13-2 偽りの歴史
拠点に戻った5人はローゼンクロイツを中心に話を始めた。
「まず私から彼女に質問いいかしら?」
「構わんぞ、何でも答えてやろう」
「あなたがさっき使っていたのが魔術なの?」
「その通りじゃ、アレックスから聞いておらんのか? 儂が魔術師だということを」
「もちろん聞いているわ、それでも中々信じられないってことよ」
「なるほどのう、まぁお主の気持ちもわからんでもないがのう」
アーニャの質問は雅史もローゼンクロイツに聞きたいことであった。
見てしまった以上は嘘だとは言えない、しかしローゼンクロイツが見せた数々の力は雅史がここに来て見た能力者の中でも群を抜いて際立っていた。
まるで恋愛映画の中に突然宇宙人が襲来してSF映画ばりの壮大な銀河系アクション映画になってしまったような無茶苦茶な話。
「つまりあれじゃろ、突然魔術などと言われても信じれないということじゃろ?」
「まぁそうね」
「ふむ、それじゃあ順を追って話そうかのう、まず魔術についてじゃ」
そう言ってローゼンクロイツは能力とは全く別の魔術について語り始めた。
「魔術を簡単に説明するなら自然界における力を従わせる力というべきかのう、特に4大元素と呼ばれる土、風、水、炎、この4つを扱うことが魔術の主流となってくるんじゃ」
「でもそれくらいなら能力者だってできるわよ」
「そうじゃの、だが能力者は従わせるのではなくただその力を無理やり扱っとるだけじゃ、魔術とはそれだけで大きな違いが生まれる、無理やり使うよりも従わせる方がより効果が出るのは分かるじゃろ?」
「ならあなたが魔術を使う前に精霊やら龍やら空想上の生き物の事を言葉にしていたようだけどあれはなに?」
「なにって言葉のままじゃよ、精霊は自然を一つの存在として留めたもの、龍は実在する生き物の事じゃ」
「それがどうも引っかかるのよね」
「なんじゃ、神がいるのは信じるのに精霊や龍については信じられんのか?」
「……」
確かにシュレムの言う通りだとアーニャは思った。
神や天使が実在するなら精霊や龍がいても確かにおかしい話ではないのだ。
「だがまぁ精霊はともかくとして龍に関しては今の世界には存在しないがの」
「どういう意味?」
「儂が召喚した龍、あれは別の世界の生き物という意味じゃよ」
「別の世界……」
「そうじゃ、しかしお主たちは一生その世界と関わることはないじゃろうからな、信じられんのも無理なかろう、せいぜい儂の便利なペットとでも思っておれ」
「確かに完全には信じれないわね……」
「じゃろ? して魔術以外に何か聞いておくことはないか?」
「そうね、あなた自身のことについて聞いておきたいわ、ローゼンクロイツとは何なのか、あなたが一体何者なのかって事をね」
「自分の事を話すのはなんだか照れくさいのう」
少し躊躇いながら自分自身のこと、ローゼンクロイツについて話始めた。
「さっきも言った通りお主たちが知っとるローゼンクロイツと儂は別人じゃ、黒の魔術師と呼ばれるローゼンクロイツはもう死んでこの世にはおらん、儂はその弟子にすぎないからのう、儂は師匠から名を受け継いだ2代目ローゼンクロイツのシュレム・ヘクセ、生まれは200年ほど前のドイツじゃ、とは言うてもその頃はドイツなどという国はなかったがの、クックック」
「200年前って……そんなの生きてるはずが……」
「正確に言えば256年前じゃがの、まぁ魔術には自然を操る以外にも色々あるという事じゃよ、儂が師匠に出会ったのは15の時、それから師匠が死ぬまでの間魔術を教わり続けて今の儂がいるというわけじゃ」
「まるでお伽話ね……」
「ククク、そうじゃの、今の世に伝説となっとる以上はお伽話の中から出てきたようなもんじゃわい、じゃがこれで儂の事について大体分かったろう?」
「ええそうね……あまりに異質過ぎて完全に納得するには時間がかかりそうだけれど……」
「それを言うなら儂の方がお主たちを異質な存在だと感じるがのう」
「どういう意味かしら?」
「その能力者とやらのことじゃ、今となってはよく聞く単語じゃが儂の生まれた頃にはそんなもの存在しなかったぞ、能力者なんてものが噂され始めたのは150年程前からじゃからな」
「150年前!? そんなはずはないわ、能力は人類が誕生した時から人間に備わっているもの、150年前なんてつい最近の出来事じゃない」
「それが儂の認識とずれてるんじゃよ、なぁアレックスよ」
ローゼンクロイツは傍に立つアレックスへ話を振った。
突然話を振られたアレックスは少し動揺し怪訝な表情を浮かべる。
「どういうことかしら副会長?」
「あまりここでは話たくはないんだがな……」
「大丈夫じゃよ、天使らも儂らが何を話そうが咎めるつもりはないそうじゃからな」
「……分かりました、話しましょう、僕がこのゲームを壊したい理由について」
アレックスはゆっくりと口を開いた。
「僕と会長が今回の作戦を考えたのはローゼンクロイツさんに出会ってからなんだ、ローゼンクロイツさんと僕らの認識のズレを知ってからね、僕たちの常識では確かにアンナくんが言うように能力者は人間が誕生した時から存在するなんて言われているけどローゼンクロイツさんからしたら能力者なんて昔は存在しなかったという、これは明らかにおかしい」
「彼女が認識していなかっただけという可能性は?」
「儂を誰だと思うとる、世界を知り尽くした魔術師じゃぞ、それに師匠も能力者など知らなかったはずじゃ」
「そういうこと、魔術師であるローゼンクロイツさんが認識してないなんてあり得ない、つまりここから言えることは今まで僕たちが知っていたはずの歴史は実は違うものだったという事になるんだ」
「そんな……でも……」
「アーニャくんも違和感を感じたことないかい? 今までの人類の歴史でなぜ能力を使わなかったのか、どうしてあれだけ戦争を起こし、いくらでも能力者を兵器として使うタイミングがあったのにも関わらずそれをした記録が存在しないのか」
「それは能力者自体が不確定なもので、戦闘に投入するのは危険だと──」
「戦争っていうのはそんなに生ぬるいものじゃないよ、使えるものは何でも使う、どんな手段を使ってでも勝利する、それが戦争だ」
戦闘機に戦艦、生物兵器に核兵器、それら兵器を作るために行われる水爆実験や人体実験、人間はいざとなればどんな恐ろしいことだってする。
無論、能力者という人間兵器の存在があれば時代の権力者達は躊躇なくその力を酷使したであろう。
「もちろん戦争に限ったことじゃなくても技術革新に能力者のデータがあればもっと早くに技術も進歩していただろう、だが歴史でそれらをした痕跡はない、能力を知るものなら誰だって一度は疑問を抱いたはずさ、でも結局真実は歴史の中、誰も答えを出せずにいた、僕もそうだったよ、でもローゼンクロイツさんと出会って話をするうちに確信した、人類の認識は誰かの力によって書き換えられているとね」
「記憶が書き換えられている……?」
「そうさ、とは言っても書き換えられた人間はもうこの世には残っていないだろうけどね、150年もあれば生きている人間なんて普通はいない、魔術師を除いてね、恐らく書き換えられた記憶は能力についての認識、能力は存在するという認識を150年前の人間の一部に植えつけたのだろう、もちろん最初は誰も信じないけど実際に能力者が現れれば話は別さ、能力に関するもっともらしい知識を持つ人間の言うことを信じる他ない、やがて時間が経てば能力者に関しての知識は常識となる」
「そんなことって……」
「そんなの昔はいなかったと言う者がいても発見されていなかっただけ、そう言われればそれでおしまいさ、裏では能力者の存在は昔から認知されていたという事にしてしまえばいいんだしね」
「でもそれは推測論でしかないわ、誰が何の目的でそんなことをしたっていうの? 手段も目的も分からないのであればそれはそこらの都市伝説を馬鹿みたいに風潮する人間と変わらないじゃない」
「確かにそうだね、正直目的については僕も分からない、でも能力を広めた人物と記憶を改竄した人物、そして手段についてはローゼンクロイツさんに出会って大体予想はついてるよ」
「それって一体」
「このゲームの前回の優勝者さ」




