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神様のデスゲーム  作者: よっしー
第三章 悪
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12-3 暴走

「なにかしら今の音……」


 外の騒がしい音にアーニャは反応する。


「ヒヒ、きっとリアンとファフニールがあなたのお仲間と遊んでいるんでしょう……ヒヒヒ」

「やっぱりあなたの力はリアンの能力で増強したものだったみたいね」

「せいかぁい……」

「もういいわ、あなたに用はない」


 アーニャはシイラに向かって拳銃の引き金を引こうとした。

 しかしシイラが何かを話し出すのを見て情報を言うのかとその指を止めた。


「ヒ、ヒヒ、結局わたしはあいつの捨て駒だったみたいね、ヒヒ」

「……」

「でもね、わたしだってこの醜い顔と引き換えに力を得たの……こ、こんな惨めに終われないの……ヒヒ」

「何も情報を言うつもりがないならこのまま撃つけどいいかしら?」

「ヒヒ、わたし今分かったわ、あのリアンのほ、本当の能力がが、

「どういうこと? リアンの能力は単に他人の能力を強化するだけじゃないってことかしら?」

「そ、そそうよよ、か、彼の能力のほ、本質は相手ののの能力を、い、意図的にぼ、暴走さ、させること、ヒヒヒ」


 段々と呂律が回らなくなっているシイラに不審を抱きつつも重要な情報だと判断したアーニャは話を聞き続ける。


「だ、だだから、わたし、わたしは、ヒヒ、ヒヒヒヒヒヒ」

「しっかり喋りなさい」

「ド、ドアをと、溶かしたんだぁ、アヒヒヒヒ、ヒヒヒヒヒヒ」


 完全に壊れてしまったシイラ。

 アーニャは仕方なくその引き金を引いた。


 パンと乾いた銃声がビルに響き渡る。

 しかしシイラの頭にその銃弾が当たることはなかった。


「なっ、まさか……」


 銃弾はシイラの体に触れる前に溶けて蒸発してしまった。

 C級のシイラの能力は酸を使うことだったが、その力は人間に少しの火傷を負わせる程度、いくらリアンの能力の助けがあっても体に触れる前に銃弾を溶かすのは不可能なはずであった。

 つまり考えられるのは──


「暴走!?」


 アーニャは急いでシイラから飛び退いた。

 その瞬間シイラの体は煙を上げて蒸発、辺りの床や壁に透明な液体が飛び散り、液体がかかった部分を溶かしていく。

 しかしシイラの能力の暴走はそれだけではなかった。

 シイラの溶けていく体、そこから次々と透明な液体が溢れだし床を溶かしていったのだ。


「くそっ!」


 液体はまるで生き物のような動きをしてアーニャに向かってくる。

 アーニャは下へ降りる道を塞がれ、仕方なく3階へ続く階段を駆け上がった。

 一瞬2階のどこかの部屋の窓から飛び降りて脱出しようとしたが、ドアノブが溶かされ塞がれてしまっているため壊して中に入るしか方法はないと判断した。

 しかし後ろから迫ってくる液体の速度を考えるとドアを壊す暇はないだろう。

 

「このままじゃいずれ追い詰められる……」


 頭では分かっていても逃げ場の無い上の階へ逃げ続けるしか今のアーニャにできる事はなかった。



 ◇



 ビルの外ではドラゴンとなったファフニールが雅史を捕まえようとその巨大な腕を振り回していた。

 しかしその腕は中々雅史を捕らえられずにいた。

 まともに戦えば一瞬で雅史を殺すこともできるであろうファフニールだったが、生きたまま捕まえるとなれば話は別である。

 人間が小さな虫を捕まえるのにある程度の力加減をしなければならないと同じで、ファフニールも雅史という小さな人間の体を潰さないように捕らえるのは慎重にならなければいけないのだ。

 雅史はそれを理解した上で街頭樹や車の影を上手く使いファフニールの腕を避けていた。


(いける……)


 自分の細かな動きに苦戦するファフニールを見て雅史は今なら戦えると判断した。

 ファフニールの腕を避けながら徐々にアーニャのいるビルから遠ざかる雅史。

 その後を追うように巨大な体で雅史を追うファフニール。


 この時すでに雅史の中ではファフニールを倒す手段を思いついていた。

 それは一か八かどころか勝機はほぼゼロに近い、しかしセオドア戦でアーニャが見せた自分を犠牲に立てた作戦、それが成功した今ならできるはずと雅史は自分に言い聞かせる。


「ちょこまかちょこまか、こいつ焼き払っちゃだめ?」

「もう少し頑張ってみてくださいよ、殺すのはいつだって出来るんですから」


 慢心、油断、相手がそれを抱いている間は逃げ切れる、そう確信しながら雅史はアーニャのいるビルから少し離れた十階建てほどのビルの前まで逃げ切った。


「イライラするなぁ」


 そう言ってファフニールは雅史の辺りの街頭樹や車を腕でなぎ払い、障害物を排除した。


「これで逃げ場は無くなったよ」


 ファフニールは雅史の体を三本の指で器用に捉えた。


「やっと捕まえた、これで後はアーニャって人が出てくるの待つだけでいいの?」

「よくやりました、これで……ファフニール君、その男を握り潰していいですよ」

「んん? わかった」


 リアンの言葉に疑問を持ちながらも雅史の体を握りつぶすファフニール。

 握り潰した雅史の体はファフニールの腕の中で血を蒔き散らせた。


「あれ?」


 握り潰したはずの雅史の体がシューという音を立てて萎んでいく。


「これはアーニャ君のドッペルゲンガーというやつですかね……これが使えるということはあの男相当な能力者……」

「これどうなってるの……?」

「ファフニール君、匂いであの男の居場所を調べて下さい」

「わ、わかった、えーと、あいつこのビルの中にいるっぽいよ」

「なるほど、物陰に隠れた時に入れ替わりましたか、ただの間抜けではないようですねぇ」


 雅史はビルの屋上を目指し走っていた。

 リアンの言う通り雅史は物陰に隠れた時にアーニャに渡されたドッペルゲンガーを使い身代わりを作り、自分はビルの中へと逃げ込んだのであった。

 雅史はそのまま2階へ上がり、部屋の1つに入るとその窓を近くの椅子を叩きつけて割った。

 その音にファフニールとリアンが反応する。


「一体何を……?」


 雅史はその窓からファフニールに向け拳銃を構えるとそのまま発泡した。

 射撃経験などほぼ皆無の雅史でも巨大なファフニールの体は狙うには充分過ぎるほどである。

 銃弾はそのままファフニールの翼に当たり、淡い光りを放った。

 リアンは銃弾などファフニールの体に当たったところでなんの意味もないと踏んでいたが実際はそんなことはなかった。

 銃弾の当たった箇所が砕け散ったのだ。

 ファフニールは片方の翼が消滅したことに驚くよりもその痛みで叫んだ。

 その叫びはまるで咆哮、その衝撃で辺りのビルの窓が砕け散る。


「これは対能力者用の弾……ちっ、ファフニール君、もう捕らえるのはいいです、焼き払ってしまいなさい」

「うう、よくも、よくもおぉぉぉぉぉぉ!!!!」


 ファフニールは口の先に炎の球体を作り出すと、そのままそれを雅史へと撃ち放った。

 二発目を撃とうと準備していた雅史は作業を止め、急いでビルの奥へと飛び込んだ。

 それと同時にファフニールの炎の弾がビルに当たり、その外壁を吹き飛ばす。


「あ、あぶねぇ!?」


 一瞬でも判断が遅れれば丸焦げになっていたであろう自分を想像して恐怖する雅史。

 雅史恐怖を振り払うようにまた上へと走りだした。


「建物の中は厄介ですね、ファフニール君、あのビルごとあいつを殺りましょう」


 巨大な体のファフニールではビルの中に入ることはできないため、リアンはファフニールにそう命令する。

 ファフニールはリアンの言葉に従って炎の弾を雅史のいるビルへ打ち込み始めた。

 ミサイルのような威力を持つその弾は見る見るうちにビルの外壁を壊していく。


 中にいる雅史はその振動で揺れ続けるビルの中をひたすら上を目指して走り続ける。


(屋上だ、屋上さえ辿り着ければ……)

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