★大臣と所長の会話5
「以上になります」
「正直よくわからなかったよ」
「そうですか。見せ方を改善しておきます」
「掻い摘んで見せておけばいい。金に目がない奴らは簡単に賛辞する。最も奴らが非検体たちを使うことはもうないだろう」
「承知しております」
「社会に憤りを持つ人間の牙を折り、尊厳のない人形に作り替えた。私は奴隷を造るのに加担したんだ。それだけは確認できた」
「使役する人間の善意によりけりでしょう。ただ奴隷ではありません」
「そうだった。ジェレミスタだったか」
「いいえ。アヴァルドになりました」
「そうか。ひどい総称だ。吐き気がする。奴隷と何が違うんだ?」
「わかりやすくていいと思いますよ」
「何回でも言うよ。私は全部殺してもよかったんだ。もう後の祭りだな」
「このご時世そんなこと許されることはありませんからね」
「国際社会から遺憾と非難が飛び込んでくる。ミサイルだって飛んでくるかもしれない。ただ彼らはみなこの技術がのどから手が出るほど欲しいだろう」
「新しい貿易の形になるかもしれませんね。社会に埋没した労働力をすべて市場に出せますから」
「私は大反対だ。そのためにこの機関を作った。博士が財閥側に行かなくてよかったよ」
「私はこの施設好きですよ」
「君だけだ。奴らは嫌いだろう。更生した人間をここで匿うためにいまだに政界を奔走しているんだ。価値のない人間のリサイクル工場といえばきれいに聞こえる。実態はまるで違う。何物にも縛られない彼らはちゃんとした親が必要なのだ。守らなくてはならない。ちょっとした罪滅ぼしだ。いまさらだがね」
「我々も財閥には強く出られませんから」
「問題ない。それは私に仕事だ。この研究所は私の覚悟だ。これは財を生み出す道具ではないのだよ」
「もちろん。我々も重々承知しております」
「彼らはこれを産業革命と呼ぶらしい」
「曇りのない忠誠を誓う人間の生産はパラダイム転換といってもいいでしょう」
「まさか時代の歯車を直接回すことになるとはな」
「教科書に残る偉大な功績ではないですか」
「マグナカルタも、奴隷解放宣言もすべて無に帰す愚行だ。人類における最大の汚点になることはもう決まっている。世界平和が実現してもな」
「後悔していらっしゃるのですか?」
「もちろんだ。完成の日に近づくごとに憂鬱が加速する。作るべきではなかったと思う」
「その源泉は何でしょう?文化的な教育をすべて忘れ去られるから?それとも個人的なつながりの破壊?それ以外ですか?」
「それもある。それよりも私の考えた理念が誰かに利用されることが一番恐ろしい。私は私の意志で地獄に落ちる。この思いが誰かに利用されたくはない」
「決まったわけではないでしょう」
「私が死んだら動機も理念も変わり拡大解釈で乱用される。それだけは確定している。財閥は確実に法律もましてや憲法を捻じ曲げ目先の労働力の確保に躍起になる。ブルーカラーの仕事を押し付け自分たちは神様になったと豪語する。それでとどまればいい」
「大臣の思う最悪の想定では?現実味があるとは思えません」
「やつらは私の一番を簡単に塗り替える。必ず起こると言い切っていい。財閥は金のコントロールのためには人材派遣を始める。金さえ払えば自爆する高性能の爆弾の販売だ。テロリズムは止まらない。そして世界大戦が始まる。完璧に計画された戦争が始まる。財閥がすべてを管理する社会が来るのだ」
「…さすがです、大臣。だからあの制約を?」
「そうだ。私の死後。私の理念以外の用途を確認した場合、人類をこのシステムに入れてくれ。博士も了承済みだ」
「わかっております。大臣の意向を尊重しております」
「君たちが思っている以上にその日は近い」
「わかりました」
「本当に頼む。博士も同じ気持ちだ」
「大臣」
「なんだ」
「今ならまだ止められます。引き返すなら今ですよ」
「大丈夫だ。あぁ、大丈夫だ。問題ない。何も問題ない」
「いつでも連絡をください。我々は大臣の味方です」
「それであの被験者はどこにいるんだ?完成品に会いたいんだが」
「私です」
「君なのか?」
「お気づきになりませんでした?」
「ここまでの普通の人間だなんて思っていなかった。まさか所長とは。ほかの人間と大差ないじゃないか」
「試験段階ではそうでした。再利用なんて夢のまた夢でしたよ」
「第三次実験でもここまでの成果が出ていたのか?」
「私に近い人間ならいました。成功率は数パーセントでしたね」
「今どんな感覚なんだ」
「感覚ですか?」
「そうだ。生まれ変わったようなそんな感覚なのか?」
「何も変わりませんよ。昔よりも健康になっただけです」
「これは。確かに。革命だ」
「再利用したくなるでしょう」
「あぁ。私の後継者にしたいくらいだ」
「ここでの試用期間が終わりましたらご連絡ください」
「なぁ。君は今幸せか?いや…」
「はい。大臣はどうですか?」
「君が幸せなら私も少し幸せだ」
「いい世界にしましょうね」
「そうだな。ではこれで帰るよ」
「出口まで案内します」
「システムのお披露目会をするのだが君も来るかね」
「ぜひ参加させていただきます」
「最後にいいかね」
「何なりと」
「あの私が見た映像のことだが」
「はい」
「あの最後のシーン」
「えぇ」
「なぜ彼女は喜ばなかったのだろうか」
「」
「アンフェミアとか言ったか?観衆はみな喜んでいる。君も喜んでいた。きっと幸せだった。なぜ彼女は喜ばなかったのか。どうにも気になるんだ」
「そうでしたか?」
「私にはそう見えたよ」
「」
「で、どうなんだ」
「どうでしょうね。私にはわかりかねます」
「君以外の誰がわかるというんだね」
「ウィンストンでしょうね」
「そうだな。ではこれで失礼する」
「はい。本日はご足労いただきありがとうございました」
「今日は祝いの席か?モーニングコートにあっているじゃないか」
「いいえ。博士の火葬がこれからですので」
「そうか。ガンジス川に散骨するのか?」
「ここの敷地内でいいと言伝を預かっています。お線香あげますか?」
「いいや。あげない。博士との約束なんだ」
「わかりました」
「余計かもしれないが、葬式に白のネクタイは避けるべきだ。その風習は一部地域と昔の話だ。君には関係ないだろう」
「古い風習しか情報がありませんでした」
「パーティーはその服装で来るといい。主役は君だよ」
「いいえ。皆さまのおかげですよ。主役は大臣ですよ」
「そうだな。当日になって心変わりしないことを祈っていてくれ」
ご覧いただきありがとうございました。
この物語は完結済みのため、添削でき次第投稿します。
次回も皆様とお会いできるのを楽しみにしております!




