11-2 S級能力者
「まぁ行動方針と言ってもさっき伝えた作戦通りの事をするだけなんだけどね」
「てことはメルル・ルルミックと黒の魔術師の捜索か」
雅史は作戦の鍵である2人の名前をあげた。
「その通り、ちなみにここにいない2人の僕の仲間はその2人の捜索に出かけているよ」
「なるほどな」
キースの話によればアレックスの仲間は8人ということだった。
グローリアに殺されたキースとミランダ、リアン達に殺されたアラン、ここにいるアレックスとマルコス、そして捜索中の黒の魔術師、後2人足りないと雅史は思っていたがこれで謎が解けた。
「君たちにもこの二人の捜索に加わって欲しい、黒の魔術師はともかくメルル・ルルミックに関してはいつ殺さてもおかしくないからね」
「ちょっと質問いいか?」
「なんだい?」
「作戦の話の時から俺だけ知らないみたいで聞きづらかったんだけどよ、黒の魔術師って誰なんだ?」
「そうか、雅史くんは知らなくても当然だな、すまなかった、ECSの能力者の階級分けについてはアンナくんから聞いているんだったね?」
「おう、それは初日に聞いたな」
「なら話は早い、黒の魔術師はその階級の最上位ランクにいるS級能力者の一人だ」
「S級……」
正直に言えばアーニャの階級分けの話を雅史は全てを覚えているわけではなかった。
しかしS級というのは嫌でも覚えることが出来た。
それはアーニャがゲームに参加していると言っていたS級の一人、ボレロ・カーティスの能力を目の当たりにしたからだ。
氷の城を作り、巨大な森を氷で覆うその力は雅史の想像の遥か上をいっていた。
「でもよ、アーニャはS級で参加してるのは二人だけって言ってたよな?」
「私も副会長の話を聞くまで知らなかったのよ」
アーニャが雅史の疑問に答える。
「それもそうだろう、黒の魔術師は最近まで生存が確認されていなかった人物だからね」
「生存が……?」
「そう、つまり生きているのか死んでいるのか分からなかったってことさ、そうだな、この機会にS級について雅史くんにも少し説明しておこうか」
そう言うとアレックスは長机を6人の中心に置き、アーニャからペンと紙を受け取って何かを書き込んでいく。
そして書き終えると紙を雅史に見せた。
そこには4人の名前が書いてあった。
右からボレロ・カーティス、クライム、メロヴィクス・ヴィ・リービジ、ローゼンクロイツと書かれている。
「これがS級の人間ってわけか」
「そういうこと、このボレロとクライムについてはアンナくんから聞いたとのことだけど他の2人は初めて見る名前かな?」
「ああ」
「よし、それじゃあまずこのメロヴィクス・ヴィ・リービジという名前、この人は僕たちECSの現会長のことだ」
「ECSの会長?」
「まぁ詳しいことはECSの人間も含めてほとんどが知らないけどね、公の場に顔を出すのはほぼ僕だからね、ただ今回僕がこのゲームを壊そうとしているのも会長と一緒に決めたことなんだ」
(なるほどな、確かにあんなとんでも能力者達を相手にする組織ならそのトップも化け物ってわけか)
「でも会長はゲームには参加してないし、君と会う事は今後ともないだろう」
「だろうな」
そしてアレックスは最後に残された名前を強調するように名前を丸で囲った。
「それでこいつが黒の魔術師ってわけか」
「そう、ローゼンクロイツ、この人物こそ黒の魔術師、最近まで生存すら確認されていなかったS級の人間だ」
「どうして生きてんのか分からねえ奴がS級に登録されてたんだ?」
「S級っていうのは他の階級と違って少し特別でね、人物が特定されていなくてもその力が世界全体に影響を及ぼすと判断されればS級に認定されるのさ、つまりローゼンクロイツの人物像は不明だったけどその力の痕跡は世界中で発見されているってことさ、それも400年以上前からね」
「400年前!?」
「そもそもローゼンクロイツという名前は数百年前の文献に載っている伝説上の魔術師の名前なんだ、だから現代に生きているはずのない人物なのさ」
「それがなんで?」
「言ったろ? 痕跡が残っているって、ローゼンクロイツは僕たち能力者と違って本物の魔術を使うとされている、僕たちは独自の技術で能力者が能力を使えばそれを観測することができるんだがローゼンクロイツのものとされる魔術は能力とは全くの別物、最初にそれに気付いた時に僕たちはその観測データを過去数百年のデータと照らしあわせてローゼンクロイツの魔術痕だと確信した、それでローゼンクロイツをS級に認定したってわけさ」
「正直言うと簡単には信じられないな、本物の魔術って言われても胡散臭すぎてよ……」
「はは、それは僕も同じだったさ、でもこのゲームが始まる前に僕はローゼンクロイツから連絡を受け、実際にその魔術を目の当たりにした、それで確信したよ、ローゼンクロイツは本物の魔術師だと」
魔術、その単語を雅史は簡単には受け入れがたかった。
能力については元の世界でも知っていたし、この世界で見た能力も信じがたいものばかりだったがそれでも能力について多少なり知識があった雅史は受け入れることができた。
しかし魔術に関しては別である。
魔術と聞くと映画や漫画に出てくるようなファンタジー世界の産物であるからだ。
元の世界ですら能力が表立って騒がれてからは魔術など存在するはずのないもの、むしろ能力が魔術そのものだという人間すらいた。
「やはり信じるのは難しそうかな?」
「そりゃあ流石にな……」
「まぁ実際見れば分かるさ、雅史くんが僕たちの仲間である以上はいずれローゼンクロイツの魔術を目にする機会もくるだろう、それに魔術を信じていないのはなにも君だけじゃない様子だしね」
雅史が周りを見るとアーニャも睦沢もオリビアも目を逸らし、明らかに信じていないように見える。
「さて、これがS級の能力者についてだが何か他に聞いておきたいことはあるかい?」
「聞きたいことね……そういえばS級ってのは5人じゃないのか? 今の説明じゃ4人だけだけどよ」
「ああそうだね、まぁ5人目についてはこのローゼンクロイツよりももっと信憑性に欠ける人物だから特に説明はいらないかと思ったんだが」
「一応説明してくれるか……」
「分かった、さっき僕たちには能力を観測できる技術があるって言ったね、この技術がもっとも効果を発揮するのが人間が自らの能力に覚醒する時なんだ」
「覚醒……? 能力に目覚めるって意味か」
雅史はこの時、自分が能力者ではないと言った事に対してそのうち覚醒するんじゃない? と言っていたミカエルの事を思い出した。
「そう、なんらかの感情の昂ぶりに合わせるように覚醒する能力者、その覚醒した人間は瞬間的に膨大なエネルギーを発するんだけど、僕らはそれを『覚醒爆発』と呼んでいるんだ、実はこの覚醒爆発、観測したエネルギーが強大であればあるほど階級が上の人間が多くてね、僕たちもこの覚醒爆発の観測を元に能力者を管理しているのがほとんどなんだ」
「なるほどな、つまり覚醒爆発した場所を特定してECSにそいつを登録するわけか」
「そういうこと、それでその覚醒爆発が原因のある出来事が13年前にあってね、そういえば雅史くんは日本人だったね?」
「おう」
「実はその出来事っていうのが日本で起きたことなんだ」
「日本で?」
「そう日本だ、ある日突然それは起きた、ECSが今のように正確に人間の覚醒爆発を観測をできるようになって約100年、その観測史上最大の覚醒爆発が13年前の君の住む日本で起きたんだ」
「まさかそれが……」
「多分雅史くんの想像通りだね、その覚醒爆発を起こした人物こそが五人目のS級アンノウンだ」
「アンノウン……?」
「そうアンノウン、つまりは正体不明って事だね、僕たちはその覚醒爆発を観測してすぐに現場に駆けつけたよ、でもそこには何もなかった、ただ平和な日本の日常があっただけだったよ」
「それってつまり機械の故障じゃねえのか?」
「ははそうだね、僕たちの大半がそう思ったよ、ただ問題はその覚醒爆発の強大ささ、もしもその覚醒爆発でなんらかの能力を得た人物がいるのであればその能力者の力は他のS級の力など比べ物にならないほどの力を持っていることになるんだよ、簡単に世界を滅ぼしうる力をね」
「なっ……それってあのボレロって奴の力以上のものってことか……?」
「もちろんだ、言ったろ? 世界を滅ぼせる力だと、ここで言う世界っていうのは地球や人類という意味じゃない、文字通り世界だ、つまりはその能力者の力は僕たちのいる世界、空間、次元ごと壊せるほどの力ってわけさ、どうだい、驚いただろ?」
「なんて言えばいいんだろうな、確かにまだ魔術師の方が現実味のある話に思えてきたよ……」
「そうだろ? まぁ本当に機械の故障ならいいんだけど流石にこれだけ大きな力を放って置くこともできないからね、僕たちはその力をS級に認定したってわけさ」
雅史がアレックスの話を一通り聞き終える頃には、雅史の頭はショート寸前であった。
「これが能力者の頂点のS級の話さ、いい経験になっただろ?」
「ああ、ありがとよ……」
「それじゃあ一段落着いたところで話を戻そうか、これから君達4人には二手に別れてメルル・ルルミックとさっき話した黒の魔術師ことローゼンクロイツを探し出して欲しい」




