Being
CRYSTEAR PALADIN 3 序章
存在。記憶。時間。ー世界を殺したいー / ザザー、ザッパン ザザー、ザッパン よせてはかえす波の音・・・・・・・・・・・・。
ワタシは存在する。
思い出。仲間。世界。ーでも、キミがいたからー 蒼い世界に、ただ佇んでいる人陰が一人。
ボクは存在しない。
友達。隣人。先生。恋人。-私はまた、歩き出せるー / 空を駆ける風。
キミは存在した。
閃光。蒼穹。雲。波。音。-ボクはもう、進めないー / 耳に届く波の音。
校舎。ガラス。銅像。道。-私はまた、飛べるはずー / 蒼穹を漂う純白のカタマリ。
君の存在。ボクの記憶。私の時間。-アナタを救いたいー / ワタシはキミを待っている。
ボクの思い出。ボクの仲間。ボクの世界。-でも、心は救えない 死にたい 消えたかったー / キミがワタシに微笑みかける。
アナタの友達。アナタの隣人。アナタの先生。アナタの恋人。-あきらめないでー / そんなキミにプレゼントだよ。
剣の閃光。果てない蒼穹。純白な雲。よせる波。かえす音。-こんなにも綺麗な世界 アナタは死ぬのー / これはなんなの?
純白の校舎。光るガラス。天使の銅像。広い道。ーここにボクは存在できないー / ワタシの大切なもの。
ーアナタはアナタ 存在 意味ー / キミにあげる。
ーボクはなに?- / くれるの?
ー天使 ヒト 神様 アナタはドレ?ー / うん、ワタシのお守り。
ーボクは選定できない ワカラナイ リカイシエナイー / お守り?
ーワタシはテンシー / そう、世界を守ってくれるお守り。
ーキミはヒトー / すごい綺麗だね。
ーアナタはカミサマー / そうだね、大事にしてね。約束だよ。
ー駆ける蒼穹 照らす陽光 輝く閃光 誓った約束 消失した存在ー / うん。約束するね。
蘇る記憶。再生される世界。取り戻す時間。形成される存在。今、世界はシンクロする。だから、 / だから
アリガトウ カミサマ / ありがとう、七姫さん!
かつて失ったもの。かけがえのない存在だった。家族。人。世界。そのすべてが彼女が普通に生活してきて当たり前のもののように存在していた。だが、本質を理解していても
それは違った。人は壊れていた。世界は分岐していた。 ただ、一つだけ・・・この分岐した世界の中で、私が誇れるものがあった。
家族。そのたった2文字の言葉が私の唯一の心の支えだった。
しかし、ある日・・・いつもと変わらない日々をおくるはずだったその日、すべてが崩壊した。 あっというまだった・・・・・・。
ザザー、ザッパン ザザー、ザッパン よせてはかえす波の音・・・・・・・・・・・・。
神咲島にて~
僕はある孤島に父親と二人で住んでいた。母親は僕が幼稚園に入ってすぐに病で他界し、それからは父親と二人でこの孤島に住んでいる。
「お父さん、行ってきます!」「あぁ、気をつけて行ってきなさい。」僕は蒼い石を持って家を出た。今日は幼馴染の双子の女の子と一緒に海辺で遊ぶ約束をしていた。天気は晴れ。雲もちらほらあるが雨
がふりそうな気配はまったくない。ポケットに入れてきた蒼い石を取り出し太陽にかざす。石はキラキラと蒼く光り、眩しく輝いている。僕はそれをポケットにしまい、走って約束している場所に向かった。
ザザー、ザッパン ザザー、ザッパン。潮風を感じながら僕は約束の場所に着いた。僕は波打ち際で母親と一緒に遊んでいる二人の少女を見つけた。僕が波打ち際まで降りていくと二人の少女の母親、春瀬七姫さんが
僕にきずいたのか遊んでいた娘たちの肩をたたいてこちらを見るようにうながした。
「あっ、優姫君だ。」黒髪を横で白い布で結んだ女の子が僕に向かって小走りではしってきた。
「見て、貝殻こんなにいっぱい!」「わぁー、すごいね。美空ちゃん!」美空ちゃんが今まで母親と双子の姉と一緒にとっていた貝殻やきれいな石を僕に見せてくれた。
そのあとにつずいて母親の七姫さんと美空ちゃんの双子の姉、七海ちゃんが七姫さんの服の裾を掴んでトコトコとやってきた。「こんにちは。」僕が七姫さんに挨拶をすると、七姫さんもかかんで「こんにちは、優姫君。
今日はいつもより早かったのね。」「はい。早く七海ちゃんと美空ちゃんに会いたくて。」僕が真っ正直にこういうと横にいた美空ちゃんはだんだん頬が赤くなってきてその言葉に耐え切れなかったのか、七姫さんの影に隠れ
恨めしそうにこちらをにらんできた。七海ちゃんはさっきまで母親の影に隠れていたのに今は顔を七姫さんの服に押し付けて必死に僕に表情を悟られぬようにしている。
そんな子供たちの様子を見ていた七姫さんはクスクスと楽しそうに笑っていた。
僕らは生まれ育ったこの島で毎日楽しく生活していた。母はいないけれど、父に近所の人たち、春瀬家のみんな。そしてこの神咲島が生んだ自然。僕はこの島のすべてが大好きだった。
だが、あれから2ヶ月後の春のことである。僕の父親の仕事の都合で、この神咲島から本島に引っ越すことになったのだ。突然の出来事にこの島が好きだった僕は心底落ち込んだ。そんな姿を見かねてか、近所のおばちゃんが
自宅で栽培しているみかんを持ってきてくれたこともあった。僕は本島に引っ越すことを春瀬家の人達に伝えた。双子の母親である七姫さんの寂しそうな顔を見るのは、この島を離れる話を聞いた時よりも辛かった。
だが、それ以上に寂しそうで今にも泣き出しそうな顔をしていたのは僕の予想通り双子の姉妹だった。「どうして優姫君が行かなきゃいけないの?」美空ちゃんが涙目で僕に訴えかけてきた。「お父さんの仕事の都合で
優姫君も一緒に本島の方に行くことになったの。」僕が答える前に七姫さんが変わりに答えてくれた。「いやだ!優姫君が行っちゃうなんていやだ!」七姫さんの服を掴んで美空ちゃんが叫ぶ。「美空、無理言うんじゃありません
。優姫君だってつらいの。わかってあげて。」七姫さんが優しく美空ちゃんに話しかける。それでも美空ちゃんは、やだやだといって聞かなかった。「七海ちゃん・・・。」七姫さんの横で俯いている双子の姉に僕は声をかけた。
「・・・・・・。」僕が声をかけても七海ちゃんは俯いたままだ。よほど、僕の引越しの話がきいたのだろう。その日は双子の姉妹が笑うことはなかった。
ザザー、ザッパン ザザー、ザッパン、ザザー、ザッパン ザザー、ザッパン 時は刻々と過ぎていく・・・。
気がつくと空は茜色に染まっていた。双子の話声は聞こえない。七姫さんが時折話をふってくれたがその話も長続きしなかった。すると、道路のほうから車の止まる音が聞こえてきた。僕と一緒にいた人全員が振り返る。
僕はその車に見覚えがあった。シルバーのワゴン車から出てきたのは、お父さんだった。その時七姫さんがなにかを悟ったように立ち上がると、「優姫君、お父さんだよ。」といって不安そうな顔の七海ちゃんと美空ちゃんを連れ
て、ついてきてといわんばかりに手招きした。僕はまさかと思い、父親のもとに駆け足で向かった
僕がお父さんに近ずくと「優姫、お前が約束の時間になっても家に戻ってこないから迎えに来たぞ。」と言って心配そうに僕を見た。 約束の時間 そのことは春瀬家のみんなには伝えていなかった。
今日僕は朝父に「今日でこの島ともお別れだから最後に挨拶してきなさい。」と言われて僕はいつものこの場所に向かったのだ。お父さんが僕の顔を見て、なにか悟ったような顔をした。「まさかお前まだ言ってなかったのか?」
「お父さん、優姫君がそのことを言い出せなかったのは仕方のないことです。毎日一緒に過ごしてきた私たちにはなかなか言い出しずらかったのでしょう。」七姫さんがまたも僕の変わりに答えてくれた。
本当にこの人には感謝している。僕を本当の家族のように扱ってくれて、毎日七海ちゃんや美空ちゃんと一緒に浜辺で遊んでくれた。「七姫さん、すいません。突然このようなことになってしまって。」「いいんです。最近の
優姫君の行動や言動からうすうすきずいてましたから・・・。」僕は正直驚いた。さすが双子の親だけあって、子供を観察する能力はすごい。
僕たちの一連の言動からなにかきずいたのか、美空ちゃんが不安げに母親をみた。七海ちゃんは七姫さんの服を掴んだまま僕の父の後ろの車をみていた。そして、母親を掴んでいた手が僕の服を掴む。僕は一瞬七海ちゃんを
見たが、その目は今にも泣き出しそうな目だった。
優姫が父親と一緒に本島に向かって車を走らせた。その後ろ姿を母親の七姫に連れられ、七海と美空は見送った。美空は優姫が車に乗るまでずっと泣きじゃくっていた。七海は妹の美空ほど泣きじゃくってはいなかった
が、優姫が車に乗るまで涙目で優姫の服をつかんだまま離さなかった。母親が「七海、優姫君の服を離さないと優姫君は行けませんよ。」と言われ、七海は服を離すかと思いきや、優姫に手を首にまわして抱きついた。
優姫は七海の突然の行動に驚いたのか、どうしていいのかわからなかった。とりあえず自分の体に抱きついている七海を離そうとする。しかし、さっきまでは美空ほど泣いてはいなかった七海が優姫が自分を離そうとした瞬間
、堰を切ったように泣き出しより強く優姫を抱きしめた。優姫はまたもや七海の突然の行動に顔が夕日のごとく赤くなってどうしていいかわからないでいた。
そんな子供達の姿を七姫は深く抱きしめた。
優姫を乗せた車は角を曲がって見えなくなった。美空は車が見えなくなってすぐ母親に飛びついてわんわん泣いた。七海は車が消えた角をずっと眺めている。その目にはまた涙が溢れていた。そんな2人を七姫は優しく撫で、抱き
しめる。 「よしよし、いい子だからそんなに泣かないで。優姫君にはまた会えるわよ。」そう言ってみせる七姫だが、娘の2人は泣き止む様子はない。 「・・・あぁ~、もうこんな時間。早くお家に帰ろう。」立ち上
がると、泣き止む様子のない2人を連れて七姫は家に向かって歩き出した。 家に到着した春瀬家3人。春瀬家の家は海辺沿いに建っており、いつでも外に出てみれば海と空が見える位置に建っていた。 辺りはすっかり暗く
なってしまっている。母親の七姫はポケットから家の鍵を取り出そうとポケットを弄る。しかし、ポケットに自宅の鍵がないことに気づく七姫。 「あ、あれ。どこにしまったかしら?」
たが鍵がある気配はない。横では泣き止んだ(ように見える)双子の姉妹が心配そうに自分の母を見ていた。「どこかに落としちゃたかしら。・・・しょうがないわね」 「七海と美空はおうちの前で待ってて。お母さん
ちょっとおうちの鍵探してくるから。すぐ戻ってくるからね。」と言い残し七姫は来た海岸沿いの道を再び戻っていく。その後ろ姿を七海と美空は見送る。
この島を変える出来事が起きるまであと 1時間
ザザー、ザッパン ザザー、ザッパン、ザザー、ザッパン ザザー、ザッパン・・・・・・・・・・・・
気がつくと波の音がした。ここはどこだろう。私は誰? 夜の海辺でマントを羽織った一人の少女が静かに佇んでいる。
空を見上げる。明るい星が出ている。その星からでている明かりのおかげで目の前の景色を見ることができる。改めてあたりを見回す。
見慣れない場所だった。「・・・・・・。」 暗い・・・寒い・・・怖い・・・いつのまにか私はそう感じるようになっていた。
ふっと右の砂浜の方から誰かの足音が聞こえてきた。ボクはフードをかぶったままそちらをみやる。
小さな女の子が二人そこにたたずんでいた。好奇心旺盛なのか、臆病なのか、なんとも不思議そうな顔でボクを見つめている。そうして互いに見詰め合っていると、双子(ボクはそう思った)の黒髪を白い布で横に結んで
とめている少女が静寂を破った。「あなた誰?」 なんとも単純な質問だった。このくらいの質問なら、今のボクでも理解できた。「ボクは・・・、」
少女に向かって答えようとした瞬間、突然横から強い海風にさらされた。 だが、その風は海風というよりは暴風に近かった気がした。その衝撃でボクをまとっていたマントが中を舞う。
月明かりの下、少女はその姿をこの世界に来て、初めて晒した。
月明かりの下、眩しいくらいの黄色い髪が夜空になびく。少女の手には、その体には不釣合いなダイヤ型の大きな剣を手にしている。剣に埋め込まれている宝石が月明かりをうけてキラキラと輝いている。
剣を手にしている少女の前にいる双子の女の子はその姿を呆然と眺め続ける。少女は双子に自分の姿を晒した。この星の世界の住人ではないこの私の・・・それにこのつるぎ。この剣は私の記憶に残っている数少ないものの
一つだった。この剣はかつて私が大切だった人の物。少女はこの剣に触れられること、見られることをひどく拒んでいた。そう思うと、ある感情が自然と浮かんできた。
こちらを見つめ続ける双子の女の子達にボクは・・・・私は・・・・
少女のもつダイヤ型の大剣が青白く発光する。少女から徐々にこの世界にはないオーラが放出される。まるで少女の周囲が異世界になったようだった。少女から発せられるオーラはとどまることがなく、海辺から島全体
へと伝わっていく・・・。
目の前でなにか良くないことが始まろうとしている。七海と美空は幼いながらもその予兆を感じ取っていた。七海は周囲を見回す。この海岸には謎の少女と双子の姉妹以外は誰もいない。家の鍵を探しに行ったお母さんも
一向に帰ってくる気配はない。美空は不安な顔で七海の服を掴んでいる。今にもここから早く逃げ出したいと思っているに違いない。お母さんの元に早く・・・、私もそうしたい。けど足が動いてくれない。双子の姉妹はただ
目の前で起こっている状況を見ていることしかできなかった。 ーーーーー・・・・・・お母さん・・・・・・・・・・・・・・優姫君・・・・・・!
少女はこの力の使い方を知らない。胸の奥から芽生えた感情が浮かんできた瞬間、頭の中が真っ白になっていた。 少女の目が怪しく朱色に輝く。その視線を双子の姉妹に向ける。見開かれ、その透き通った蒼い目に
少女は願った。 どうか・・・すべてを忘れて・・・・・・。少女が力を使おうとしたまさにその時、夜空からなにかが少女と双子の姉妹の周りに降ってきた。
月明かりに照らされたそれを彼女は知らない。ただ頭の中で激しく警笛がなったような気がした。 少女はすばやく周りを見回し、力を使えた源である剣を構える。
「お母さん、どこ?」 後ろから聞こえた女の子の声に少女は一瞬頭が真っ白になった。・・・・おかあさん・・・・? その言葉に全神経が集中する。
その瞬間目の前のそれは突然少女に向かって襲い掛かってきた。少女は頭の言葉を振り払って目の前の敵に斬りかかる。少女が描いた切っ先の軌跡は綺麗にそれを真っ二つに切り裂く。少女の体系からして似合わない
ダイヤ型の大剣をなぜか少女には片手でも扱えるほどに軽く感じられた。さっき双子の姉妹に使おうとしていた力の余韻がまだ残っているのか、少女の頭は不思議な感覚に満ちていた。
いまだに朱色に輝いている眼光を双子の姉妹に襲い掛かろうとしているそれにむける。脳で判断するより先に足が動いていた。双子とそれの間にすべるように移動し、それに剣を一閃する。
それは不気味な雄叫びをあげ崩れ落ちた。背後に迫っていたそれに剣を突き刺す。またも双子の姉妹に迫ろうとしていた。剣に突き刺したそれをやすやす持ち上げ、姉妹に迫ろうとしていたそれに向かって投げつける。
投げつけたそれは弾丸のように、双子に迫ろうとしていたそれに直撃する。少女は空高くジャンプし、さっき投げつけて倒れているそれに剣を空から突き刺す。それは黒い靄となって消えた。
気がつけば周りにはそれは一匹もいなかった。必死に交戦していたので数なんて確認していなかった。
また周りは静寂に包まれる。聞こえるのは波の音だけ・・・・・・・・・・・・・・・・・と思ったがどこからか泣き声が聞こえてきた。
双子の姉妹のうちの一人、黒髪をツインテールにしている子が倒れている。そのすぐ横でさっき少女に最初に話しかけてきた子が、「お姉ちゃん、お姉ちゃん!!」と泣き叫んで必死に姉に向かって呼びかけている。
・・・・・そんな・・・間違いなく双子はやつらの手から守ったはず・・。双子の姉の方に近寄ってみると、外傷はなそうだ。では一体なぜ?
突然自分に違和感を感じる。ふと自分の手を見る。 黄色く発光している。足を見る。眩しいほどに輝いている。胸の鼓動がどんどん早くなる。なんなの、胸のそこから何かがわいてくるこの感覚・・・。
少女は力のコントロールがまだ完全にできていなかった。きずいた時にはもう遅かった。 剣から少女の体へ、少女の体から地面へと・・・ますます光の輝きが増す。
急速に光が島全体に広がっていく・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。一瞬だけこの神咲島を晴れ渡った青空が覆ったような気がした・・・。
ザザー、ザッパン ザザー、ザッパン、ザザー、ザッパン ザザー、ザッパン・・・・・・・・・・・・朝日を受けた砂浜に、まだ幼い黒髪の少女が2人倒れている。一人が起き上がった。朝日が顔に当たって、
少女は眩しそうに目を細める。すぐ横にはもう一人少女が倒れている。気がつくと少女と少女の手が握られていた。
なぜ私はこの子の手を握っているのだろう。髪型や髪の色、顔の輪郭、服装なんかは私と似ている。いや、服装と顔の輪郭はまったく同じといってもいい。
とにかくこの子の手を離さなければ・・・、そう思い手を離そうと隣で寝ている少女の手を掴もうとする。すると彼女の私と繋がれていないほうの手になにか細長いものが握られているのが見えた。
寝ている少女にはとても合わない大きな翼型の剣が左手にしっかり握られている。私はこの剣とにたようなものを見たような気がする。しかしどこで見たかははっきりとは覚えていない。
今の少女の頭の中はなにもなかった。ただ一つの言葉を残して・・・コウサワユウキ・・・この言葉が指し示す意味がよくわからない。とても大切な言葉・・・。思い出せない。
そして初めて私の手にもなにかが握られているのに気がついた。隣にいる少女の手にある剣の形とまったく同じものが私の右手にも握られていた。朝日を受けて剣の切っ先がキラキラと輝く。
なに・・・これ・・・?やっぱりこれを私はどこがでみた気がする。そもそもなぜ私はこんな海辺で知らない少女と手を繋いで一緒に寝ているのだろう。
横でまだ寝ている少女と繋いでいた手を無理やり離し、砂浜を一人で歩く。右手には翼の形をした剣。なぜかこの剣を離そうとしてもわたしの右手はずっと剣を握ったまま。
しかたないので剣を引きずって歩いた。ザザー、ザッパン ザザー、ザッパン、ザザー、ザッパン ザザー、ザッパン・・・・・・・・・・・・
堤防に上がり辺りを見回す。 誰もいない。 だから彼女・・・七海は心のなかに唯一残っている名前を半ば叫びがちに言った。「優姫君っ。」 誰だかわからない名前。でもなぜかとても大切な言葉。
「優姫君っ!」 走り出す。 誰だかわからない人を探して、長いツインテールの黒髪を揺らしながら七海は走り出した。 この時の時間 午前8:58
誰もいない。 町のなかに入る。やはり誰もいない。いつも、お母さんと美空と一緒に買い物に来てたときはもっと人がいっぱいいたような気がする。 ・・・お母さん・・・?美空・・・?・・・そうだ。私はいつも
お母さんと美空と一緒だった。なのになぜ今私の隣に誰もいないの? 七海は今思い出したかのように言った。 どうして今まで忘れていたんだろう。 どうして今まで思い出せなかった。
商店街を走っていた時、右の狭い路地から何か音がしたような気がした。
七海は立ち止まり、音がした路地を見る。誰もいない。だがこの時の七海はなにか予感があった。 音がした路地に入る。 たったった・・ふと誰か走る音が聞こえた。路地の右にまた狭い通路があり、
たった今、黄色の髪が見えた。 七海は追いかける。 右手に握られている剣が、地面にすれる音が狭い通路内に響く。たったったったったった・・・
どれくらい走っただろう。 七海は島中走り回ったせいで息も絶え絶えになっていた。 ハァハァ・・・ 気がつくと目の前には一面の蒼の世界。 地平線上には、大きな入道雲が空に浮いている。
クリアブルーの海面が日の光を受けてキラキラと輝いている。 今七海は自分が美空と寝ていた場所の、島の反対側まできてしまった。
私はこの場所には来た事がなかった。 私がいつも遊んでいた海辺の景色とはなにかが違って見えた。 同じ島の空と海なのにどうしてこんなにも違って見えるのだろう・・・。
そんなことを思っていた時、海に入っている人影を見つけた。しかし、太陽の逆光と海面の光の反射によってよく見えない。しかしひとつだけ確認できることがあった。その人の手には・・・。
少女は海面に足首までひたした状態で、ただただ空を眺めていた。この世界はなぜこんなにもキレイなのだろう・・・泣きたくなるのは、・・・なぜ?
右手に握っている剣を握り締める。 この世界で目覚めた時にはすでにボクの手にあった。 剣を空に向かって持ち上げる。 陽光の光を受け切っ先がキラキラと光っている。眩しくて目を細める。
その光景があまりにも綺麗で・・・この世界がすばらしいものだと感じた時、目から一筋の雫がこぼれた。
そして急に現実に引き戻される。 ふと、後ろから誰かからの視線を感じる。海風がボクの黄色の髪をなびかせる。 手で髪を顔にかからないようにしながら後ろを振り向く。
そこにはボクが昨日の夜、力を制御できずに消えてしまったと思っていた黒髪の少女が、一人立っていた。
ボクは目を見張る。昨日ボクが無意識に使ってしまった魔法は、その人の記憶を一部分だけ消してしまうものだった。しかし、記憶を消してしまうどころか、この島に住んでいた人の半数が消えてしまっていた。
双子の少女はおろか、島全体に使用してしまった広域魔法をかけてしまった。あの後、自分の意思を取り戻したボクが見たものは月夜の海辺に双子の少女が倒れている姿だった。
ボクは双子の姉妹に駆け寄り、安否を確認した。自分でも制御しきれなかった魔法の影響はボクも知らなかった。 どうやらただ気絶しているだけのようだ。
今ボクが使った広域魔法の影響が出ていないか、島の民間住宅が並ぶ方に向かった・・・。
人が住んでいる、今の時間帯は就寝中であろう住宅内にいる人の気配がまったくと言っていいほど感じない。変だ。虫が鳴く音も聞こない。なにかがおかしい。 ボクはそう感じた。
商店街の方に向かう。 この時間帯はお店はどこも閉まっている。やはりここにある住宅からも人が住んでいる気配がしない。背中に寒気がした。夜の寒さからくる寒気ではない。ないか異様なものを感じた。
ふと商店街の路地の奥から物音が聞こえた。 ボクはすぐ音が聞こえた方に向く。暗くてよくみえなかったが、なにかが道を曲がったように感じた。 ボクはその動いた何かを追いかける。
たったったったったったったったったったったったったったったったった・・・・・・
月夜に照らされた道にでる。 月光に照らされたその姿は島の子供だった。 ・・・いた。ボクの心の中にあった不安が少し和らいだ。銀髪をロングヘアーにした女の子が涙目でこちらを見ている。
どうやら迷子らしい。 ボクはしかたなくその女の子に向かって話しかけた。「お母さんとお父さんはどこにいるのかな?」自分自身では笑顔で話したつもりなのだが、今のボクには笑顔というものがどういうものか
よく理解していなかった。 銀髪の少女はボクを不思議そうに見た後、「お姉ちゃんどこ?」と言った。一瞬「お姉ちゃんだれ?」と言ったのかと思い、もう一度聴きなおそうとした所、後ろからふいに「
っ瑞希ちゃん!」という声が聞こえてきた。後ろを振り向く。 そこにはこの子の姉らしき人が心配そうにボクの後ろにいる少女を見つめている。
ボクはこの子の姉らしき人物に声をかける。「この子のお姉さんですか?」 「あっはい、この子を見つけていただいて本当にありがとうございました。」ボクの後ろにいる少女と同じく、このお姉さんも
銀髪であった。年齢はボクより5コ以上上かそれ以上に見えた。 ボクは姉妹一緒に帰る後ろ姿を見送る。そのほほえましい光景を見てまた力を使おうとしてしまった。
いけない。どうしても幸せそうな家族を見ていると憎んでしまう。 この世界にくる前の記憶はなくなっているはずなのにボクはそう感じた。
辺りをよく見回す。この地区は人のオーラがさきほどのところとはちがく、辺りの家から伝わってくる。 どうやらここ一帯、島のちょうど半分から向こうがわは人は消えてはいないようだった・・・。
七海は海の中でこちらを見つめている少女を見ている。なぜか、海の中に立っている金髪の少女が、地平線の上空にういている入道雲や澄み切った青空に広がる雲、陽光の光によって海面がキラキラと輝き、
波の音が二人の間を絶え間なくいきかいしているその風景もあいまって、この世のものとは思えない様子をかもし出していた。
七海は呆然と目の前にある風景を目にしている。すると後ろの方から誰かが走ってくる音が聞こえた。
「・・・・はぁはぁはぁ、七海っ!!」 突然の母の声に七海はさっと後ろを振り返る。 母親の七姫と、その手をつないで一緒に走ってきているには、妹の美空だった。
「まったく、どこ行ってたの・・?」七姫は七海に駆け寄ると、彼女を抱きしめた。 横にいる自分と同じ背丈で髪の色が黒く、自分と同じくその手には大きな剣が握られていた。ハァハァと息を切らしている少女が、
(この子の名前はすでに思い出していた。・・・美空・・・)呆然と私を見つめ、海の中でこちらを見つめている金髪の少女に視線を移す。
「お母さん・・・・どこいってたの?」 ふいに七海の口から出てきた問い。 昨日の夜、七海と美空を残して自宅の鍵を探しに出かけていった時のことを思い出す。
なんでこんな時間になるまで私たちのもとに帰ってこなかったんだろう。 どうして? それが昨日から今にかけての七海の疑問だった。
ザザー、ザッパン ザザー、ザッパン、ザザー、ザッパン ザザー、ザッパン・・・・・・・・・・・・ 波の音だけが母と娘との時間を保つ。美空は、まだ金髪の少女を眺めている。
「ねぇ・・・、どうして・・」と言いかけた時、海の中で静かに佇んでいた金髪の少女が行動を起こした。
ボクはその光景を懐かしく思った。以前ボクがいた世界で、同じようにけして一人ではない家族がいた。母と父、兄と妹の4人暮らし。その家計はとても裕福とはいえなかったが、毎日家族4人で
幸せに暮らしていた。 幸せに暮らしていたはずだった。 はず・・・・だった・・のに・・・。 ボクの底からわきあがってくるこの力はなんなのだろう。ふいに右手に持っていた剣を見る。
・・・ボクには君がいるん・・・だよね・・・、・・大丈夫・・・ボクはまだ・・・ 剣に向かって囁く。 さっきから剣をもっていた右手を下ろしてしまっていたため、切っ先が波にあたって濡れていた。
切っ先についてる海水が陽光を受けてキラキラと輝いている。・・・・・・お兄ちゃん・・・・・・
一面が蒼の世界で一筋の光が舞う・・・ 波打ち際では姉妹とその母親がお互いの存在を確かめた後こちらを見つめてきた。
剣が光りだす。 周囲の海水がざわめきだす。 また始まろうとしていた。 空は相変わらず白い雲が数個、流れるように動いている。地平線上には入道雲が天高く伸びている。
海面は陽光と剣の輝きによって光り輝く。 金髪の少女から発せられる異様なオーラ さらに光り輝く剣 ・・・・・・・・ボクは・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
空気が振動する 陽光の光が屈折する 空と海がつながる 世界は逆転する 絆は引き裂かれる・・・・・・
七海と美空は今、母親の七姫に抱きしめられていた。もう離したくないという感情がひしひしとこみ上げてくる。だが、七海はさっき母に尋ねた問いの答えをまだもらっていない。
お母さんは今までどこに行ってたのか・・・その答えが今の七海は欲しかった。しかし、当の本人は自分の娘たちを大事に抱きしめ続けているだけ。
この時すでに母親の七姫はきずいてしまっているのかもしれない。これから起こるすべてを・・・・・・・・・ そして、七海が問うてきた答えの真相を・・・
突然わが子を抱きしめている七姫の後ろから、強烈な光の波動がこちらに迫っていた。それは母の肩越しで確認できた。美空も今現在の状況を理解したらしく、母にしがみついて半泣き状態だった。しかし
そんな中でも美空の右手にはしっかりと翼状の剣が収まっている。七海もそれは同じで、右手の剣を離そうとしても自分の右手は七海の意思にはんし、ずっと握ったままだ。
金髪の少女から放たれた光の帯が急速な速さで春瀬家に迫っていた。 七海はとっさに逃げ出そうとしたがもう遅かった。 光の帯が母親の七姫を捕らえた。七姫はそのまま光のエリアに飲み込まれていく・・・。
「っ!!」 体の下半身が飲み込まれている状態の七姫は我に返ったように目に生気が宿る。七姫は自分の体の半分がすでにないことにきずいた。そして自分が抱きしめて離さなかった双子の姉妹を、とっさに前に突き飛ばす。
「っ!早くっ・・逃げ・て・・・・・」 双子の目の前で七姫は、光に包まれて消えた・・・・・
七海と美空は目の前で起こったことを理解できなかった。突然のことに気が動転していた。
お互いの翼状の剣が黄緑色に発光する。
突然母が私たちを解き放ち、突き飛ばしたこと。
剣の輝きが増す。刃の所はすでに眩しくて見えない
・・・・・お母さん・・・・・どこ・・・・・・・・?
すでに消えた母親を探して七海と美空の口からほぼ同時に出てしまう。 言わずにはおけなかった。涙が一筋の軌跡を描いて砂浜に落ちる。 なおも、母を飲み込んだ光の帯が双子に迫っていた。
とたんに双子たちが持っていた腕が(正確には剣が勝手に)光の帯が迫っている前方へと動いた。 剣の刃が紫色に発光しており、さっきの剣の印象とはがらりと変わって見えた。
剣のもち手の部分にはめ込まれている宝石が蒼く輝く。 その輝きが光の帯の進行を食い止める。剣が自動的に動いて、止まった光の帯を一閃する。双子は剣の動きについていけず、ただただ剣に身をゆだねた。
紫色の軌跡を描いた後、光の帯は消え去り、帯は光の羽に変わって空から降り注いだ。 双子はただ唖然と剣を見つめた。 双子の体とは不釣合いな大きさの剣ではあるが、なぜか双子は片手でこの剣を軽々持ち上げられる
ようだ。 それは剣のせいか、昨日の夜の出来事が原因かは不明である。 ただ蒼い空から降り注ぐ羽を見つめていた。そして改めて海の中にいるはずの金髪の少女をみやる。お母さんを消した相手を・・・。
しかし、もうそこに少女の姿はなく、この場を支配するのは双子の荒い息使いと波の音、そして空から光の羽が舞い散る音だけが聞こえるだけだった。




