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神様のデスゲーム  作者: よっしー
第四章 狂
66/81

17-1 罪人

【13:15 森エリア 南部】


「おっし、これで後5個心臓手に入れりゃあ目標の20個ってわけだ」


 参加者の一人を殺したヴァラヴォルフは血塗れの顔でメルルに笑いかけた。

 メルルもまたそんなヴァラヴォルフに笑顔で抱きつく。


「もうちょっとだね!」


 クロードとの戦いの後、ヴァラヴォルフは気を失ったメルルを抱え森にあった洞窟へ暫くの間身を隠していた。

 自分を吸血鬼と名乗るクロードとの戦いはヴァラヴォルフにとっても楽なものではなかった。

 自らの力の最大限を引き出すことによってやっと撃退することができた相手、それはヴァラヴォルフが今まで会った能力者の中でも間違いなく最強と呼べる相手であったのだ。

 結局自身の能力の反動で消耗した体力、そしてメルルの意識が戻るまでの間ヴァラヴォルフはその洞窟に夜まで潜み、メルルが目を覚ましたのを機に再び心臓を集め始めた。


 ヴァラヴォルフが現在所持している心臓の数は15個、そのうち3つはクロードの眷属である3人の男女のものである。

 ヴァラヴォルフは昨夜から今にかけて前以上に慎重に狩りを行なった。

 メルルの力を使い相手を見つけると、しばらくは後ろから観察し、隙が生まれたところを素早く狩る。

 それはクロード並の能力者を警戒してのことではあったが、なによりもヴァラヴォルフはメルルを危険には晒したくなかったのである。


「あっといっつつー! あっといっつつー!」


 メルルはヴァラヴォルフに肩車をして貰う形で機嫌よく歌を歌っている。


「なぁメルル、悪いんだけどこの森にいる全体の人数とか把握できるか?」

「うん! だいじょうぶだよ!」

「わりぃな、でも特徴とか正確な情報じゃなくて人数と大体の位置だけでいいからな」


 ヴァラヴォルフはメルルに能力を使わせる際には無理をしないようその能力に制限をかけていた。

 メルルの能力ならば森エリアだけでなくやろうと思えば都市エリアも含めた全ての人間の居場所、特徴まで調べることはできる。

 しかしそれだけの事をすればメルルは自身の目に大きな負担を抱えることとなってしまう。

 メルルと出会ったばかりのヴァラヴォルフであればそんなことは気にもしなかったであろうが今は違う。

 ヴァラヴォルフは何度も念を押す様にメルルに少しでも大変だったら能力を中断するように言い聞かせた。


「それじゃあいくよ!」


 メルルは森エリアの全てを自身の能力、千里眼で見渡す。

 あくまでも位置と人数だけなのでメルルへの負担はかなり軽減され、能力を使用した後でもメルルに疲れた様子はあまり見られなかった。


「えーとね、数はわたしとおおかみさんを入れて7人、3人はあのおっきい氷のお城の中で、あとの2人はここから真っ直ぐ進んだところにいる人だけど、2人の距離は少し離れてるみたいだから多分お仲間さんではないと思うよ!」

「そうか、サンキューな」

「ううん、どういたしまして!」


(やっぱこの森エリアにはもうそんなに残ってねぇか……)


 ヴァラヴォルフは昨夜見た現在のゲーム進行状況の紙を思い出す。

 そこには現在で生き残っている参加者の数は33人と書かれていた、つまり今日になって何人死んだのかは分からないがこの森エリアには30人程いるはずの参加者が自分たちを含めたった7人しかいないのだ。


「まぁあれのせいだろうな……」


 ヴァラヴォルフは遠くに立つ巨大な氷の城を見た。

 クロードの言っていたボレロ・カーティス、おそらくそいつが作ったであろう巨大な城。

 参加者はその力に怯えこの森から逃げ出したのだと考えるのは当たり前のことであった。

 逆に言えばまだこの森に残っていることこそおかしいのである。


「んでメルルがさっき言ってた都会ってのはどこにあるんだ?」

「それもこのまま真っ直ぐいけばつくはずだよ!」

「そっかぁ、んじゃまぁぼちぼちそのメルルが言う都会ってとこ向かってみるか」


(もうここじゃ心臓も満足に集められそうにねぇしな)


 ヴァラヴォルフはメルルを担いだまま南へと足を進めた。

 その先にいるであろう参加者の一人を殺し、そのまま都市エリアへと入るためである。

 その道中も昨日のクロードの一件から今まで以上に慎重になるが、特に何事も無く進むことができた。


 歩き始めて数十分、ヴァラヴォルフは足を止め、メルルに話しかけた。


「メルル、さっき言ってた人間てのはこのすぐ先にいる奴のことか?」

「うん、そうだよ」

「そうか、少し様子見てくるからここで待ってな」

「はーい」


 ヴァラヴォルフはメルルを肩から下ろすと音を立てないよう、匂いを頼りに先にいる人間へと近づいた。

 匂いの元にたどり着き、茂みに身を隠す様に覗いたヴァラヴォルフの目に映ったのは2人の男女であった。


(戦闘中か……?)


 2人はお互い向かい合い、男の方は明らかに敵意を持った目で女を睨んでいる。

 女の方はそんな男に対し特に身構えることもなくただその場に立っているだけである。


(さてどうすっかな、決着着いた頃にでも乱入するのが上策か?)


 男が両手を広げると、その両手の先はバルカン砲の砲身のような物に変化した。

 そしてその砲身を女に向ける。


「運が良かったぜ、あの氷から逃げまわった先にこんなカモがいるなんてよぉ!!!」


 男の腕の砲身は回転を始め、その砲身が赤く火花を散らしたかと思うと女に向かって銃弾を放った。

 銃弾は辺りの木々に穴を開け、女の体を目掛け飛んで行く。

 暫くその光景が続き、砲身の回転が止まった頃には地面や木々は蜂の巣のように穴を作った。


「どういうことだ……?」


 疑問の声を漏らしたのは男だった。

 それもそのはずである、女の体には傷一つ無かったのだから。


「ここまで生き残ってるってこたぁやっぱりただの能力者ってわけじゃあなさそうだな」


 男は腕の砲身を今度は刀のような鋭い刃に変え、女の元へ走った。

 遠距離が駄目なら直接体を切り刻む、それが男が出した答えである。

 女は自分に迫るその男を相変わらず何も行動を起こさずただ眺めているだけであった。


「肉体変化……いや、形状記憶能力ですかね」


 やっと口を開いた女が言葉にしたのは相手の能力を冷静に解析するようなものだった。

 女の目の前まで迫った男はそのまま刃に変わった両腕を女へと振り下ろす。

 外れるわけのない攻撃、しかしその刃は女の体を僅かに逸れ、地面へと突き刺さった。


「物体の形状を自身の両腕に記憶し、好きな時に記憶した物へとその腕を変化させる、A級……いやB級といったところですか」

「どうなってやがんだ……」


 男は地面から刃を抜くと、今度は交差させ、ハサミのような形を作り女の首を切断しようと攻撃する。

 しかしまたしてもその刃は女の首の前の空間を切り裂くように攻撃は逸れた。


「いくらやっても無駄ですよ、私にあなたと戦うつもりはありません、早くどこかに行ってください」


 驚愕する男を尻目に女は先へと進みだした。

 まるであなたに興味はありませんと言った様子で自分を横切って行く女を男はただ見ていることしかできなかった。

 自分に無防備にも背を向け先へ歩く女に男は叫んだ。


「てめぇ一体何者だ!?」


 その問に女は一言だけ答える。


「ただの罪人ですよ」

「罪人……? ハハ、そりゃ俺と同じってわけだ──」


 男が再度女に向かって刃を振り下ろそうとした時、その男の首は宙を舞った。

 そして首を失った体がよろけ、地面へと倒れた時後に立っていたのはヴァラヴォルフであった。

 ヴァラヴォルフは自身の手足を狼の肉体へと変え、女の背中へと飛びかかる。

 狙いは人体の急所の一つである心臓、攻撃を一番避けるのが難しいとされる胴体に狙いを定めヴァラヴォルフは鋭い爪をその背中へと突き立てた。


 気付けばヴァラヴォルフは口から血を流していた。

 自分でも何が起きたのか分からず、体全体に広がる痛みの中心へと目をやる。

 そこには女に刺したはずの自分の腕が、自分の脇腹へ深く突き刺さっていた。


「あなたもですか」


 呆れたような口調でヴァラヴォルフの方を振り返る女。

 その女の目を見たヴァラヴォルフは、何か異常なまでの危険を感じ、すぐさまそこから飛び退く。


(なんだこいつ……あの吸血鬼よりも格段にやべぇ……)


 ヴァラヴォルフがその異常性に気付けたのは直感、又は野生の感という第六感であった。

 クロードと相対した時にも確かに何か妙な物を感じた、しかし今目の前の女から感じるのはまるで別次元のもの、それはまるで自分たちは根本的に何か違う、空想上の生き物にでも出くわしたような奇妙な感覚。

 女は警戒を強めるヴァラヴォルフに対し平然と話しかけた。


「あ、せっかくだから尋ねておきましょう、あなた市原 雅史という名前に聞き覚えはありませんか?」

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