三つの種
あるところに夫婦がおりました。
貧しい土地を耕しては夫は街へ作物を売りに行き、妻は木細工で生活を支えておりました。
あるとき夫が留守にしていましたところ、妻は家の前で倒れている旅人を見つけました。
哀れに思った妻が豆のシチュー、気の抜けたワイン、堅くなったパンで介抱いたしますと旅人はいたく感激して妻に三つの種を渡しました。
「これは幸せの種です」
旅人はいいました。
「奥さまが土を耕し、旦那さまがこの種を蒔けばきっといいことがあるでしょう」
旅人が去り、夫が帰ってくると妻はさっそく土を耕し、夫に一粒種を蒔くよう頼みました。
するとなんということでしょう、種はむくむくと土を押しのけ成長を始めました。
つるが伸び、葉が開き、白い花が咲くと途端にしぼみ、ついに眩しい銀の実が実りました。
夫婦がおそるおそる実を開くと中には銀色の美しい娘が銀の杖を持ってにこりと笑って居りました。
娘はよく働き、よく孝行をしましたが、銀の杖は片時も離しませんでした。
銀色の娘が銀の杖をつきつき、夫と街へ作物を売りに出ていた時のことです。
「なんと美しい銀の杖、なんと美しい娘だろう」
たまたま狩りのために街へ訪れていた領主が銀色の娘を見初め、その場で結婚を申し込みました。
娘は頬を真っ赤に染め、夫は大喜びで家に帰り、妻に事の次第を伝えました。
「なんて嬉しい話だろう」
妻も喜び、娘を着飾らせて領主のもとへと嫁がせました。
領主からたくさんの祝い金を貰った夫婦はそれよりも豊かな暮らしを送るようになりました。
しかし娘がいなくなって寂しくなった夫婦。またあの種を蒔いてみようと思い立ちました。
妻が土を耕し、夫が一粒種を蒔くとまた種はむくむくと成長しました。
白い花が咲いてしぼみ、今度は金色の実が実りました。
夫婦が実を開くと中には金色の美しい娘が金のマントをもってにっこりと笑って居りました。
金色の娘もよく働き、よく孝行をしましたが、やはり金のマントは身につけたまま片時も離そうとしませんでした。
金色の娘が金のマントを翻し、妻と木細工を売りにでていたときのことです。
「なんと美しい金のマント、なんと美しい娘だろう」
たまたま視察に来ていたこの国の王子が金色の娘を見初め、その場で結婚を申し込みました。
娘は嬉しそうに微笑み、妻は大喜びで夫に事の次第を伝えました。
「なんてめでたい話だろう」
夫は喜び、娘を着飾らせて王子のもとへと嫁がせました。
国から領主の比でないほど祝い金を貰った夫婦は、これまでの生活が考えられないほど豊かな暮らしをするようになりました。
二度の奇跡を得た夫婦はまたあの種を蒔いてみようと思い立ちました。
「今度はどんな娘がでてくるだろうか」
「見初めてくれるのはどんなひとだろうね」
あまりに浮かれていた夫婦は旅人の言葉を忘れ、夫が土を耕し、妻が種を蒔きました。
種はまたむくむくと成長を始めましたが、今まで違い、灰色の花を咲かせ、汚らしく茶色にしぼみ、ついに鈍い灰色の光沢をもつ実を実らせました。
夫婦が実を割ると灰色の若者が鈍い灰色の金属の棒を持ってむすっとして居りました。
灰色の若者は豊かな生活のためあまり働かず、孝行もせずに喧嘩ばかりしておりましたが鈍い灰色の金属の棒は片時も離しません。
夫婦は仕方なく若者を騎士団へと入団させてやりました。
騎士団に入った灰色の若者はめきめきと力をつけてやがて騎士団長へと昇りつめました。
そのときになって若者の持つ金属の棒が今までの金属より堅く、しかし加工しやすい、武器に非常に有利な金属だとわかりました。さらに夫婦の住んでいた貧しい土地がその金属がよく取れる場所だということも広まりました。
各国がこの金属を求めて争いをはじめ、それはやがて夫婦の住む国を滅ぼすまでになりました。
夫婦は土地を追われ、財産もなくし、遠く離れた地でまたかつてのように貧乏な暮らしをしたということです。
サウン国童話集第2巻収録「三つの種」より