ。


「今行くぞ……」


 そんなヴァラヴォルフを見届けてクロードはため息をつく。


「ワタクシももう一度彼と戦ってみたいと思っていたのですがこればかりは仕方ありませんね……さて、ワタクシはお嬢様の邪魔にならぬよう招かれざる客人のお相手でも致しましょうか……」



 ◇



 ヴァラヴォルフが氷の扉を砕いて城の中に入った先に待っていたのは大広間に置かれた長いテーブルの上に乗る数々の料理と、その奥の椅子に座る白に近い青い髪、雪のような真っ白な肌、そして白いドレスに身を包んだ1人の少女だった。

 

「はぁい、狼男さん! あたしのお城へようこそ!」

「誰だ」

「あたし? あたしはボレロ・カーティス、このお城の主よ。まぁそんな事より早く席に座ってお話しましょ。前に来た人達はぜーんぜんあたしの相手してくなか──」


 ヴァラヴォルフの爪がボレロの頬を掠り、後ろの椅子の背を貫く。


「へぇ、あそこから一瞬でこんなに距離詰められるんだ」

「お前みたいなのと相手してる暇はねぇんだよ」


 ヴァラヴォルフはそのまま自身の爪を横にスライドさせ、ボレロの首を刎ねた。

 頭を失った体はそのまま椅子から転げ落ち、頭は床に転がる。

 ヴァラヴォルフはそれを見届けて上へと続く階段を上がり始めた。


「フフ、その階段よく滑るから気をつけてね」

「──!?」


 突然の後ろから声にすぐさま振り向いたヴァラヴォルフの目に映ったのは頭だけになりながらも楽しそうな表情で喋るボレロの姿。


「上で待ってるからね」


 そう言い残しボレロの頭は氷に変わり、ボロボロと崩れ落ちた。


(あれがS級ボレロ・カーティス……いや、そんなもんは関係ない。俺は誰であろうと絶対に負けない……)


 一歩、又一歩と階段を上るヴァラヴォルフ。

 上にはメルルがいる。

 自分が助けに来るのを今か今かと待っている。

 それは分かっていた。

 だが、その思いに反してヴァラヴォルフの歩みは段々と遅くなっていった。


 階段を一段上るたびに体が重くなり、得体のしれない何かが身の回りを包み込んでいく。

 それはまるで体が上に行くことを拒否しているような感覚。

 同じようなことはつい最近にもあった。

 それは森で出会った得体のしれない女と対した時。


 だが、その時と今とでは明らかに違うことがある。

 あの時は得体のしれない物への警戒心、そして自分では殺すことが出来ないという直感的なものであった。

 しかし自身の体が感じているのは明確な恐怖。

 もちろんヴァラヴォルフは心では全く恐怖などしていない。

 一刻も早くボレロを殺し、メルルを助け出す、そのことしか頭にはない。


 だが体がそれを拒んでいるのだ。

 それは野生動物の力を色濃く受け継いでいる故の絶対的強者への危機的直感。


「ビビってなんかねぇ……俺は……俺は最強なんだ……」


 そう自分に言い聞かせるようにヴァラヴォルフは先へと進む。

 その道程は果てしなく遠く感じ、延々と階段が続いているような錯覚にさえとらわれた。


 実際に階段を上がっていたのはものの数分程度。

 しかしヴァラヴォルフは最上階につくまでに何時間もかかったような、そんな疲労感を感じていた。


(着いた……のか?)


 最上階に足を踏み入れたヴァラヴォルフの視界は疲労のせいでぼやけており、周囲を上手く認識できずにいた。

 そんな時、自分の足に何かが接触する感覚を覚え、そこに目をやってみる。


 そこには──


「おおかみさん!!!」

「メ、メルル……?」


 瞬間、ヴァラヴォルフの視界は開け、その場の状況を認識した。


「メルル!? 無事だったか!?」

「うん!」


 よかった……その思いだけがヴァラヴォルフを包み込んだ。


「おめでとー! 感動の再開にあたしも泣いちゃいそう」


 人差し指を目元にやりながらグスングスンと泣き真似をするボレロ・カーティス。

 それをヴァラヴォルフは睨みつけた。


「おっと、怖いわねー。でも約束通りお姫様はあなたに返してあげる。でもまさか本当にここまでこれるなんてね。さっきからずーっとあたしの殺気をあなたに向けてたのに」


(殺気……まさかさっきのはこいつの殺気のせいで……)


「まぁクロードが言うようにあたしの遊び相手としては合格ってところかしら」


 そう満足そうに言うボレロ。


「ねぇ、おおかみさん、もう行こう?」


 メルルは心配そうにヴァラヴォルフの手を握る。

 しかしヴァラヴォルフはそんなメルルの頭に手を置くと、ほほ笑みながら言った。


「いや、俺は行けそうにない。だからメルル、お前だけでもこの場から離れてくれ」

「え、やだよ。一緒に行こうよ」

「そりゃ俺も一緒に行ってやりたいさ。でもな、あいつが俺をここからすんなり逃がしてくれるとはどうも思えないんだよね」


 ギロリとボレロを睨むヴァラヴォルフ。


「フフ、まぁ当たり前よね。あたしはあなたともっと遊びたいもの」

「だろうな。いいさ、遊んでやるよ」

「そうこなくっちゃ」


 ヴァラヴォルフは再度メルルの方を向き、優しい口調で口を開く。


「そんな心配すんなって。知ってるだろ? 俺は最強だ。誰にも負けないって」

「知ってる……知ってるけど──」

「なら約束だ。すぐにお前のところに行くから少し下で待っててくれ」

「ほんと……?」

「ああ。すぐに行く」


 メルルは俯いたままコクリと頷いた。


「絶対……絶対に約束だよ!」

「ああ、約束は必ず守るよ」


 ヴァラヴォルフは涙ぐむメルルを階段から下へ行くよう促し、ボレロと真正面で対峙する。


「待たせたな」

「構わないわよ。だって見ててとぉっても面白かったもの。早く見てみたいわ、あなたに約束を破られたお姫様の表情をね」


 ニコッと不気味に微笑むボレロ。

 そんなボレロに対し、ヴァラヴォルフもニヤリと口を歪めた。


「そうかい。俺も見たいね。あんたの絶望に満ちた顔とかよ」


 ヴァラヴォルフの表情はメルルに見せた時とはまるで違うものだった。

 目を血走らせ、鋭い牙を剥き出しにするその表情はまさに化物。


「こっちはよ、いい加減腸煮えくり返ってんだ……見せてやるよ……本物の化物って奴をよ!!!」


 地上から約300メートル。

 氷の壁に氷の床に氷の玉座。

 全てが氷で出来たボレロ・カーティスの城の最上階で、2人の化物の戦いは始まった。

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