11-1 鍵
【12:10 都市エリア 東部 倉庫】
アレックスの仲間になると決めてから、雅史達はアレックスの作戦について聞かされた。
作戦の鍵となってくるのがメルル・ルルミックが持つ能力だという。
メルル・ルルミック、その少女の事は雅史も知っていた。
千里眼のお姫様と呼ばれ、人探しなどで警察に協力をしているギリシャの有名人。
雅史も何度かテレビで見かけたことがある。
そのメルルの能力が必要な理由としてアレックスがあげたのがやはり人探しであった。
アレックスの話によればゲームを壊すにはまず神を殺すのが絶対条件だという、そしてその神を殺すことができるのが特別な能力を持った人間のみだということだった。
その能力、神殺しの能力を持つ人間を見つけるためにメルルの千里眼を利用しようとしているらしく、メンバー探しはメルル・ルルミックの捜索も兼ねているとのことだった。
この話を聞いて雅史が思ったのがなぜゲーム開始前にメルルを仲間にしなかったのかと、どうして神殺しの能力を持つ人間がゲームに参加をしていることを知っているのかというところだった。
雅史はこの疑問を作戦を話し終えたアレックスに投げかけた。
アレックスは特に嫌な顔もせず答えてくれた。
なぜメルルを事前に仲間にしなかったのか、これはメルルを仲間にしようとした矢先にメルルが誘拐されてしまったからだという。
誘拐した犯人がゲームに参加したとこまでは情報を得たが、結局メルルを取り返す前にゲームが始まってしまったらしい。
そしてその犯人は全員初日の死亡者リストに載っていたとのこと。
次に神殺しの能力を持つ人間について、これはこの作戦の成功条件でもある神を殺すということも含め、相手側に協力者がいるとのことだった。
相手側とはすなわちゲームの支配者である天使達、名前はまだ教えられないとのことだったが協力者は天使の中でも上位の存在らしく、そこから様々な情報を得ることができたらしい。
アレックスの作戦をまとめると、メルルの能力で神殺しの能力者を見つけ神を殺す準備を整える、そしてその後能力者達が持つ未知の力を集め神のいる場所へと空間を繋げ、そこで協力者の助けで神を殺すという内容である。
この神のいる場所へ空間を繋げる作業はアレックスの仲間にそれができる人間がいるらしく、その人間は黒の魔術師と呼ばれる者だという。
黒の魔術師はまだゲームが始まってから合流できていないとのことで、今アレックス達の作戦に必要な鍵はメルル・ルルミックと黒の魔術師の2人。
この2人が揃い次第作戦開始とのことだった。
アレックスは雅史達に作戦を伝えると、雅史に後で指示を出すと言い残しアーニャとオリビアと睦沢を連れ意識不明の重体であるアーニャの仲間、ジャン・ロンバートの元へと向かった。
それから約3時間、4人は戻ってくることなく今も雅史は一人残されたままであった。
「暇だな……」
手持ち無沙汰の雅史は今後のことやアレックスの作戦について色々考えて3人の帰りを待っていたが、流石に考えることも無くなり暇を持て余していた。
「雅史くんおっまたせー」
そう言って帰って来たのはオリビアだった。
「オリビアだけか?」
「うん、なんかアーニャと亮くんには別の作戦を頼みたいからって言われてさ」
「そっか、まぁ座れよ」
雅史は自分の座っているパイプ椅子をオリビアに譲る。
「あ、ありがと!」
「さっきからずっと能力使いっぱなしで疲れてんだろ? 少しは休まねえとな」
「うん……」
少し頬を赤くしてオリビアは雅史が座っていた椅子に座る。
「それでどうだったんだ? そのジャンて人は?」
「それが思ったよりも良くなくて、目を覚ますのは少し時間かかりそうかな……」
「そっか、オリビアの能力でもだめだったのか」
「うん、ジャンの傷は臓器まで傷つけちゃってるみたいで、わたしの能力じゃ臓器の修復まではできないから……」
申し訳無さそうな顔してそう言うとオリビアは俯いてしまった。
「あ、で、でもよ! オリビアのお陰で俺もアーニャも睦沢も助かったようなもんだしよ!」
「ふふ、ありがとう、でもきっとジャンは大丈夫だと思うよ! わたしたちの居場所をアレックスさんに教えたのもジャンらしいし」
「そうなのか……」
「うん、何時間か前に少しだけ意識が戻ったらしくて、その時わたしたちの居場所とセオドアと接触してるってことアレックスさんに伝えてくれたらしいの、その後すぐ気失っちゃたみたいだけどね」
雅史はオリビアの話を聞いてジャンが起きたらお礼を言わないといけないなと思った。
おそらく、というより確実にアレックスがあの時助けに来なければ自分たちは死んでいたからだ。
「ジャンて人はほんと仲間思いなんだな、アーニャのために囮にもなったらしいしな」
「わたしは雅史くんだってすごいと思うよ」
「俺が? ないない、俺なんて周りに助けられてばっかで運良くここにいるだけなんだからよ」
「そんなことないよ、ほら、セオドアに向けて銃を撃った時だってわざわざ危険な中に飛び込んでいってたしさ」
「あれはどうあっても外せなかったからな……まぁ結局睦沢の能力に助けられたんだけどよ」
セオドアの能力を打ち消すために、少しでもセオドアに近づいて発砲した時のことを雅史は思い出しあらためて肝を冷やした。
あの時睦沢が念動力で弾丸を誘導してくれなければしっかり当たっていたかは分からないからだ。
「でもなんの能力も持たないであんな化け物相手に突っ込むなんてすごいと思うよ、普通なら真っ先に逃げてるよ」
「そんなことねぇって、オリビアは良い奴すぎだよ」
「わたしはすごいと思うけどなー、でも雅史くんの能力ってほんとなんなんだろうね」
アーニャが言うにはグローリアの部下と戦った時に何かしらの能力を使ったとのことだったが雅史にはその記憶がない。
思い出そうとすると何かが思い出すのを妨げるように頭が痛むのだ。
「そういえばオリビアは俺が倒れてる時に治療してくれたんだよな、なんかその時俺に変なとことかなかったのか?」
「特になかったよ、治療って言っても腕が少し切れて血が出てただけだしね」
「そうか……」
「あ、でも周りになんか黒い羽が散らばってたよ、カラスの羽? みたいな奴」
「羽?」
「うん」
黒い羽、雅史にはそれがなんのことだがさっぱり分からなかった。
「雅史くんはここに来る前は普通の大学生だったんだよね?」
「そのはず……だけど……」
雅史はオリビアの質問に少し歯切れの悪い返事をする。
「そのはず?」
「気のせいかもしんねぇけどよ、なんかこの世界に来てから元の世界の記憶が薄れてくっていうか……」
「どういうこと?」
「うーん、例えば元の世界の友達とか親の顔なんかが上手く思い出せねぇんだよ」
「ふーん……」
「多分ここに来てから色々ありすぎて頭が混乱してるだけだと思うけどよ、なんか自分の認識が根本的にずれてるような変な感覚でさ……変だろ?」
「全然変じゃないよ! きっと雅史くんの言う通りで頭が混乱してるだけだよ、普通の生活してていきなりこんなとこ来ちゃったんじゃ多少変になっちゃうのも普通だって」
「そういうもんかねぇ……」
「そうそう、だからあんま気にしない方がいいと思うな」
オリビアは雅史を安心させるように笑顔でそう言う。
しかし雅史は今自分の身に起こっていることをそこまで軽視はしていなかった。
自分がゲームに選ばれた理由、ミカエルの不信な態度、自分の能力、薄れゆく記憶、そして夢の少女。
これら全てが全部繋がっていて、想像もできないような大きな秘密があるように思えて仕方ないからだ。
それから暫くするとアーニャと睦沢とアレックスの三人が話を終えたのか二人の元へと戻ってきた。
「あっ! 雅史さん! オリビアさんと二人きりとかズルいっスよー」
口を尖らせながら睦沢が雅史に不満を言う。
しかしその言動とは裏腹に睦沢の顔はどこか浮かないように雅史は見えた。
睦沢はジャンの友人だということだったので、やはり友人が意識不明の重体ということで落ち込んでいるのだろうかと雅史は思った。
「待たせてすまなかったね、やっと今後の行動方針が決まったよ、仲間になってもらった以上はしっかり働いてもらうからね」
アレックスはそう雅史に言うと、これからの行動について話し始めた。




