殺人と殺害の納得
クラクションが鳴る。
僕はガラスの前に立っていた。
稲妻が走っていたガラスは傷一つなく外の光を中に入れていた。
僕は彼女を絞めた人殺しの手を見た。僕が望んで行った。はっきりと彼女の柔らかい首の感触が残っている。抵抗こそすれ、僕に攻撃を何もしなかった彼女。引っ掻いたり、足でけったり、叩いたりもしなかった。殺されることではなく死ぬことを拒んだだけだった。
彼女も僕のように繰り返しの中にいるのだろうか。僕を殺した贖罪を求めていたのか?あの無抵抗さは死という結果は受け入れていた。
彼女を殺したかった。でも死んでほしいわけじゃなかった。
今度はどうやって彼女に会おう。
「ははっ」
渇いた笑いが口に出ていた。
殺したはずの人間にどう会おうかを考えている時点で、僕は命の尊さを忘却した。人はこうやって慣れていくのかと思うとすっと腑に落ちた。
ニート生活初めのころ、肉や魚を食べることに抵抗があった。家畜同然の生活を送っている僕が同じ家畜を食べていいのかと。せめて豚や牛とデスマッチをして同じテーブルに立たないといけないんじゃないかとずっと考えていた。まぁ、二ヵ月すれば考えることをやめていた。ほかの命のことより、自分のこれからの人生から逃げることを考えていなければ生きていけない。何より特別な自分の一部にしてやるという暴君のような心持ちがなければいきれなかった。
でも僕は昔の僕じゃない。
今抱えている問題を整理しよう。僕は人を殺した。なぜだろうか。
今すれ違った老人をぼこぼこにして殺したい欲求はない。彼女に殺されたから殺した。僕は被害を受けたから殺した。
僕は殺人という罪に立ち向かっただけ。一勝一敗のイーブン。勝敗だけ見ればこれで対等だ。この件に関してはお互いが悪かった。それで終わりしよう。
この状況は不思議だ。殺人してもここに戻ってきた。殺人は転生したこの社会の禁止事項だが、僕のコンテニューには関係ないことがわかる。
けれどここに戻って何を目的にすればいいのだろう。もっと情報が欲しい。ただ考えている時間はない。もう時間だ。彼女が思うカズになろう。
「お待たせ。待った?」
「いいや。ついたところ」
「じゃあ行きましょ。カズ」
「そうだね。アンフェミア」
彼女が僕の手を取る前に、僕が彼女の手を取った。
「あら。今日はやけに積極的なのね」
「君と一緒に遊べるのが楽しくてね。ついつい張り切ってしまったのさ」
「まぁ。うれしいわ」
「で、こっちだっけ?」
「違う。こっちよ」
どうやらアンフェミアは僕に殺されたことを覚えていない。それともアンフェミアが僕よりもずっと大人なのか。簡単に殺せるから泳がされているのか。アンフェミアのことを考えるたびに撃たれた胸と絞めた手がドクンドクンと飛び跳ねている。
「どうしたの?具合悪いの?」胸をさする僕にアンフェミアが聞いてきた。
「アンフェミアのことを考えていたら、昨日は眠れなくてね。万全じゃないんだ」
「それは大丈夫なの?」
「うん。僕の日常だからさ」
「ならいいけど…」
渾身のきざなセリフも空振りに終わった。わからないそぶりとかじゃなくて、伝わらなかったようだ。
「あ、私のことを考えていて、よく眠れなかったってこと?」
「うん」
「もうちょつとわかりやすく言ってほしい」
「君が好きだって?」
「それは…ちょっと言い過ぎ」
「ひけらかさないほうがいい?」
「そうね。だって」
「だって?」
アンフェミが僕のほほにキスをした。
「私のほうがお姉さんなんだから、こうやってからかいたいじゃない」
「顔を赤くして。説得力ないよ」
「早く行きましょ。火照ったほほに風を当てないと」
「赤い顔も素敵だな」
「ほら、早く」
彼女と手をつないで一緒に走り出す。僕はいつの間にか笑っていた。知らない感情がここにある。人殺し連帯感がなせる業なのか、罪悪感が織りなす業なのだろうか。確実に言えるのはアンフェミアが要因ということだけ。互いを絞め殺した手が合わさっている。それが面白いのか、楽しいのか、気持ちいいのか、うれしいのか。言葉にならない曖昧さを形用できるほど冷静ではない。初めての透明な気分が僕にはあった。
僕は笑っていた。
ご覧いただきありがとうございました。
この物語は完結済みのため、添削でき次第投稿します。
次回も皆様とお会いできるのを楽しみにしております!




