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第4章:静かなる協定

禁じられた区域での事件から二日。

アイペリは自らの正体を見抜いた伝説の存在――エルデンとの再会を果たします。

少女の仮面を脱ぎ捨て、ついに「影」が動き出す。

運命の歯車が静かに回り始める瞬間をお楽しみください。

あの日以来、アイペリ(Ayperi)は二日間ほとんど部屋から出なかった。

 役割を完璧に演じなければならない。全校生徒の間に、|禁じられた区域《Forbidden Section》の扉で「恐ろしい幽霊」を見てトラウマを負ったという噂を広めたのだ。

 それが、最近の彼女が授業中に上の空で、より引きこもりがちである理由を説明してくれた。


だが、真実は異なる。

 彼女の脳内は、次の一手を計算するチェスの達人のようにフル回転していた。


【分析:エルデン(Erden)ジン(Cinn)。古の存在であり、知的で論理的な存在。レベル:未知数だが潜在的に極めて高い。忠誠心:不透明。恩義はあるが、それが忠誠を意味するわけではない。彼を味方にするには、感情ではなく論理と利害に訴えなければならないわ。……まずは静観、彼の出方を待ちましょう】


三日目の夜、部屋で講義ノートを見直していたとき、机の上の白紙の羊皮紙に、銀色の塵が渦を巻きながらゆっくりと文字へと変わっていくのが見えた。

 インクは、月光そのもので作られているかのようだった。


『話をしよう。真夜中、古い天文学の塔にて』


署名はなかった。だが、その必要もなかった。


指定された時間。アイペリは鼓動する胸を抑えながら(この興奮の半分は演技であり、半分は本物だった)、アカデミーの誰も近寄らない、埃まみれの天文学の塔の頂上へと登った。

 壊れたドームの天井から差し込む月光が、部屋の中央で背を向けて待つシルエットを照らしていた。周囲の空気は、いつもより淀み、重厚な密度を帯びていた。


エルデン(Erden)は、|秘密の砂の王国《Sultanate of Secret Sands》の出身であることが一目でわかる、複雑な文様の施された濃い色の優雅なローブを纏っていた。

 姿こそ人間の形をしていたが、その立ち姿には、この世界のものとは思えない重みと歴史が刻まれていた。


「……来たか」

 エルデン(Erden)は振り返らずに言った。

 その声は、川底の小石が擦れ合うような、静かで深い響きを持っていた。


アイペリは怯えた少女の役割を続けた。

「あなた……あの石の中にいた幽霊! 私に何を望んでいるの? お願い、乱暴なことはしないで……っ」


エルデン(Erden)がゆっくりと彼女に顔を向けた。

 その瞳の中に宿る火光が、薄暗闇の中で静かに明滅している。

 彼の顔に怒りや脅威はなかった。ただ、純粋で、解析的な好奇心だけがあった。


「幽霊には、制圧(Zapt)のルーンを平衡(Denge)のルーンに書き換えることはできません。あなたが成し遂げたことは、この時代の最高峰の魔術師ですら不可能と断じる、一秒の千分の一で行われた神業だ。……演技はやめなさい、レディ・アイペリ(Ayperi)。あなたは何者です?」


逃げ場はなかった。

 アイペリは深く息を吸い込んだ。その瞬間、すべてが変わった。


丸まっていた肩が真っ直ぐに伸び、顎が上がり、瞳の中にあったあの無垢で恐怖に満ちた色は霧散した。代わりに、あらゆる事象を測量し、冷徹に価値を計る「分析官」の眼差しが現れた。

 これこそが、(Shadow)の第一幕だった。


「私が何者であるかは重要ではないわ」

 アイペリの声は、もはや震えていなかった。明確で、計測された響きを帯びている。

「重要なのは……私たちが誰と戦っているか、よ」


アイペリは彼に語った。

 世界を画一的な奴隷制へと引きずり込み、歴史を抹消し、このアカデミーさえも裏から支配する古の教団――レギオン(Legion)の存在を。

 そして自らもまた、その教団に対抗するために、より古き誓いに縛られた(Shadow)であることを。

 図書館での行動は事故ではなく、潜在的な同盟者――つまりエルデン(Erden)を幽閉から救い出すために行われた、意識的な一手であったことを。


それは嘘だった。しかし、真実という糸で織られた嘘だった。


エルデン(Erden)は、アイペリの言葉を、彼が数千年の間に蓄積してきた知識と照らし合わせた。説明のつかない戦争、突如として消滅した文明、レギオン(Legion)の台頭……。

 アイペリが語るその「陰謀論」は、歴史の空白をあまりにも不気味なほど完璧に埋めていた。


「……協定だ」

 長い沈黙の後、エルデン(Erden)が答えた。

「我を幽閉した者たちに戦いを挑むことは、論理的な帰結といえる。この恩義を返すまで……そして共通の敵が消え去るまで、我が力をおぬしに預けよう。(Shadow)よ」


アイペリは薄く、しかし確信に満ちた笑みを浮かべた。

「いいわ。それじゃあ、最初のターゲットから始めましょう」


彼女は塔の窓から、明かりの灯ったカエラン(Kaelan)教官の執務室を指差した。


「でも、彼よりも重要なことがあるわ、エルデン(Erden)。……このアカデミーには『本物の幽霊』がいる。生徒たちの死を事故に見せかけて狩りをする存在。カエラン(Kaelan)を追い詰める過程で、その幽霊の尻尾も掴みましょう」

アイペリとエルデンの間に結ばれた、静かなる協定。

ついに「影の幕舎」がその活動を開始します。

最初のターゲットは、傲慢な規律官カエラン。そして学園に潜むもう一人の狩人。

アイペリの次なる戦略とは……? 次回、第5章をお楽しみに!

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