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砂煙が酷い。かつては緑に、あるいはコンクリートに覆われていた地面も最早みるかげもない。大日本帝国で自然にはお目にかかることの難しい砂漠だ。
この砂漠は人々の生活圏から離れた僻地、人類を悪魔の手から守る壁のすぐ傍であることを意味する。地中に流れる魔素を壁が吸い上げ、結界をはる。その副作用が土地の砂漠化。
「ウルお嬢様、もうじきお時間になります」
側仕え兼護衛に声をかけられる。意識を虚空にさ迷わせるのも、そろそろやめにしよう。ここからは意識をはりつめ、如何なる事態にも対処できるようにしなければならない。
何せ、今からウルを含めたこの場にいる人々は、人外の領域に足を踏み入れるのだから。
「我々学生が二人、民間から雇った傭兵が二人、作戦の主力となる軍人が三人の計七人ですか……。この内まともに使えるのは果たして何人いることやら」
「いや、あと一人傭兵を加えた八人が今回のメンバーだ」
低く錆びた声の持ち主がウルの近くに腰をおろした。濃紺の軍服に砂避けの外套、年の頃は四十代だろうか。衣服の上からでも分かるほどに隆起した筋肉に支えられている。
「失礼。自分は今作戦の指揮を任された深山という。大日本帝国軍、軍曹だ。ハイゼンベルクのご令嬢とその側仕えだな? よろしく頼む」
「こちらこそ、よろしくお願いします」
静かに立ち上がって一礼。顔の横に垂れてきた銀髪をさらって元に戻す。周りの視線もこちらに向いてしまったようだ。まあ無理もない。悪魔の台頭以降、都市間の移動ですら大事だ。国を、しかも海を跨いだ移動などなおさらだ。銀髪、紫色の瞳の白人という明らかに日本人とは異なる風貌は非常に珍しい。というか目立つ。
さらに積み重ねるならば、ウルの生家であるハイゼンベルクは魔術の名門。日本に根をおろして十数年とはいえ、狭い魔術世界では知れ渡っている。
「軍曹殿、私はウルお嬢様の護衛を勤めます玉木と言います。今作戦に参加する退魔師の人数を教えていただいても構いませんか?」
「ああ、構わない。退魔師は自分とそちらの二人をあわせて三人。残りの五人には防魔師として我々を守ってもらう」
「三対五ですか」
あぁ分かる。分かってしまう。表情こそ変えなかったが、玉木は内心見下しているのだ。対悪魔戦闘において火力不足と判断された防魔師たちを。