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深遠の闇に愛されし夜の魔女

深遠の闇に愛されし夜の魔女 グレン視点②

作者: 要 希沙良

 





 俺とミズトはヨルの素顔を正面からみた状態で・・・固まった。

 それは見事に固まった。

 美しい。

 それ以外に思いつく言葉は無かった。

 確かに、綺麗な女性は世に沢山いるだろうし、城にも着飾った貴族の女性が沢山いるが、それとは全く違うと俺は断言できる。

 ヨルの持つ美しさはそういったレベルを超えている。

 俺とミズトが言葉も無く固まっている様子に、ヨルは自分の纏う色が原因で俺達が固まっていると勘違いしたようだ。

 正直、どう反応していいかわからず困っていた。


「すみません。みなさん、私の姿を見ると畏怖や恐怖、奇異な目で見てきます。お二方もこのような『色』を見るのは初めてで、困惑されたでしょう?」


 俺達の反応を勘違いしたヨルは、申し訳なさそうに瞳を伏せ謝罪してきた。

 自分の纏う色で俺たちが不快になったと勘違いしたようだ。

 違う!と大きな声で言いそうになり、あわてて踏みとどまった俺は、何とか感じたことを伝えようと必死になった。


「しっ、失礼しました。あまりにも・・・、あまりにも見事な闇色だったので、つい見とれてしまいました。夜の色ですね、艶やかで、新月の夜の時のような、深遠の美しさを感じます。」


 何とか必死に伝えてみたが、なにやら世辞臭い言い方になってしまった。

 これでは、怪しまれるに決まっている。

 そう思い、ヨルの顔を見て俺は死ぬほど驚いた。


「ど、どうしました??大丈夫ですか?」


 訳がわからないといった様子で首を傾げているヨルに、俺はそっと右手を差し出した。


「え?」


 ゆっくりと、ヨルを怖がらせないように、そっと頬を伝う涙を拭った。


「あの、涙が・・・」


 ヨルは涙を流す自分に全く気付いていなかったようだ。

 今まで黙って俺たちを見ていたミズトが、突然口を開いた。


「自分にはわかる気がします。グレン団長は天然ですから」


 ヨルが、よくわからないという感じで、瞬きを2,3度繰り返すと、瞳に残った雫がハラリと舞った。 俺はそんなことも綺麗だなと見入ってしまっていた。


「見ての通り、自分も少し特殊ですから、今まで色々ありました。人の言葉の裏に潜む本心が怖くて、人を信じることが出来なかった。でも団長に出会って、なんだかそんなことを悩んでいた自分が馬鹿らしくなりましたよ。だってこの人天然ですから。団長の裏も表もない言葉は心に響くんです。あなたも、嬉しかったんですよね?」


 ヨルはミズトの言葉を聞くと、そっとグレンに視線を向けた。


「・・・嬉しかった?」


 涙に濡れたキラキラと輝くヨルの瞳にジッと見つめられた俺はたじろいでしまった。

 ヨルの瞳には力がある。引き付けられる力。

 見つめられると、あっという間に引き込まれそうだ。


「あなたも色々苦労したのでしょう?自分もグレン団長に出会うまでは常に回りに壁をはって生きていました。大丈夫です、この人はお世辞など言える器用な性格ではありませんから安心してください」


「なんか、けなされているのか、誉められているのかわからないんだが?」


「もちろん、最高の誉め言葉です」


 俺の、複雑そうな顔を見ながら、ミズトは自身満々笑顔で言い放った。


 俺達のやり取りを見ていたヨルは、優しく微笑むミズトの瞳を見つめ、ミズトもヨルの瞳を見つめた。


 ヨルは、そっと目を伏せ大きく息を吸うと、ゆっくり吐き出した。


「そう、ですね・・・色々ありました。人を信じることは今も難しいです。でも、あなた方のような人と出会えるのなら悪くありません。人を拒絶しなくて良かった。優しい言葉をありがとう」


 そういってヨルは、俺達に18歳らしい笑顔を見せた。

 全開の笑顔を真正面から見た俺達にできたことは、顔を赤らめ俯くことだったが。


「どうしました?」


 ヨルの問いかけに俺は慌てて先を続けた。


「いいえ!何でもありません!さぁ、話の続きをしましょうか?」


 (笑顔が可愛すぎて直視できなかったなんて言えないし!!)×2



 ***********



「さっきの王国からの依頼の話ですね?」


 深刻な話に空気までもが張り詰めていくようだが、正式に協力を仰ぐ為に、俺達は王国からの密命をヨルに全て話すと決めた。

 何よりも時間がない。若干の焦りが滲んだ声で、俺は話を続けていく。


「そうです。西の大国ホムラまでの道は現在土砂で埋まっている。・・・と、いうことになっています。というより、混乱を防ぐ為に、そうせざるを得なかったのです」


 俺の語り口調に、ただ事ではないことが起こっているのだと察したヨルが、小さく息を呑んだ。


「やはり、あの依頼は作為的に力のある者を選別する為のものなんですか?ただの土砂撤去にランクの指定なんておかしいなって思ってました。」


 ヨルの言葉に、俺は苦笑いを浮かべる。


「はい。かなり無茶な依頼ですが、こちらも時間がないので・・・。多少無茶な依頼でも、王国からの依頼なら、多少の違和感は無視してくれればと、思っていました。」


 ミズトも俺の言葉に肯定するように頷いた。


「依頼には、土砂撤去以外に橋を架けるというのもありましたよね?しかも傭兵のBランク以上と、魔法使い中級以上なんて、かなり実戦向きのランクですよね、まさか戦争でも始めるんですか??」


 部屋が気まずい空気に包まれた。


「もしかして、まさかのまさかですか!?」


 ミズトは、俺が頷いたのを確認すると、話を続けた。


「はい。その『まさか』なんです・・・。我々は、力のある傭兵と、魔法使いをスカウトしにきました。戦争は・・・、すでに始まっています。国内でも、まもなく陛下から発表され、避難が始まる予定です。すでに、ホムラ国が進軍を始めて10日。あと5日程で国境の川にたどりつくでしょう。その前に強固な防衛線を築きたいと国王は考えておいでです。」


 ここからは俺が、話を引継ぐ。


「そこからは、私が言おう。騙して雇うつもりは決してありません。引き受けてくれるもの全員に真実を伝え、正式に王国が雇う事を話します。ただ、時間がありません。特に魔法使いが圧倒的に足りていないのです。どうか力をお貸しいただけませんか?」


「すでに被害が出ているのですか?」


 皆まで言わずともわかるのかと、俺達は息を呑んだ。

 ヨルは魔法使いの腕だけでなく、状況を読むことにも長けているようだ。

 ここまで話しておいて隠し事も必要ないと判断した俺は、真実を語るために口を開いた。


「我が国には、都市の名はありますが、国の名はありません。初代国王陛下は、『国は己の持ち物ではない。わざわざ所有物のように、名など付けなくていい。ここに家があり、人々が幸せに暮らしていければそれでいいじゃないか』とおっしゃったからです。国民あっての国、国とは自分を含め、国民全員のものと考えられていたそうです。ですから、近隣の国からは名の無き国『無国むこく』と呼ばれています。」


 俺は1度大きく息を吐くと、声を搾り出しながら話しを続けた。

 辛い話しゆえに・・・。


「10日前に、スイエンにある軍施設が直接魔法攻撃され、多数の死傷者が出ました。その直後に、ホムラ国と我が国の間にある中立商業都市『エンエン』に駐屯している我が国の守備軍が・・・全滅しました。そして、ホムラ国国王から『名無き国をホムラの名で染め上げてやろう』と宣戦布告の文書が届きました。」


「軍施設への魔法攻撃は、本当に外部からのみの攻撃なのですか?」


 最初から聞かれるとわかっていたようにミズトが答えた。


「はい。国境の結界も、スイエンまで3重に張ってある結界も全て無理やりこじ開けるように破られていました。」


「となると、敵はいつでも中央を攻撃できるぞと、宣戦布告してきたわけですね。」


 しばらく葛藤する様に下を向いていたヨルが、漸く顔を上げた。

 キラキラと輝く瞳は、生気に満ちている。


「私、普通に穏やかに生きていくのが夢なんです。でもこのままじゃ、私の普通が無くなってしまうんですね。レイハートさん?ウォールさん?私でよければ協力させて下さい。私なんかが、何かの役に立つのなら喜んでお手伝いします。」


 俺は全力で頭を下げた。


「ありがとう!ありがとうございます!あなたのような少女まで、戦争に駆り出さなければならないのは正直心苦しいです。ですが、ほとんどの魔法使い部隊は結界の再生と維持で手が離せない状態です。1人でも多くの魔法使いが必要なんです。本当に協力を感謝します。」


 上級魔法使い1人が、兵士何十人分もの役割をこなせる。

 1人でも多くの魔法使いを確保しておきたい今、ヨルの協力は大きな戦力になる。


「セラヴィーンさん、国境ではすでに王国直下騎士団が守りを固めています。そこに、今回の依頼を承諾してくれた傭兵達が参加しても数は4000に満たないでしょう。ホムラ軍はおよそ5000、その後に本体の15000が迫っています。非常に厳しい戦いになります。」


「はい、わかりました。一度、家に帰って準備を整えてきます。私はどこに行けばいいですか?」


「今、国境防衛線と王都の間に防衛戦は1つしかありません。そこが最終防衛線になります。兵を分散させるより1つの壁を分厚くすることに徹底することにしました。ですから、国境をもし越えられた場合は、最終防衛線で必ず押し留めなければいけないのです。現在は、多重結界で何重にも囲い、防衛線の強化に努めています。我々も、防衛線に向かい戦いの準備をします。セラヴィーンさんには、我々と同じ最終防衛線で待機していただきたいのです。」


「わかりました。あなたに目印を付けさせていただいてもいいですか?それを目印に転移しますので。後、私の事はヨルと呼んで下さい。敬語も必要ありません。自分よりも年上の人にさん付けされるとなんか申し訳なくって・・・」


 はにかみながらそう告げるヨルに、微笑み返しながら、俺の心は、先ほどから感じる『力』に翻弄され続けていた。


 あのとき、ギルドに近づいてくる、強い魔力に気付いて声をかけたのは偶然だったのだろうか?

 違う、必然だったのかもしれない。


 出会った魔法使いは、見たこともないほど美しい少女だった。


 確かに、ヨルの髪と瞳は大変珍しく、人々が嫌がるのも仕方のない事かもしれない。

 人は自分と違うものや、見たことのないものを拒絶するからだ。


 だが、今までヨルの顔をしっかりと見た者はいなかったのだろうか?


 こんなに美しい女性は見たことがなかった。

 みんなヨルを遠巻きにしか見ず、目を合わせようとしないから気付かないのだろう。

 手足もスラリと長く、身長も170近くあるのではないだろうか?


 王城にいる、白の陛下と並んだら、それは見事な一対の絵のようになると思った。


 今まで、陛下のように美しい人間は見たことがなかったが、この少女は、同じかそれ以上だ。


 実際、ローブを取って素顔を晒したときも、纏う色の珍しさよりも、彼女の美しさに驚き言葉がでなかったのだ。


 そっと拭った彼女の涙が、今までの孤独を思わせ、心が震えた。

 辛かったのだろう、苦しかったのだろう。

 その時、その場にいれば守ってやれたのに、と。


 出会ったばかりとか、距離とか、関係なかった。

 ただ心が震え、歓喜している。

 出会えた、やっと出会えたと体中の細胞が訴えているようだ。


 年相応に恋もしてきた、経験もそれなりにある。

 愛がなんであるか、わかったつもりだった。


 でも、今までこんなに心が震えたことはなかった。

 こんなに切ないと思ったことはなかった。


 話す言葉、声、姿に目が離せない。

 これは何だ?守らなければいけないと感じる。

 今わかっているのは、心が彼女を求めて叫んでいる。

 共にいたいと。



 ――――体の奥底で魂が叫んでいるんだ








『君が俺の絶対だ』

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