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恋のけじめ  作者: 上村忍
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連載としましたが、さらっと終わる予定です。あと2話くらいのうちに終わりますので、さらっとどうぞ。

カチ、カチ、とマウスをクリックする音が、静かな部屋に響いた。モニターが変わる瞬間が、ゆっくりになったと梅﨑駿は思った。それだけ、開かれたページが駿の心を打ちぬいたのだった。


駿は公務員として働いている。毎日毎日同じような仕事の繰り返し、アップダウンのない生活は今のこのご時世、とても贅沢なことだと思っている。8時から集中して書類整理を続け、なんとか定時に帰ることを心掛けていた。定時に帰ることが一つの目標であり、駿の誇りでもある。


駿は一人暮らし。帰りに近所のスーパーに寄って、半額になっている肉や魚を狙う。野菜は半額のものを買わない。肉や魚は調理でなんとかカバーできるが、野菜の味が落ちているのは嫌だった。一人暮らしも長くなると、なんとなくでも材料を揃えるだけでそれなりに食べることができるものが作れる。炒める、煮込む、揚げる、調理法は変わらないけど、材料、調味料が変わると出来上がるものも変わる。駿はどちらかと言えば、料理は上手い方だと思っている。料理は数式に似ているとも思っているので、理系な自分に合っているのだろうと分析した。


今日のメニューは半額だったレバーで作ったニラレバ炒め。レバーの下処理は面倒くさくなって、適当にやったものの、調味料の味が濃いので気にはならなかった。食事の時にはテレビをつけない。自分が噛む音を聞きながらゆっくりと食べる。


食べ終わって、食器を洗う。食べてすぐに洗うのも習慣化している。一人暮らしの男の部屋とは思えないほど片付いているのは性格だろう。きれいになったキッチンでコーヒーを淹れる。コーヒーメーカーを使わない。もちろん、インスタントコーヒーも入れない。一杯ずつドリップしたものを夕食後に飲む。そうして、今日の一日が終わったことを実感するのだ。


コーヒーの香りを楽しみながら、駿はSNSに日記を書く。何の変哲もない一日で考えた普通の事を書き連ねる。


「今日のコーヒーは自分でも上手に淹れることができたと思う。しっかりと豆が膨らんだ」

「近所のスーパーでレバーが半額だった。ニラレバを作って食べた」

「職場で電話が2回鳴るまでに取ることができた。集中していたのかな」

「今日はちらちらと雪が降った。口を開けて、何粒か入れてみた。味はしなかった」


 しかしながら、ネットの世界とは面白いもので、そんな何の変哲もないことにも興味を持つ人間がいる。その彼女の名前は東さつき、「ひがし」ではなく「あずま」と読む。ある日、駿はメッセージをもらったのだった。


「東さつきです。覚えていますか?高校の頃一緒だったでしょ?実は毎日日記読んでいるんだ。面白いんで明日も楽しみにしています」


 駿は簡単なメッセージを返した。


「ありがとうございます。明日も書きますので、読んでください」


 そして次の日も同じような日記を書いた。しかし、変わったのは日記の感想をさつきがメッセージでくれるようになったのだ。駿も初めは戸惑い、いちいち返信をしていたのだが、いつしか返信もせずに感想だけが届くというスタイルに落ち着いた。


「私は自分でコーヒーを淹れることができないから、今度やり方調べてやってみよう」

「ニラレバは私も大好き。レバーは牛乳につけておくと臭みがとれるよ」

「電話が鳴っているのに取らない人っているよね。今まで何を学んできたんだ!って思う」

「都会の雪は汚いからやめた方がいいと思います」


 駿は平日は夜8時くらいに日記を書いて、土日は朝8時くらいに日記を書いていた。毎週毎週、律儀に欠かすことなく書き続けている。特に趣味もないので、週末は日記を書いて近所の図書館に行って本を借りて過ごす。近所のおじいちゃんがやっているカフェに入って、おいしいコーヒーを飲みながら本を読んで過ごすことが、駿にとっての幸せであり、贅沢だった。


 ある土曜日、そのリズムが崩れることになる。日記を書こうとSNSを開くと、メッセージが届いていた。もちろん、さつきからだった。


「ホームセンターに行きたい」と。


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