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神様のデスゲーム  作者: よっしー
第三章 悪
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14-2 戦う理由

 今でこそ日本の人気俳優である睦沢 亮だがその子供時代は悲惨なものであった。


 睦沢が自分の能力に気が付いたのは物心がつき始めた頃。

 きっかけは両親に内緒で飼っていた捨て猫が両親に見つかり、殺されてしまったという些細な出来事である。

 とても裕福とは言えなかった睦沢の両親はその能力に気付くと睦沢を借金の形に暴力団へと売り払ってしまった。

 まだ能力が世間でもほとんど認知されていなかったことと、幼少から整った顔立ちをしていた睦沢を買いたいという人間はゴマンといた。

 結局睦沢はフランスに住む特殊な性癖を持った金持ちに売り飛ばされた。

 そこで睦沢は幼少期のほとんどを過ごすこととなる。

 昼は金持ち同士の余興という名の殺戮ショー、その中で大好きだった動物を能力で殺し、酷い時は人間すらも殺した。

 そして夜は睦沢の飼い主の遊び相手、そんな日々が何年も続いた。


 13歳になった頃、睦沢の精神が崩壊する一歩手前で睦沢の能力はその本当の力を発揮した。

 今までナイフなどの小さな物しか動かすことの出来なかった能力は大木や車といった大きな物を動かせるようになり、睦沢は今までの憎しみをぶつけるように自分を好きにする金持ち達を惨殺した。

 そして睦沢はそこを離れ、一人町を彷徨った。

 その時に出会ったのがジャン・ロンバートである。

 ジャンは道端で衰弱している睦沢を自分が住む孤児院へと連れ帰り、その孤児院の院長もまた睦沢を暖かく迎え入れた。

 最初は誰とも口を聞かなかった睦沢だったが、自分と同じように能力を持つジャンとは次第に話すようになり、18歳になる頃にはお互い親友とも呼べる仲となった。

 しかし睦沢の心の傷が完全に治ることはなかった。

 それから何年かしてジャンは軍へ、睦沢は日本へと帰った。


 睦沢が日本へ帰ったのには理由があった。

 自分を捨てた両親を見つけるためである。

 それは愛しているからでも復讐をしたいからでもない、ただ両親の口から自分を捨てたのは本当に金のためだったのかを聞きたかったのだ。

 しかし両親は名前を変えてしまったのか見つかることはなく、睦沢は両親に気付いてもらうため、能力とその整った顔を活かして俳優を目指した。

 そんな時に出会ったのが玲奈という女性である。

 玲奈も睦沢と同じく能力者であり、女優を目指していた。

 彼女は自身の能力のせいで昔から疎まれ、両親にも気味悪がられていたという。

 そして家を追い出されるように劇団に入り、皆を見返すために女優になるんだと笑っていた。

 そんな明るく前向きな玲奈に睦沢は惹かれた、そして玲奈もまた自分を理解してくれる睦沢に惹かれた。

 玲奈に出会ってから睦沢の見る世界は大きく変わっていった。

 死と理不尽しかないものだと思っていた世界にはこんなにも美しい光を放つものがあるのだと睦沢は知ったのだ。


 しかし幸せな時間はそう長くは続かなかった。

 玲奈は現代の医学では決して治らない病に侵されていたのである。

 自分に生きる意味、そして幸せを教えてくれた人を救う術を睦沢は知らなかった。

 絶望、それだけが睦沢の心を埋め尽くした。

 どうして彼女が死ななければならないのか、どうして人の命を奪ってきた自分ではないのかと。

 そんな時に知ったのがこのゲームである。

 睦沢は唯一の友人であるジャンからの願いを聞き入れ、彼女のためにゲームに参加することを誓った。



 ◇



【21:12 都市エリア 南西部】


 オリビアと逸れてから約3時間、睦沢は額に汗を滲ませながら必死にオリビアを探していた。

 これだけの時間が経てばもうオリビアは殺されている可能性の方が高いであろうことは睦沢も理解していた。

 しかしそれでも諦める事が出来なかった。

 睦沢は玲奈を救うためにだけにゲームに参加した、ジャンが仲間と共に戦うのであれば自分は一人で、もしもジャンの仲間がジャンを裏切るようなことになればジャンと共に、睦沢にとって世界で信頼できるのはジャンと理沙だけであった。

 しかしそれはここに来て少し変わった。

 仲間のために自らを命の危険に晒しながらも戦うアーニャや雅史、そして仲間を守るためその能力を使うオリビア、そんな彼らを見ていて睦沢もまた彼らのためにその力を使っていた。

 ここでオリビアを見捨てたらせっかく自分が手に入れた大切な何かが壊れてしまう、睦沢にはそんな気がしたのだ。


(一体どうすりゃ……あ、そういえば……)


 ここで睦沢はアレックスに渡された信号弾を思い出した。


(なんて自分は馬鹿なんスか、こんなことに気付かなかったなんて)

 

 信号弾を使ってアレックス達を呼んで一緒に探せば見つかるはず、そう思い信号弾を挿した腰に手をやるがそこに信号弾はなかった。


「戦ってる時に落としちまったんスかね……くそ……」


 自分の迂闊さに苛立つ睦沢だったがすぐに気持ちを切り替える。

 このまま一人で探していても埒が明かないと考え、睦沢は信号弾を落としたであろうオリビアと逸れた噴水広場へと行くことにした。

 ちょうどその時遠くからキャアーという悲鳴が辺りに響き渡った。


「オ、オリビアさん!?」


 その声は確かにオリビアの声だった。

 睦沢は急いでその声のした方へと走る。


(無事で、無事でいてくれッス……)


 睦沢が路地を曲がるとそこにいたのは床に座り込むオリビアとそれに弓のような武器を構える女の姿だった。


「りょ、りょうくん! 助けて!!!」


 オリビアは睦沢に気付くと助けを求める。

 睦沢はすぐさま自分の傍にある街頭樹の一本を能力で引きちぎり、それを女に向けて真っ直ぐ放った。

 女は自分に迫る大木に気付くとオリビアから離れてそれを回避する。

 睦沢はその隙にオリビアへ距離を詰めた。


「今いくッスから!!!」


 走る睦沢に向け女は持っていた弓を射る。

 女の放った矢に対し睦沢は念動力で逆に女に跳ね返そうとした。

 しかしその矢は睦沢の能力を物ともせずに真っ直ぐ睦沢目掛けて飛んでくる。


「なっ!?」


 睦沢はその矢を走りながら間一髪のところで避けた。


(どうなってんスか……自分の念動力が通じないなんて……)


 睦沢の念動力はその目に映る無機物ならほとんどの物は操ることが出来る。

 例外があるとすれば生き物に密着している物、例えば衣服やその人間が持っている物、こういった者は睦沢の能力では操ることができない。

 しかし今睦沢が操ろうとしたのは使用者から離れたただの矢である。


「一体なんの能力ッスか……」


 睦沢は道の脇に止まっている大型トラックに能力を使った。

 そしてそれをそのまま女に向けて突進させるように走らせた。

 女はそれを横に飛び回避するが、それに合わせて睦沢もトラックのハンドルを切る。

 トラックはそのまま女を巻き込んでビルの一階へ突っ込んだ。


「今ッスオリビアさん!」


 睦沢の声にオリビアは起き上がり、睦沢の元へ駆け寄った。


「ごめん、ごめんね、こ、こわかったよー」


 そう言って泣きながら自分の胸に抱きつくオリビアの頭を睦沢は優しく撫でた。


「もう子供じゃないんスから」

「だって怖かったんだもーん!」

「はいはい、とりあえずもう戻りましょう」

「う、うん」


 抱きつくオリビアを剥がそうとした時、睦沢はオリビアの頭越しに信じられないような光景を見た。

 先ほど自分が女に突っ込ませた大型トラックが宙を舞ってこちらへ迫ってきていたのだ。


「なっ……!?」


 睦沢はオリビアを無理やり引き剥がすとそのトラックに能力を使い空中で横に吹き飛ばした。

 トラックはビルに激突するとそのままその階の窓を突き破ってビルにめり込んだ。


「ヒャハハ、こりゃいい能力だ」


 睦沢の目線の先には黒い服に身を包んだオールバック風の男が笑いながら立っている。

 今さっきトラックに押し潰されたはずの女もその男の隣に何事もなかったように立っている。


「何者ッスか……?」

「バアル・ゼブル、あんたを殺す男さ」

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