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神様のデスゲーム  作者: よっしー
第四章 狂
68/81

17-3 異質な存在

【15:02 森エリア 南部】


 アレックスとローゼンクロイツが森エリアに入ってからすでに1時間以上が過ぎていた。

 メルルの捜索のために森エリアへと来た2人であったが、手がかりはメルルの名前と顔だけであり、広大な森を闇雲に探す以外に方法は無かった。

 せめてもの救いはボレロの氷が森の南側を覆い尽くしていないことである。

 そのおかげでメルルの捜索はこの南側に絞ってできた。


「メルル・ルルミックが無事だといいですが……」


 アレックスは今一番危惧している事を口に出した。

 今までに死んだ参加者の数は67人、その中に未だメルルの名前が無いこと自体が奇跡といえる、アレックスが心配するのは当然であった。


「娘を誘拐した連中はもう死んでいたのだろう? そうなると子ども一人を抱えてもなお生き残ることの出来る強力な能力者が一緒にいると考えるのが妥当なところかのう」

「そうですね、ただそれができそうな能力者は数名思いつきますがどれも子どもを守るなんてするはずのない奴らばかりですが」

「なら利用してるだけとも考えられるのう、なんにせよそのうち分かることじゃ」


 結局はいくら考えても仕方のない事である。

 2人が今することは一刻も早くメルルを見つけること、それに尽きるのだ。


 その時アレックスがローゼンクロイツに待ってくだいと声をかけた。


「僕の糸に誰かが接触したみたいです」


 アレックスはこの森エリアに入ってから仕掛けていた自身の能力に誰かが引っかかるのを感知すると、ローゼンクロイツに伝えた。


「ほう、ならばさっそく向かうぞ」


 2人はその場所へと走った。

 アレックスはそれがメルル・ルルミックであると期待しつつも違った場合、又はメルルと行動を共にしているとされる人間である場合に備え戦闘になることも考慮する。


(何事もなければいいが……)


 何者かを感知した場所、そこにいたのは見たこともない女であった。

 能力者の多くを知っているアレックスでも知らない人間、それは2人が到着するのを待っていたようにアレックスの糸の前に立っていた。


「来ましたね、やはりこの糸は何かを感知するものでしたか」


 やんわりした口調で話す女はゆっくりと2人に向かって歩き出した。


「なぁアレックスよ、アレは一体誰じゃ……」

「分かりません、ただどうやらこちらを待っていたようですね」


 向かってくる女にアレックスは自身の能力をいつでも発動できるようにする。

 いくらこっちにローゼンクロイツがいると言っても能力の分からない相手には警戒をするに越したことはない。

 しかしそんなアレックスの反応とは別にローゼンクロイツはその女に対し疑問の声を投げかけた。


「お前さん……一体何者じゃ?」

「ローゼンクロイツさん、どうしたんですか? 今は相手が誰かよりも戦いの──」

「違うんじゃ、あの女は他の人間とは違う」


 そのローゼンクロイツの言葉にアレックスは何か妙な感覚を抱いた。


(あのローゼンクロイツさんが動揺している……?)


 あらためてこちらに向かってくる女に目を向けるが特に変わった様子はない。

 ここまで生き残っていること、それを考慮すればある程度強い力を持つ能力者であるのは確かではあるが、能力者であるという潜入感を取り除けばただの若い女である。

 お互いの距離がある程度近づくと女はローゼンクロイツの疑問に答えるように口を開いた。


「私は白石 希望と申します、こちらも一つ聞きたいことがあるのですがいいでしょうか?」


(白石 希望、日本人か……?)


「なんじゃ」

「市原 雅史という名に聞き覚えはありませんか?」


 白石が出した名前、それはもちろん2人がよく知る男のことであった。

 突然出た仲間の名前にアレックスがなんと答えるべきか悩んでいるとローゼンクロイツがあっさりとその質問に答えた。


「知っておるぞ、なにせその男は儂らの仲間の名じゃ」

「そうですか」


 ただそれだけの返事。

 しかし白石が纏う雰囲気は先程までとは別人ではないかと錯覚するほど変化した。

 見た目に全く変わった様子はない、しかしアレックスが白石から感じたのは喜びのような憎しみのような得体のしれない物。


「ローゼンクロイツさん、確かに何かおかしいですね」

「おかしいなんて生易しい物じゃないぞ、儂でもアレほど異質な気配を感じるのは久方ぶりじゃ……」


 いつ戦闘が始まってもおかしくない状況、そこで白石が再び口を開いた。


「あなた方に頼みがあります、私を市原 雅史に会わせてください」

「……それはできない、君の目的が分からない以上こちらが君の願いを聞き入れるメリットはない」

「分かっています、なので私も願いを聞き入れて貰う代わりにあなた方の願いを何か一つ聞き入れます」

「駄目だ、僕たちは君のことを──」

「いいじゃろう」


 アレックスの言葉に被せるようにローゼンクロイツが答えた。


「ロ、ローゼンクロイツさん!?」

「儂らからの要求じゃ、お前さんメルル・ルルミックをこの森で見かけなかったかのう?」

「メルル……千里眼のお姫様のことですね、それなら数時間前にお見かけしました」

「ほう、どんな様子じゃった?」

「とても強そうな能力者の方と一緒にいました、もしよければ2人が歩いて行った方まで案内致しますが?」


 思わぬ進展、それは突然現れた正体不明の女から情報であった。

 アレックスは考える。

 このまま白石を信じてメルルを探すか、それともここで戦闘になってでも彼女の目的を聞き出すか。

 2つの選択にアレックスは前者を選んだ。


「分かった、君を市原 雅史に会わせよう、ただし条件として一緒にメルル・ルルミックを見つけてもらう、それでどうだい?」

「分かりました」


 こうしてアレックス達と正体不明の女、白石 希望の交渉は成立した。

 アレックスからすれば今は作戦の成功が最優先、もし白石が雅史に危害を加えるのが目的ならば自分たちで阻止すればいいとの考えであった。

 しかしそんなアレックスの考えとは別にローゼンクロイツは全く違う事をこの時考えていた。


(市原 雅史、あの男の能力は儂が調べても分からないことばかりじゃった、この女は確実に何か知っておる、ククク、研究者魂が騒ぐのう)



 ◇



 2人が白石 希望と合流した頃、バアル・ゼブル達との戦いがあった都市エリアの倉庫近くではアーニャが雅史を背負ってあるビルの中に入っていった。

 アーニャはビルの一階にあるソファに意識を失った雅史を寝かせると、体全体を覆い隠すように白い布を被せた。

 その白い布に使用されている繊維は能力遮断効果のある特別製のものであり、それは能力による干渉を全て遮断する。

 つまり能力による感知を無効化するものである。


「これでそうそう見つかることは無いはず、もしアレックス達が帰ってきてもここはマルコスのテレポート地点でもあるし見つけてくれるはずよ」


 アーニャは雅史をそのままそこに残し、ビルの外へと出ると、怪我の具合を確かめるように右手右足を動かしてみる。

 穴の空いた箇所の傷は塞がり、動かすのに問題は無さそうである。


 自分の役に立ちたいと言ってくれた雅史、自分を守ると言ってくれた雅史、そんな彼の方を振り向いてアーニャは届かないと知っていながらも笑顔で言った。


「ごめんなさい、そしてありがとう、私もあなたを守りたいと思っていたわ」


 アーニャがこのゲームに参加した理由は仲間を守るためでもなく、ゲームを壊すためでもなく、生き残るためでもない。

 復讐、それが目的、アーニャの今まで生きてきた意味。


(やっと、やっと会える……)


 アーニャは歩き出す。

 すでにその顔に笑みはない、その表情は悲しみでも恐怖でも不安でもなく、ただただ内側から溢れ出る憎しみに支配されていた。

 

「レイノート・ブラッティ……やっとあなたを殺しに行ける」

 

 広大な都市エリアの中へ彼女は姿を消した。

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