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睦沢 亮
随分昔に人一人の命の価値を真面目に考えたことがある
答えはすぐに出た
命に価値など無い
どんなに金があろうと、どんなに名声を得ようと、どんなに幸せだろうと結局人間が最後に行き着くのは死だ
どれだけ成功しようと死は平等に訪れる
100年も経てば今いる人類のほとんどが新しい人類と入れ替わっているのだ
そんな死が当たり前の世界で命にどれだけの価値があろうか
そんな風に昔は思っていた
今は人間の命にはそれぞれ価値があることを知っている
しかし俺にそれを教えてくれた彼女は今まさに死に直面している
彼女は自分の運命を受け入れていた
でも俺はそう簡単に彼女の運命を受け入れられなかった
だってそうだろ?
彼女は俺とは違って善人なんだから
こんなところで死ぬのは間違っている
死ぬなら俺のはずだ
彼女を救う、そのために俺はここにいる




