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神様のデスゲーム  作者: よっしー
第四章 狂
59/81

15-2 副会長の判断

【8:00 都市エリア 東部 倉庫】


 結局オリビアもアレックスの他の仲間も帰ってくることはなかった。

 アレックスは雅史、アーニャ、マルコス、ローゼンクロイツを集め、今後の行動について話し合った。


「こうなるとオリビアくんが生きている可能性は低い、僕の仲間も恐らく何かあったのだろう……」

「だからって諦めるわけにはいかないだろ、こうなったら俺達だけでオリビアを探そう」


 雅史はオリビアの捜索をするべきだと意見する。


「分かっているよ、ただ僕たちはオリビアくんだけじゃなくメルル・ルルミックの捜索もしなければならない、だからここは慎重に今後を考えたいんだ」

「そうかもしんねぇけどよ……」

「僕たちに今ある選択は3つ、オリビアくんを探すかメルル・ルルミックを探すか、もしくは二手に別れて捜索をするか、この選択で今回の作戦、そして僕たちの生死が左右される」

「オリビアを探しましょう」


 昨夜の一件から一言も喋らなかったアーニャがそう言った。


「アーニャくん……?」

「ただ効率を考えただけよ、二手に別れるのは昨日ので危険だと分かったし、オリビアを探さないなんてこの馬鹿が納得するとは思えないわ、どうせ一人でもオリビアを探しに行くつもりなんでしょ、なら捜索時間を決めてそれまでにオリビアが見つからなければ全員でメルルの捜索、それが一番安全よ」

「アーニャ、お前……」

「勘違いしないで、これが一番戦力を欠かずに済むと思っただけよ」

「……分かった、アーニャくんの言う通りにしよう、オリビアくんの捜索は全員で行う、ただし時間は今から三時間だ、これでいいかな?」


 アレックスはアーニャの意見を汲み、雅史にそう提案した。


「ああ分かった、それでいい」


 本心を言えば自分の気が済むまでオリビアを探したいと雅史は思っていた。

 オリビアは死んだと決まったわけではない、なら見つかるまで探すべきなのではないかと。

 ただそれは他の仲間、なによりアーニャの命を危険に晒すこととなる。

 雅史は渋々アレックスの提案を承諾した。


 話はまとまり、マルコスとローゼンクロイツを念のため倉庫に残し、残りはオリビア捜索に向かおうとした時だった。

 ある男の言葉が3人の足を止めた。


「待ってくれ……」


 それはジャン・ロンバートだった。

 初日にアーニャを守るため囮になり、間一髪のところでアレックス達に助けだされた男。


「ジャン……あなた……」


 アーニャは今にも倒れそうに体を引きずるジャンに肩を貸す。


「ようアーニャちゃん……無事で良かったぜ……」

「良かったじゃないわよ! なんであなたあの時私を助けたのよ! 下手したら死んでたのよ!?」

「ハハ……いいじゃねぇかよそんなこと、それよりオリビアを探しに行く前に俺の話を聞いてくれないか……」


 ジャンは言った、オリビアを探しに行くのはやめたほうが良いと。


「こんな状態の俺じゃまともに能力使えるわけじゃねぇから場所や距離は正確には分からねぇ、ただ今オリビアの傍にはバアル・ゼブルっつうイカレた男がいる、それは確かだ……」


 ジャンの能力は念動力の一種で本名と顔を知っている人間の現在地を把握できることと、その相手とどんなに離れていても会話ができること、満身創痍である今の彼には正確な現在地については把握できない、しかしオリビアとバアル・ゼブルが近くにいることはその能力で分かった。


「オリビアに何度か話しかけてみたが反応はねぇ……それは念動力による妨害か意図的に通信に答えないかのどちらかだ……どちらにせよ危険すぎる……」

「なら余計に早く助けに行くべきじゃねぇのかよ!?」


 雅史はジャンに叫んだ。

 今の話だとオリビアは生きている、しかもオリビアは危機的状況にいる可能性が高いと思ったからだ。

 しかしここで雅史はアーニャとアレックスの微妙な表情の変化に気付いた。


「待てよ……まさかお前ら疑ってんのか……?」


 雅史のその質問には誰も答えようとしない。

 その沈黙は答えも同然だった。


「そういうことかよ……」

「……雅史くんの思っている通りだ、僕らはオリビアくんを疑っている、それにジャンくんの話で確信に変わったよ、こうなってしまってはオリビアくんを探しには行けない」

「でも──」


 まだ分からねぇだろ、そう叫ぶのを雅史はグッと堪えた。

 それは雅史自身もまたオリビアのことを本当に信用して良いのか分からなくなっていたからだ。


「とりあえず今の状況について聞いていいか……? 今ゲームはどうなってんだ?」

「そうだね、ジャンくんにも話をしておかないといけないね」


 アレックスは現在のゲームの状況、ここまでの経緯、自分たちの作戦と目的、そして睦沢の死をジャンに伝えた。


「そうか、先にいっちまったんだなあいつ……」


 アレックスの話を聞き終えるとジャンは静かに涙を流した。


「それでこちらもジャンくんに聞きたいことがあるんだ、いいかな?」

「……千里眼のお姫様の居場所か?」

「そうだ」

「もちろんさ、あんたは命の恩人だ、出来る限りのことはさせてもらうよ、ただ今の俺じゃ正確な位置はわからない、それでいいか?」

「かまわないよ、作戦のためには一刻も早く彼女を探しださないといけないんだ、少しでも情報が欲しい」


 分かったと言ってジャンは自らの能力を使った。

 千里眼のお姫様メルル・ルルミックの名前と顔はジャンももちろん知っている。

 自らの能力でその大体の居場所を掴んだジャンはそれをアレックスに告げた。


「……メルル・ルルミックは森エリアにいる」

「森エリア……か……」


 それを聞いたアレックスは表情を曇らせた。

 それもそのはずである。

 今や森エリアは氷の女王ボレロ・カーティスが支配しているのだ。

 氷による森の侵食は昨日の昼頃から落ち着きをみせているが、それでも森エリアの七割ほどはボレロの氷で覆われている。

 真当な思考の持ち主であればその森に近付こうとは思わないであろう。


「少し考えさせてもらうよ」


 アレックスからしてみればメルル捜索は最優先事項である。

 ローゼンクロイツと合流出来た今、残された鍵はメルルの千里眼の力だけだからだ。

 森エリアにメルルがいるということはいつ死んでしまってもおかしくないということ、一刻も早くメルルの捜索に向かうべきである。

 アレックスは考えた、危険を承知で全員で森エリアへ行くか、それとも人数を絞り森エリアへ行くか。

 暫く考えこんだアレックスは答えを出した。


「森エリアには僕とローゼンクロイツさんの二人で行く、君たちはここで待機していてくれ」


 アレックスは昨夜の雅史の言葉を思い出し、そう結論を出した。

 これ以上仲間に死んで欲しくない、その思いからもっとも力のあるローゼンクロツと自分とでボレロ・カーティスの支配する森に行くことにしたのだ。


「それがあなたの出した結論?」


 アーニャが尋ねる。


「そうだ、あの森に君たちを行かせるわけにはいかない」

「そう」

「ただ僕らがいなくなった後ここが安全かと言われればそうじゃない、他の能力者の襲撃があるかもしれないし、もしオリビアくんがバアル・ゼブルと繋がっているならそいつらもここに来るかもしれない、だから逃げ道を作っておく」


 アレックスは空間移動の力を持つマルコスを呼んだ。

 マルコスの能力は自分が一定時間以上一緒に過ごした物や生物の元へ転移することのできる能力。

 転移には時間が必要となり、自らの能力を込めたチョークなどで転移する物体を丸で囲う必要がある。


 アレックスは雅史、アーニャ、ジャンの3人に常にマルコスが書いた円の中にいるように指示を出した。

 もしも敵の襲撃があればその敵が強い弱い関係なく、都市エリア各所に用意しているマルコスの転移先に逃げれるようにと。


「時間が惜しい、僕らは今すぐに森エリアに行く、メルル・ルルミックを見つけ次第すぐに戻るからそれまでどうか無事でいてくれ」

「本当に危険なのはそっちだけどね、さっさと見つけて戻って来なさいよ副会長」


 アーニャの言葉を聞き、アレックスはぶつくさ文句を言うローゼンクロイツを連れて森エリアへと向かった。

 しかしアレックスは想像もしていなかった。

 この判断が今後の悲劇を生むことになるとは──

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