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神様のデスゲーム  作者: よっしー
第四章 狂
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16-2 最期の言葉

「へぇ、ジャンも結構強いんだねー」


 オリビアはジャンの拳を軽く捌きつつ、軽い口調でジャンに話しかける。


「お前こそ大したもんじゃねぇかよ!!!」


 そう叫ぶと同時にジャンは体勢を低くし、オリビアの足を払うように水面蹴りを放った。

 しかしそれを軽く上に飛んでオリビアは躱し、そのままジャンの腹部へ両足で着地する。


「ゴフッ!?」


 オリビアの全体重を腹部で受け止めたジャンはそのまま動きを止め、そんなジャンの顔にオリビアは自身のつま先で思いっきり蹴りを入れる。

 鈍い音とともに吹き飛ばされるジャン。


「アハハ、でもアーニャほどじゃないよー」

「くそたっれ……」


 体を起こすジャンは自分の体術ではオリビアに勝つことはできないと踏み、弾薬の少なくなった銃をオリビアに向けて構えた。


「またそれ? まぁいいけどさ」


 オリビアはその銃に特に臆することなく平然とジャンの元へ歩いて行く。

 そんなオリビアの額にジャンの放った銃弾は命中した。

 オリビアの体は一瞬後に傾くが、すぐに立て直し、額から血を流しながら微笑む。


「だからわたしに銃なんて効かないっての」


 オリビアは口の中をなにやらもごもごと動かすと、ぺっと何かを自分の手の平へと吐き出した。

 そしてそれをジャンの元へ投げ捨てる。

 それはジャンの放った銃弾であった。


「化け物が……」

「ひどーい、女の子に向かってそんなこと言っちゃだめなんだよ!」


 そう言いながらゆっくりとジャンの元へ足を進めるオリビア。


 そもそもジャンの知るオリビアの戦闘力はほぼ一般人と変わらないものであった。

 リアンに回復要員として集められたオリビア、ジャンが最初に彼女に抱いた印象は戦いには不向きなか弱い女の子。

 実際能力も身体能力もとても戦いに向いているとは言えなかったが、オリビアはゲームの参加には前向きであった。

 そんなオリビアを見てジャンは何かよっぽど叶えたい願いがあるのだと思っていた。


「あ、そうだ、ジャンは亮くんのお友達だったんだよね?」


 ニコニコとジャンに歩み寄るオリビア、銃弾が当たったはずの額の傷はすでに消えている。


「せっかくだから亮くんの最後教えてあげるね、いやーあれは傑作だったよ、玲奈?だっけな亮君の恋人の名前、もうすぐでバアル様殺せそうだったのに見た目だけその恋人に変えただけで動きが止まっちゃうんだもん、あの時の亮君を刺す感触……あぁもう思い出しただけで感じちゃう、それにわたしのことを見た時の顔! もうほんっと最高だったよ」


 顔を赤くして法悦したような表情で語るオリビア。

 そんなオリビアの話を聞きながらジャンは睦沢 亮のことを思い出していた。


 幸せととはかけ離れた人生を送っていた睦沢、そんな彼の唯一の友人とも呼べるジャン。

 ジャンは睦沢にこのゲームの話をした時に恋人のことを聞いていた。

 病に倒れ、それを救いたいと言っていた睦沢。

 その時の睦沢はジャンと最初に出会った頃とは同じ人間とは思えないほど感情に溢れていた。

 ジャンはその時に睦沢にも誰かの命を思いやる心が生まれたのだと思った。

 そしてそれを心から喜び、どうにか恋人を救ってやりたいと感じていた。


(亮……お前こんなとこで死んでる場合じゃねぇだろうがよぉ……)


「あっれー? もしかして泣いてるの? ジャンて結構泣き虫だよね、男でそれはちょっと引くかも……」

「なぁオリビア」

「んん?」

「お前なんでこんなゲーム参加してんだ?」

「なんでってそんなのバアル様のために決まってるじゃん、わたしは身も心もバアル様の物、あの人が命じたことにわたしは従うだけだよ」

「そうか、可哀想なやつだな……」

「……はぁ? わっけわかんなんだけど!」


 オリビアは横たわるジャンに向かって何度も蹴りを入れる。

 オリビアの蹴りがジャンの腹部に入るたびにジャンは口から血を吐き、苦しそうな声を漏らす。


「なにがっ! 可哀想だ!!! 可哀想なのはてめぇら馬鹿共だろうがよ!!!」


 その表情は今までのオリビアからは想像もでいない醜悪な顔であった。

 ジャンを蹴るのに夢中になっていたオリビアはふとジャンの声とは別の音を背後で聞いた。

 カランという何かが転がる音。

 ジャンを蹴るのを止め、後ろを振り向くオリビア。


「……手榴弾?」


 オリビアがそれを認識した瞬間、手榴弾は強い光を放ち爆発した。

 その威力は辺りの物を全て吹き飛ばし、思わず耳を塞いでしまうような爆発音が倉庫の中に響き渡った。



 ◇



 アーニャは倉庫から聞こえた爆音を聞き、まだ回復しない体をなんとか起こし、その場所へと向かおうとした。


(今の音はジャンに渡した手榴弾……)


 アーニャが前もってジャンに渡していた武器は2つ、拳銃と通常よりも威力を上げた手榴弾である。


(オリビア相手に手榴弾まで使うってことは……思ったよりもオリビアの戦闘力が高かったってこと……?)


 足を引き釣り、壁に持たれながらジャン元へ向かうアーニャの元にジャンからの通信が入った。


『よぉ……アーニャちゃんそっちは大丈夫か?』

『こっちは終ったわ、それよりそっちこそ平気なの?』

『あぁ、こっちなら余裕余裕、それよりアーニャちゃんは雅史って奴のとこに行ってやってくれ、一人であの男の相手は流石に厳しいはずだ』

『わ、分かったわ、後で合流しましょう』

『おう! また後でな!』


 通信を切断し、アーニャは倉庫の出口へと向かった。

 確かに今雅史はあのバアル・ゼブルを相手に一人で戦っているのである。

 雅史が目的ならばすぐに命をとられる心配は少ないが、それでもこちらより危険なのは確かである。


「ったく世話のやける男ばかりね……」



 ◇



「つーわけだ……これでここには俺とお前の二人きりだな……」


 ジャンは下半身を丸々失ったオリビアへと話しかけた。


「くそがぁ……殺してやる……」


 オリビアは自身の能力で徐々に下半身を再生していくが、損傷が大きいためかすぐには再生しない。


「んな怒んなよ……俺だって結構痛いんだぜ……」


 ジャンは自分の右足に目を向けた。

 右足は途中で千切れ、切断面からは血が溢れ出している。


 2人の傍に転がった手榴弾、それはオリビアが自分を蹴っている時にジャンが投げたものであった。

 その爆発は二人を巻き込みそれぞれに致命傷とも言える傷を負わせた。


「ところでよぉ……お前夢はあるか……?」

「はぁ?」

「俺の夢はよ、昔から家庭を持つことだったんだよ……」


 ジャンはコンテナに背中を預け遠くを見つめながら呟くようにそう言う。


「だからなんだってんだよ!!!」


 オリビアは両腕を使いジャンの元へと迫る。

 出血量からして放っておいてもジャンは死ぬ、それはわかっているが自分の体をこんなにしたジャンを自分の手で殺してやりたいと思っての行動であった。

 しかしそんなオリビアには見向きもせずジャンは喋り続ける。


「きっとよ、亮も同じこと思ってたと思うぜ……あいつあぁ見えて子供大好きだったしな……」


 ジャンは自身の能力でもう一度アーニャに通信をした。


『アーニャちゃん、外に出たか……?』

『ええ、今雅史の後を追っているところよ』

『そうか、そういえばアーニャちゃんに伝えとくべきことがあるんだ、一度しか言わねぇからよく聞いといてくれ』

『……? 分かったわ』

『アーニャちゃんの探してる男の居場所、それを伝える』

『え……』


 ジャンは自身の能力で得たアーニャの復讐相手、レイノート・ブラッディの居場所、都市エリアのあるビルの1つをアーニャに伝えた。


『どうしてあなたがそれを……?』

『俺実は軍のある特殊部隊所属でよ、ECSよかそういうテロ集団なんかには詳しいんだわ、隠してて悪かったな……』

『……でもどうして今それを? あなたまさか』

『アーニャちゃん、頼むから生き残ってくれよ……』


 そう言ってジャンは一方的に通信を遮断した。

 すでにジャンのすぐ目の前にはオリビアがいた。


「アハ、アハハ、死ねよ」


 歪な笑顔をしたオリビアはジャンの首に手を掛ける。


「なぁ亮、俺やっぱ最後までヘタレだったわ、自分の気持ちに正直になれたお前が羨ましいぜ」


 ジャンがジャケットを開くとその裏にはいくつもの手榴弾が取り付けられていた。

 それはアーニャから貰ったものではなく、ゲーム開始前から自分自身で用意していたもの。

 ジャンはその中の1つの手榴弾のピンを抜く。


「さぁオリビア、一緒に亮のとこ行こうぜ」


 爆発、それはジャンとオリビアを粉々に吹き飛ばすだけでなく、2人のいた倉庫そのもの全てを吹き飛ばすほどの威力であった。

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