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神様のデスゲーム  作者: よっしー
第三章 悪
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10-2 吸血鬼と狼男

 最初に気付いたのは周囲1キロにセンサーを張っているメルルだった。


「なにかくるよおおかみさん!!!」


 メルルの声に反応するように鼻を効かせ、いつ何が来てもいいようにヴァラヴォルフは身構えた。

 しかし近づいてくる者はヴァラヴォルフの予想を裏切り、上空から現れた。


 その姿を視認した時にはすでに真上、ヴァラヴォルフは片腕を狼の爪に変え、敵を待ち構えた。

 上空の敵は真っ直ぐヴァラヴォルフに向かって落下、ヴァラヴォルフはそれに合わせるよにその敵を切り裂いた。


「ちっ……」


 手応えはなかった。

 切り裂いたはずのその男の姿は消え、代わりにそこには白い靄のようなものが残っていた。


「こちらでございます」


 突然後ろから聞こえる声にヴァラヴォルフはすぐさま反応する。


「わざわざ声なんかかけないで攻撃してくればよかったのに」

「フフ、それでも良かったのですがそれでは興がありませんから、それにワタクシ個人的にあなたと話してみたかったもので」


 燕尾服を着た黒髪の青年風の男はニヤリとほくそ笑んだ。


「メルル」


 ヴァラヴォルフはメルルを近くに呼ぶ。


「少し離れてな、すぐ終わらせるからよ」

「う、うん……」


 この時ヴァラヴォルフはすぐ終わるとは微塵も思ってはいなかった。

 今、目の前にいるのは今まで会った人間の中でも1、2を争うヤバさだと即座に判断したのだ。

 自分が負けるとは思わない、しかし何か妙な物を目の前の男からは感じる。


「まずは自己紹介を致しましょう、ワタクシの名前はクロード・L・ヴリコラティオス、氷の女王ことボレロ・カーティスお嬢様の執事をしております」


 ボレロ・カーティス、その名前には聞き覚えがあった。

 確かここに来る前に無理やり読まされたECSの危険リスト、その最危険ランクに登録されていた名前。

 しかしボレロ・カーティスという名前に聞き覚えはあっても、目の前の男の名前は見たことも聞いたこともない。


「知らない名前だな」

「そうでしょうね、でもワタクシは貴方を知っていますよ、ねぇヴァラヴォルフさん?」

「ご名答……」

「それであっちの木の影から覗いている女の子はメルル・ルルミックさんでしょうかね?」

「さぁな……」

「まぁ貴方とあの子がどういう関係かは知りませんが、どうでもいいことです」

「だろうな、俺だってどうでもいいさ、それより戦いに来たんだろ? 早くやろーぜ」

「ワタクシは戦いに来たわけではないのですがまぁいいでしょう、貴方の力、試させてもらいます」


 先手必勝。

 ヴァラヴォルフは手脚を狼に変化させ、クロードへ突っ込んだ。

 基本的にヴァラヴォルフの戦い方は速攻、そして瞬殺。

 自身の長所であるスピードを活かした攻撃を、まだ浮き足立っている相手に向かってマックススピードで突っ込んで行う。


 狙い通りにクロードの首へ爪が届く瞬間、最初と同じようにクロードの体は白い靄を残して消えてしまった。


(おかしい……匂いが散漫している……)


 ヴァラヴォルフは鼻でクロードの位置を確かめようとしたが、匂いはあっちこっちに散漫していて、捉えようがない。

 やがてバラバラだった匂いは一箇所に集まっていき、体を作りだす。


「どうなってんだ……」

「フフ、分かりませんか、ワタクシも貴方と同じようなもの、伝説上の怪物の一人ですよ」

「伝説……?」

「そう、貴方は狼男として恐れられ、疎まれてきた、ワタクシも同じです、吸血鬼として恐れられてきた……」


「吸血鬼……? そうか、さっきは霧になったってわけか」


 吸血鬼、民話や伝説上に出てくる怪物の一つ。

 話によって大きくその姿形を変えるが、共通しているのは血を吸うこと。

 話によっては他にも体を霧に変えたり、蝙蝠に変身したり、血を吸ったものを操ったり、最強の化け物として書かれることがある。

 しかしその実態は全く不明のまま、信憑性は皆無の伝説の生き物である。


「まぁお前が吸血鬼かどうかはともかく、厄介な相手ってのは分かったよ」

「厄介なのは貴方も同じだと思いますがね」


 クロードがそう言うとヴァラヴォルフの右腕から突然血が吹き出した。

 よく見れば腕の一部が裂けている。


「ワタクシの霧に触れてそれだけでいられるとは」

「ふん」


 ヴァラヴォルフは吹き出す血を特に気にすること無く、あっさりと再生する。


「超高速再生能力ですね、それも異常なまでの……」

「大したことじゃねぇよ」

「フフ、そうですか、では貴方の再生能力が一体どれほど持つか試させていただくとしましょうか」


 そう言うとクロードの体から黒い塊がいくつも飛び出していく。

 クロードの体から分離したその塊は羽を生やし、ある生物へと変わる。


「蝙蝠……?」


 クロードの体が全て真っ黒な蝙蝠になった頃には、その数は数百匹にはなろうとしていた。


「さぁ、いきますよ」


 数100匹の蝙蝠の大群がヴァラヴォルフに向け一斉に襲いかかった。

 ヴァラヴォルフはその蝙蝠達の噛み付きや引っ掻こうとしてくる攻撃を上手く避け、一匹一匹に冷静に対処していく。

 切り裂いた蝙蝠は地面に落ち、黒い液体のようなものに変わっていく。


「ちっ、流石に数が多いな」


 倒しても倒してもキリなく襲い掛かってくる蝙蝠。


「仕方ねぇ」


 ヴァラヴォルフはエリック戦で見せたように、手脚だけでなく全身を狼へと変貌させていく。

 徐々に体は銀色の毛に覆われ、口は裂け、鋭い牙が現れる。

 全身を狼へと変えたヴァラヴォルフは蝙蝠に対処しながら突如吼えた。


 犬や狼が時々長く吼える遠吠え、それをヴァラヴォルフは行なった。

 その声は木々を揺らし、周囲に響き渡る。


 ヴァラヴォルフの遠吠えは強力な超音波を含み、辺りの空気を振動させる。

 そしてその超音波はヴァラヴォルフの周りを飛び交う蝙蝠を破裂させ、地面に叩き落とした。


「うげっ、喉いてぇ」


 遠吠えを止めた頃には飛んでいる蝙蝠は一匹もおらず、全て地面に落ち、黒い液体となっていた。


「これで終わり……なわけねぇよな吸血鬼さん」

「もちろんです、しかしこのような攻撃もできるのですね、少々驚きました」


 クロードの声は地面に広がる黒い液体から聞こえる。


「ではこれならどう対処致しますかね?」


 ヴァラヴォルフの足元に広がる黒い液体、その三箇所から突然人間の腕が飛び出した。

 その腕はヴァラヴォルフの脚を掴もうとする。


 ヴァラヴォルフはその腕に反応し、即座に液体のない地面へ飛び退いた。


「気持ちわりぃな、一体なんだってんだよ」


 腕の主達は黒い液体の中から這い出るようにその姿を現す。

 姿を見せたのは、男2人と女1人の人間であった。

 その顔はどれも異常なまでに青白く、まるで死人のようである。

 3人の目は真っ赤に染まり、表情は無表情で何も読めない。


「そいつら生きてんの……?」

「もちろんです、死んでしまったら心臓になってしまいますからね」


 3人が黒い液体から出ると、その黒い液体は一箇所に集まり、再度クロードの体を形作る。


「この人間達はワタクシがここで作った眷属です、まぁ眷属と言ってもお嬢様の食事用の材料なのですが」

「へぇ、やっぱ吸血鬼に血を吸われると眷属になっちゃうって話ほんとなんだ」

「正確に言えば血を吸うというよりもワタクシの血を入れたの方が正しいですけどね、でもまぁそんなのはどうでもいいこと、結構強いですよ、ワタクシの眷属はね」


 3人の眷属はヴァラヴォルフに同時に襲いかかる。

 しかしその動きはヴァラヴォルフに比べれば遅いもいいとこ。


 眷属の一人をヴァラヴォルフが切り裂こうとした時だった。

 クロードが指をパチンと鳴らす。

 そしてその音に合わせるように目の前の眷属は破裂した。


 ヴァラヴォルフの目の前には赤一色となり、その血はヴァラヴォルフの視界を奪う。

 その隙をつき、眷属の一人がヴァラヴォルフの体を後ろから羽交い締めにした。


「くそっ、離せ!」


 力づくでその拘束を解こうとするヴァラヴォルフだが、どういうわけかピクリとも動かない。

 まるで人間ではなく何かの機械に拘束されているような感覚。

 自分の力を並みの人間が抑えられるはずはない、そう思い眷属を見たヴァラヴォルフは驚愕した。

 眷属の腕の付け根は肉が裂け、おびただしい量の血が吹き出していた。

 しかし本人は顔色変えずにヴァラヴォルフをしっかりと拘束している。


(こいつら、ただの人形じゃねぇか……)


 そして残った眷属の女はヴァラヴォルフに手のひらを向け、標準を合わせるようにしっかりとヴァラヴォルフの体を手のひらに合わせる。

 すると女の腕の至るところから肉が裂け血が吹き出す、そしてその血に混じり光が腕の中から漏れだしてくる。

 その光は女の手のひらに集まり、球体を形作っていく。


 目の前の血飛沫が消え、その女に気付いたヴァラヴォルフはその球体を見て直感した。

 何かやばい攻撃がくると──。


 次の瞬間その球体は強烈な光を放ちヴァラヴォルフに向け光の光線を放った。

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