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王様と魚



あるところに王国がありました。


王様は優しく、臣民から愛されておりました。


唯一つだけ王様には困ったお妃さまがいました。

お妃さまは気性が烈しい方で、王様をそんなに好いていないようでした。

王様もそんなお妃さまから逃げるように庭園にある池に住む魚に話しかけては気を紛らわせておりました。


「さかな、さかなや」

そう王様が毎日池の縁にたって呼びかけると黄金のうろこを持った大きな魚がぬぅっとでてきて王様とひと時を過ごすのです。


「さかな、さかなや」

今日もまた王様は池の縁にたって呼びかけました。

黄金の魚はぬぅっと出てきて王様の呼び声にこたえます。王様は嬉しくなって魚に語りかけました。


「なあさかなや、池の底は寂しくはないか。他の魚はいないようだが何か新しい魚を連れてきてやろうか」

魚はただ悠々と広い池を泳ぎ、一度だけ水面をぴしゃりとはたきました。

王様ははて、と首をかしげました。

「どうにも私にはさかなの言葉がわからなくてかなわん、けれどもやはり一匹では寂しいだろうから何か連れてきてやろう」

そう言って王様は遠くの国にまで魚を探しに行かれました。



さて王様がいない間のことです。

お妃さまがこの池のそばを通りかかりました。

その拍子にお妃さまの指から華奢な指輪がポロリと零れ落ち、あっという間に黄金の魚に飲み込まれてしまいました。

怒ったお妃さま。顔を真っ赤にして怒鳴りました。


「誰か!この魚を捕まえて腹を掻っ捌きなさい!!」


お妃さまの従者はうろたえました。何しろ池の魚は王様の大事な友人です。

できません、というとさらに怒ったお妃さま。従者を突き飛ばし、大きな網を持ってこさせました。

それで魚をなんとか曳き上げますと、従者の持っていた刀で首を切り落としてしまいました。


魚が動かなくなったことに満足したお妃さまは厨房に魚を運ばせ、料理にして全てを平らげてしまいました。

残った見事な黄金の鱗と骨は従者がこっそり厨房から持ち出し、泣く泣く庭園の隅っこの小さな木の根元に埋めました。



そうとは知らず、戻ってきた王様。池の魚に合う魚は見つからず、少々がっかりしながらお妃さまに聞きました。

「私の留守中に何か物事はなかったか」

「何もございませんでしたわ」

お妃さまは澄まし顔で答えました。


ところがその夜、王様が寝つかれますと寝台の横に見事な黄金の髪を持った姫君が現れ、哀しげな声で歌いました。


ああ、かわいそうないけのさかな

くらいくらいいけのそこ ともがいたからへいきだったものを

いまではくらい だいちのなか


歌い終わると姫は消え、王様は妙なことだと思いながらも池へと赴きました。


「さかな、さかなや」

しかし魚はでてきません。それから何度も呼びかけましたが、ついに魚は出てきませんでした。


その夜、また姫君は現れました。


ああ、かわいそうないけのさかな

まるいつきをのんだばかりに つめたいみずからひきはがされ 

いまではくらい だいちのなか


王様はおかしいと思いつつもまた朝になると池へ赴きました。


「さかな、さかなや」

やはり魚は出てきません。王様はがっかりして仕事へ向かいました。


その夜、より一層哀しそうな顔をした姫君は現れました。


ああ、かわいそうないけのさかな

きさきにくびをおとされ ほねとうろこはちいさなきのしたに

いまではくらい きさきのはらのなか


この歌を聞いた王様は朝になりますとお妃さまを問い詰めました。


「私の留守中に何か物事はなかったか」

「いいえ、何もございませんでしたわ」

「それは真か」

「ええ、真ですとも」

ぽろり、とお妃さまの口から何かが飛び出しました。拾ってみると見事な黄金の鱗。

「これはなんだ」 

「なんだもなにも、私は知りませんわ」 


またぽろりと黄金の鱗がお妃の口から零れ落ちました。

お妃さまはふるふると頭を振りました。


「知りません、知りませんったら」

そういう間にもぽろぽろと鱗は絶えずお妃さまの口からこぼれ、最後にころんと魚が飲み込んだはずの華奢な指輪が出てきました。

お妃さまは罪を問われ、国外へ追放になりました。


その夜、王様の寝台の横にあの姫君が微笑みながら歌いました。


ああうれしいいけのさかな

さいごにともとおなじになり さみしくはなくなった

いまではゆたかな みずのなか


翌朝王様が枕もとを確かめるとそこにはあの黄金の鱗が数枚落ちておりました。



のちに王様のところへ黄金の姫君が嫁ぎ、優しい王と妃が暮らす豊かな国と評判になったそうです。





サウン国童話集第2巻収録 「王様と魚」より

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