乗ってみたい憧れの乗り物は…
もの知らずもここまでくれば大概だと思うが。
能天気にサクラは手をあげて叫んだ。
「あたし乗る乗るっ!是非乗せてッ!」
「バカ、お前は乗るなっ! すっこんでろっ!」
俺の忠告などお構いなしに、話を持ち込んだ田羅石に縋りつく。ヤツはヤツで困った顔をして頭を掻いていた。だが、実質サクラを無視して俺に話を振ってくる。
「で、どうです?士津見さん。」
「お断りだ。何度も言ってるだろ。俺はテメェの口車に乗るつもりはない、てな。」
横でしつこくハイハーイッと手をあげるサクラを無視し、俺はヤツを玄関へ引き戻す。
「とにかく帰ってくれ。これ以上俺の所に話を持ち込むな。」
無理矢理俺はヤツを追い出し、扉を閉めた。そんな俺をじっと見つめ、不服な表情でサクラは詰め寄った。
「どうして乗っちゃダメなの?田羅さんだって、気を利かせて誘ってくれてるのに。」
指先でシワの寄った俺の眉間を突く。いつだってコイツは俺が悩む顔をするのを嫌がっていたな。成り行きで拾ったとはいえ、もう二人で暮らし始めて随分と経つ。
俺は軽く宥めるように、サクラの頭に手を乗せた。サクラはサクラで突拍子のない事を言う。
「口車って、面白そうじゃん。いっつも田羅さん楽しそうに話してるよ。」
「サクラ、お前は何にもわかっちゃいねぇだろ。」
途端に子供みたいにブータレて、サクラは駄々をこね出した。
「だって乗ったこと無いんだもんっ!、いろんな種類がある有名なアトラクションなんでしょ?それにセイがこっそり乗ってるの、あたし知ってるんだからっ!!」
表向きは一級整備士をしている。だが裏は、他人に言えるものじゃない。そっちの世界では"仕掛け"屋と言われる俺だが、そもそもサクラには説明するだけ無駄ってモンだろうな。
口車は乗り物じゃない、という事すら気付けないのだから。
「だったら。ちゃんと自分で責任取れよ?どうなっても俺は知らねぇからな。」
「ホント?乗ってもいいの?」
「…勝手にしろ。」
ヤッター!! と諸手を上げて喜ぶサクラに、景気づけの一杯をごちそうする。
どんな車も乗りこなす、超一流のドライビングテクニックの持ち主だ。
お手並み拝見、と行こうじゃないか。
念の為。
口車に乗る は辞書に書かれている意味の通りです。
違う意味で取る人はいないだろうと思いますが、心配になったので、後書き追加しました。




