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神様のデスゲーム  作者: よっしー
第四章 狂
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18-4 グングニルの矛

「ふーん、レイさんこの頃から容赦ないですねー」


 グールドが見ていた映像は当時からECS本部に所属していたアレックスが、エヴァンの研究成果を取りに来てアーニャを見つけたところで終わっていた。


「それにしてもつまらないものでしたね、うーむ……そうだ! この子の両親そっくりの人形を作って殺し合わせてみましょう! そうすれば一味違った能力の暴走が見られるかもしれません」


 今後の実験の方向性を決めたグールドはさっそくアーニャを自分達の拠点に運ぶため、ベアーベアーを呼び出した。

 床から飛び出すベアーベアーにアーニャの体を抱えさせ、機材を片付け始めるグールド。


「いやーこんな時のために一基残しておいて正解でした」


 機材を次々とベアーベアーの背中に入れるグールド、しかしその最中に妙な事に気が付く。

 

「そういえば……なんでレイさんはあんなただの研究者のところにいったんでしょうか?」


 それはグールドからしてみれば疑問に感じるのは当然であった。

 常に強敵との戦いを求めるレイノート・ブラッティ、その戦闘狂がなんの力も持たない研究者のもとへわざわざいったのだ。


(エヴァン……どこかで聞いたような……)


 ここでグールドは10年前に死んだある研究者の事を思い出す。

 能力者の力を武器に付属させることに初めて成功させた男、その男が作る兵器によってECSの非戦闘員であっても危険能力者に恐れられたことを。


「そうだ、今の映像の男は対能力者兵器の第一人者──」


 瞬間、グールドの作り出した異空間は強烈な光に包まれた。

 その光に思わず目を伏せたグールドに対しアーニャの持つ共鳴吸収ブレードがその右腕を難なく切り落とす。

 そして支配者であるグールドの精神が大きく乱れたことにより、能力によって作り上げられていた異空間はガラスが割れるような音を出して崩壊した。


「なるほど……毒に対する準備はしていたというわけですが……」


 元の世界に戻ったグールドは切られた右腕を抑えながらアーニャを睨みつける。


「思ったよりも強力で解毒に時間がかかったけれどね、十字架を背負う者達を相手にあなたに対して何も対策してないわけがないじゃない」

「確かにそうですね、ただ私の支配から抜けだしたところで勝ったと思わない方がいいですよ」


 そう言うとグールドは左手の人差し指を自らの耳に思いっきり突っ込んだ。

 そしてグチュグチュと気色の悪い音を立てながら指を耳の中で動かしていく。


「私の実験の目的は完全なる肉体……その成果をここで試させていただきましょう」


 ブチブチブチと肉が裂けるような音をグールドが出したかと思うと、切断された右腕の断面から無数の蜘蛛のような姿をした小さな機械がわらわらと出てくる。

 その蜘蛛はグールドの体の至るところへへばりつくと、腹部から小さな針を出しそのままグールドの体を刺した。


「ウヒヒヒ、き、気持ちいい……」


 白目を向いたまま声を漏らすグールドに対しアーニャは迷わず共鳴吸収ブレードで斬りつけた。

 しかしその刃はグールドの右腕によって掴まれる。


「!?」


 切断したはずの右腕、それは人間の腕ではなく全くの別の物になって再生されていた。

 まるで人間の内蔵をそのまま無理やり腕の形にしたようなその腕は共鳴吸収ブレードを掴んだままアーニャを思い切り遠くへ投げつけた。

 受け身の出来無い状態で地面に思い切り背中を打ち付けたアーニャは思わず呻き声をあげる。


「ウヒヒヒヒヒヒ」


 グールドの変化は腕だけに収まらなかった。

 蜘蛛の刺した箇所から滑りとした触手が次々と肉を突き破って飛び出し、グールドの体は凄まじい速度で膨張していく。

 どんどん大きくなる体は周囲の3階建てのビルを追い越し、やがて成長を止めた。


「本物の……化け物ね……」


 なんとか体を起き上がらせたアーニャはその異形を見てただただ嫌悪感を覚えた。

 その姿はまるで人間とタコを合成させたような奇妙なもの。

 元々顔があったであろう場所はその膨張した肉に呑まれ、代わりに体の真ん中には巨大な目と口が浮かび上がった。


「どうです? 美しいでしょ?」

「感想を求めないでくれるかしら、不快なだけよ」

「そう、残念……ならその身でこの素晴らしい肉体を知りなさい」


 その巨大な肉体を体から生える無数の触手を使って動かすグールド。

 自分に迫るその巨体に対してアーニャは自身の能力で銀色の輝きを放つ棒を取り出した。

 

(使うしかないみたいね……)


 その棒をアーニャは迫り来るグールドに向かい真っ直ぐ構えた。


「グンニグルの矛……起動」


 その声と共に銀の棒の先端は4つに割れ、中から小さな青い石のようなものが出てくる。


『音声を確認しました、パスワードを認証してください』


 機械音でその棒から発せられる声にアーニャはただ一言答えた。

 アーニャの誇る最強の攻撃兵器、グンニグルの矛の起動パスワードを、この兵器を開発した人物の名を──


「エヴァン・アレクセイ・イリイーチ」


『認証しました』


 次の瞬間、先端に浮かぶ青い石に向かい4つに分かれた部分から赤い稲妻のような光が集まっていく。

 光を当たられた石は振動を始め、その色を青から赤へと変色させていく。


「今更何をしても無駄!!! 今の私はどんな傷を受けても一瞬で再生する!!!」

「あなたの敗因は2つある、一つは私に早くトドメを刺さなかったこと、もう一つは私の過去を勝手に覗いたこと」


『発射準備整いました』


Досвиданияダスヴィダーニャ


 グンニグルの矛から放たれた光、その光はグールドの巨大な体を包み込んだ。

 光に包まれたグールドはその時確信した、自分は死ぬのだと。

 決して抗えない絶対的な力、それをその身で感じ取った彼女は走馬灯のように今まで自分が行なってきた様々な実験を思い出していた。


「あぁ、もっと調べたいことたくさんあったのにな」


 その光に包まれた物は破壊ではなく、消滅した。

 道路、木、車、建物、その全ての物が塵一つ残さず消え去っていく。

 光は徐々に薄れていき、グンニグルの矛の放射線上にあった全ての物はこの世界から姿を消した。


 それを確認したアーニャはその場に膝をつき、グンニグルの矛を手離す。

 その手は震え、すでに自分で体を操るのが困難になっていた。


「あ、あと少しだけ……少しだけでいいから持ちなさいっての……」


 アーニャはなんとか懐から薬を取り出すとそれを口に入れた。

 しかしあまり効果はなく、手の震えは一向に治らない。

 それどころか口から溢れだす大量の血は増すばかりである。


「動きなさいよ……もう目の前なんだから……」


 地面に転がる共鳴吸収ブレードとグンニグルの矛を能力で異次元へしまい、無理やり立とうとした瞬間に全身に走る激痛。

 その痛みで思わずアーニャはその場に倒れこんだ。


「……まだ……終わるわけにはいかない……」


 それでもアーニャは動くことを止めなかった。

 地面を這いずるようにビルの壁まで這っていくと、壁を使いながらなんとか体を起こした。

 そしてゆっくりとレイのいるとされるビルへ向かって歩き出す。

 歩く度に手足の筋肉は千切れ、その痛みで意識は少しづつ遠のいていくがアーニャはその痛みを噛み殺しながら歩き続ける。


「こんなの……あの時の痛みに比べれば……」


 能力の使用限界、薬の過剰摂取、そこからくる体への負担、アーニャは自分の体がとうの昔に限界を越えていることを理解していた。

 そして自分の命がもうそんなに長くないことも分かっていた。

 しかし、だからこそアーニャは前に進むことを諦めたりはしなかった──

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