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神様のデスゲーム  作者: よっしー
第五章 願
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19-2 守るべき者の待つ場所へ

【4:40 都市エリア】


「あの嘘つきが……」


 ビルの1階ロビーでソファに横たわりながらそう呟いたのは雅史だった。

 バアルとの戦いで気を失ってから約12時間が経った頃、雅史はここで目覚め、傍にいたはずのアーニャがいないことに気づいた。


 雅史には分かっていた。

 アーニャは1人でレイノートの元に、つまり復讐を果たすためにいってしまったのだと。


「くそっ、こうしちゃいられねぇ……」


 雅史はまだふらつく体をソファから起こし、ビルから出て行った。

 外はまだ薄暗かったが、少しずつ日の光が出始めている。


「あっちか……」


 雅史は地面に残る僅かな血の痕を見つけ、それを辿ることにした。

 自分がアーニャの元に駆けつけたところで大した戦力になれるか分からない。

 なにせまだ自身の能力である悪魔の力というものを完全に理解しているわけではないのだ。


 しかし、雅史は迷わなかった。

 雅史のこのゲームの目的がアーニャを守り通し、その目的を果たす手助けをすること。


「無事いてくれよ……アーニャ」



 ◇



 その頃、森エリアでは1つの影が凄まじい速度で木々の間を駆け抜けていた。

 その影はただひたすらある場所を目指す。


 氷の城。

 

 今や森エリアのほとんどを覆い尽くしている氷の中心にそびえ立つその場所に1秒でも早く着くため、ヴァラヴォルフは走り続ける。

 クロードはメルルを拐い、これはゲームだと言った。

 ルールはあの氷の城に辿り着くこと。


 ふざけやがって


 そうヴァラヴォルフは心の中で悪態をついた。

 しかしそれと同時に自分自身のあまりの不甲斐なさに怒りを覚えた。


 あれだけメルルを危険に晒したくないと思いながらも、こうもあっさりとメルルを窮地に追い込んでしまった自分が許せなかったのだ。

 今でもヴァラヴォルフにはメルルを守りたい、失いたくないという気持ちがなぜこんなにも自分を支配しているのかは分かっていない。

 しかしヴァラヴォルフはただ自分自身が自然と思っていることに疑問を持ちつつも、その気持を優先していた。


 ここでメルルを失えば自分の中の何かが完全に壊れてしまう。

 そんな気がしていたのだ。


 ただひたすら全速力で走る。

 あいつが待つ場所へ。


 そんな時、3つの影がヴァラヴォルフの目線の先に現れた。

 背の高い金髪の男と赤いローブを羽織った小柄な少女、そして昨日出会った得体のしれない女。


(ちっ、こんな時に……)


 ヴァラヴォルフはそのまま自身の両手の爪を構え、3人に向かって更に速度を上げた。

 そして3人の首に狙いを定めて腕を振るう。


 だがしかし、その攻撃は誰の首を掻き切ることもなく防がれた。

 金髪の男への攻撃は何か硬い物で防がれ、赤いローブの少女への攻撃は見えない壁に阻まれたかのように受け止められ、得体のしれない女への攻撃は昨日と同様に、まるで自分から攻撃を外したかのように空を裂いた。


 ゲーム開始5日目、やはりここまで生き残っている参加者はいくら自分でもそう安々と倒せる相手ではない。

 そうヴァラヴォルフは思い、そのままその場を後にする。


(今はあいつらに構っている暇はない……今はそんなことよりも──)


 今は余計なことに構っている余裕などないのだ。


(より早く、1秒でも早く……あいつのところへ──)



 ◇



「今のは……まさかドイツの狼男か?」

「さぁのう……にしてもおっかない形相じゃったのー。あんなに急いで一体どこに向かっておるのか」


 ローゼンクロイツは走り去って行くヴァラヴォルフの背中を見ながらそんな疑問を口に出す。


「ドイツの狼男……あいつまでこのゲームに参加していたのか」

「なんじゃ、あの男そんなに危険なのか?」

「そうですね……一応ECSじゃA級確保対象に指定されていますが、危険人物とまでは判断はされていません。といのもドイツの狼男ことヴァラヴォルフはある一族が管理しているので情報自体も少ないんですよ。まぁ他のA級と違って取り立てて悲惨な事件を起こしたという話も聞かないですし」

「ふむ、ならば放っておいても問題はないようじゃの」

「そうですね。僕らの目的はメルル・ルルミックを見つけ出すことです」


 しかしどうしてヴァラヴォルフはまだこの森にいたのだろうか、そんな素朴な疑問をアレックスが思った時、共に行動を共にしている白石 希望が口を開いた。


「あのう、先程の方、昨日あなた方の探してらっしゃる千里眼のお姫様とご一緒しておりましたよ?」

「え──」

「昨日私がお話したとても強そうな方というのは先程の方です」


(メルル・ルルミックがあの狼男と……いや、確かにそれならメルル・ルルミックがこのゲームをここまで生き残っていた理由にも納得がいく……)


 アレックスはすぐにヴァラヴォルフの走っていった方を向くが、すでにそこにその姿はない。


「どういうことだ……なぜヴァラヴォルフがメルル・ルルミックを……いや、そんなことはもうどうでもいい、メルル・ルルミックは一体どうなったんだ……」

「ふむ……これはあのドイツの狼男とやらに話を聞く他なさそうじゃのう」

「しかし……」


 ヴァラヴォルフの姿はもうすでにない。

 そもそも自分達にヴァラヴォルフの速度に追いつける方法がないのだ。


「なに、あやつの向かっていた場所なら大方検討はついたわい」

「どういうことですか?」

「あやつの走っていった方向を見てみい」


 アレックスはローゼンクロイツの言う通りヴァラヴォルフの走っていった方を見てみる。

 そこにあるのはボレロ・カーティスの氷の城。


「まさか……」

「まぁにわかには信じられんがそういうことじゃろう。まだこの森にいて、わざわざ森の中心に走っていく理由を考えればそれしかあるまいて」


(ヴァラヴォルフの目的はボレロ・カーティス……なのか?)


「どんな理由があってあそこに向かっているかは知らぬが、千里眼のお姫様を見つけるには儂らもあそこにいくのが一番手っ取り早そうじゃな」

「ボレロ・カーティスの城……いや、正直僕としてはもっとも行きたくない場所の1つなんですけどね」

「クックック、まぁそうじゃろうな。では止めておくか?」

「……いえ、行きましょう」

「決まりじゃな。お前さんもそれでよいか?」


 ローゼンクロイツの問いかけに白石は特に表情に変化を見せることもなく頷く。


「さて、久方ぶりに旧友に会いに行くとするか」

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