敵国思想の炙り出し デブリアとの共同戦線
太陽が山際に隠れ始めた。町を行きかうバスが増便を始める前に僕らは帰り始める。
「今日はごちそうさま。今度は僕がふるまうよ」
「料理できたの?」
「もちろん教えてくれよ」
「わかった」
パラパラとスーツ姿の人が道を歩いている。
「なんだか普通の日に遊んでるのって、ドキドキしない?」
「え?」
「なんだか悪いことしているみたいで緊張しちゃう。でも嫌じゃないの。落ち着かないだけなの。カズは同じ気持ちにならない?」
「そうだね。そわそわする」
「明日も仕事なんだから早く行きましょ」
「そうだね」
落ちる太陽に向かって彼女は駆け出した。僕はそれを見ている。僕に掛かる彼女の影。夕日が彼女の輪郭を濁す。走った彼女から舞い上がる髪がキラキラと光る。ぼやけた彼女でもはっきりと眩しいほどの笑顔を僕は見ていた。
ついてきてくれない僕を見て、少しすねたような顔をして止まった。
ようやく歩き出した僕を見てもなお、彼女はそっぽを向いてどこかに向いてしまった。
僕は彼女に追いついて、彼女の手を取る。そのまま歩くがつかんだ右手は動かない。垂直に重力を受けたまま動かない。逆に僕が引っ張られる形になった。
「どうしたの?」
「」何も言わない彼女をのぞき込む。視線の先、彼女は空き地を見ていた。
「きょうみんなに集まってもらったのは、ほかでもない。つみの洗じょうのぎ式をする」少年が空き箱に立ち、周りの子どもに演説をしている。
「われわれはうぃんすとんから直ぞくのめいれいがでたことはごどんじ」
「いつものかん視の任むはないのですか?」少年の話を聞いている少女が聞き返した。
「今日は特別任務だ。最ゆう先事こうだとめいをあずかった。いろんは認めない」
「ですが、今日てい察だと聞いていろいろもってきたのに」男の子は手に双眼鏡を持っている。
「いろんはみとめない。そんなものすてておけ。そんなゴミ」
「これは僕のたいせつなものです。ぱぱのかたみです」
「ぼくのほうがもっといいものをもっている。僕の父上はもっといいものをくれるよ」
「」双眼鏡の少年はシュンとなってしまった。
「いいか、みなのもも。いくぞ。たい長につづけ」
「らじゃー」
「今日もベーカーとくむたいじゅうきゅうとさん番隊の任むをはたすぞ」
「「おー」」」
子供たちが隊長と呼ばせている少年の指示に従って檻に向かって石を投げる。
檻には人が入っていた。今度は子どもではない。大人が入っている。丸刈りにされた大人は目隠しとさるぐつわをされ収監されている。
周りの壁にあの男の顔のポスターが張られ、壁には前に見た文字が描かれていた。
少年少女が石を投げると彼らは絞り出したような声を出し芋虫みたいに体をひねる。その声を聴いた少年少女はまた石を投げる。いじめているのだ。あれは日常的な風景なんだろう。帰宅中のサラリーマンは特に何もなく歩いている。むしろ微笑ましく通り過ぎている。彼らから見れば深夜の駅前で泥酔した人間がアスファルトの上を寝転がっているのと同じ感覚なのだろう。
いじめている感覚など子どもたちにはないだろう。少年少女は作業のようにおびえた囚人に石を投げる。面白がるとか、危害を加える背徳感だとか、恐怖を与える優越感などない。
挨拶をする感覚で石を投げている。均等に規律正しく投げつける。
この行為にどんな意味があるのだろう。ふと考えてしまう。そしてそれを隣で見る彼女は何を考えているのだろう。
一人。石を握ったままそのまま。止まっている少女がいた。少女は石を握って檻を見ている。投げようと左足を踏み込もうと、でも宙に浮かせてもその足が元の位置に戻る。ぎこちなく肘をあげてはまた戻す。
頭の中のキャンパスにいろんな自分が好き勝手に描いている状態なのだろう。彼女には周りと違う価値観がある。僕に近いものを持っているのだろうが、ここでは大罪だ。遠くから見ている軍人がそわそわし始める。
少女一人が違う正義に気が付いたのだろう。もう終わる。このまま生き続けるのは難しいだろ。明日には檻の向こう側にいるんだ。賢くなった自分が悪いんだ。諦めなさい。
「さ、アンフェミア。帰ろうよ」
「え、うん」
アンフェミアが焦った声を出した。ここであれを見過ごすのは悪手か?まずい。そこまで頭が回らなかった。カズだったらいったいどうしていたのだろう。嫌々ながらも考えている。
「えっと、」僕の行動をごまかすために声を出した。まだ本文は考えていない。
どうしようか。そんなとき、僕は隊長の声を聴いた。聞いてしまった。
「おいデブリア。どうしたんだ?」少女の心配している。そのはずなのに笑っていた。待ってましたと言 わんばかりに満足げな顔をしている。羊を見つけた狼のように見えた。
あの少女。ぶつかった日に着ていた服。いやもしかしたら違うかもしれない。でもポケットからはみ出ているあの布が顔を出していた。
間違いない。あの少女はジュリアの妹だ。
どうする。どうすればいい。どうしたい。どうしなきゃいけない。
何をする。何をすればいい。何をしたい。何をしなきゃいけない。
なぜする。何もしなければいい。なぜしたい。なぜしなくてはならない。
「帰る?」僕はアンフェミアに聞いた。
「…かえるんだ」
アンフェミアの言葉が気になった。聡明な彼女から聞こえた、含みのあるニュアンスのせいで何が正しいのかわからない。『ここでどうすればいいのかと』彼女に聞けばどうにかなる。
ただ意味深なあの言葉を思い出す。今日見せた彼女と僕を殺した彼女とのギャップが埋まったわけじゃない。いまだに彼女を計りかねている。
そして僕のしたいことを否定されたときに僕はもう動けそうにない。僕が逃げられないように僕から行かないといけない。腹をくくろう。建国したときの国民が減るのを王である僕は望まない。
最初に立ち止まったのはアンフェミアだ。教師だから立ち止まった。ただそれはどちらの方を持つのかは明白だろう。介入して晒上げられるのは羊のほうだ。彼女も狼側の人間なのだ。
じゃあなぜ立ち止まったままなのか。不安そうなアンフェミアの顔が僕の推理をぐちゃぐちゃにかき回す。
苦しそうなその顔が受け入れがたがった。その顔を幸せなに変えられたら僕の殺人への後悔は和らいでくれるだろうか。
「ここで終わりにしよう。さよなら」僕は彼女から離れた。
「何するの?」
「当り前のことをするだけだよ」
僕は強引にデートを切り上げ、命を懸ける。ここが僕のリングだ。平静を装って広場に突っ込んだ。
「あれ?デブリア。今日お医者さんにはいったのか?」僕は若干震えた声で少年少女に話しかける。しどろもどろ、不安諸々、今にも不備がぽろぽろ出てきそう。
「あ、、こ、んにちは」
「駄目じゃない。転んでけがしたんだからちゃんとしてなきゃ」僕はデブリアの正面で膝をつく。デブリアのポケットからはみ出ている風呂敷を勝手にとった。デブリアの右手を骨折患者のように吊った。
「デブリアけがしてるの?」
「前に転んで骨折してるんだよ」
「骨せつしてるの⁉大へんじゃん」近くにいた少女を皮切りにデブリアを囲んだ。
「…うん、そうなの」デブリアは僕に話を合わせてくれた。少しほっとした。
「え、ほんとうなの?」
「私のお母さんも足を怪我して大変だったよ」
「大丈夫?」
「痛いけどね」
「お姉ちゃんが早く帰って来いってさ」
子供らしい二つの声がデブリアを囲んで話している。
「ねぇ」嫌な感覚が聞こえた。僕は後ろからの声を確認するより先に地面に目を落とす。しゃがみこんだ僕をすっぽり入るほどの大きな影が僕を囲んでいる。隊長の影を斜陽が巨大にしていた。ここに大人はいない。アンフェミアも軍人も広場に入ってさえいない。僕はまだウィンストンを裏切ってはいない。獲物を横取りされた狼をどう扱うか。この少年には新しい獲物にしか見えていないだろう。ガキが。なめるなよ。
僕はゆっくりと後ろを振り向く。隊長は他とは違う異彩を放つ。青い長袖シャツにクリーム色のパンツを履いた少年。その格好を見るとどうやら上流階級だろう。ほかの子よりもいいものを着ている。
「どうしたの?」
「」隊長が何も言わずに手を招く。
デブリアたちと少し離れたところに招かれた。
「何かな」僕は少年と同じ高さでしゃがんだ。
「なんで今腕を吊ったの?」少年が懐疑的な目で僕を見下す。
「歩くのに邪魔だったからだろう」
「お前たち裏切り物だろう」
「」
「石を投げなければ裏切り者。それを擁護するのも裏切り者」
呼吸を忘れるような張り詰めた緊張。どうやってここから助かるかを必死で巡らせる。自分の演算能力の無さと情報量の多さに視野が霞む。
助けるってなんだ。僕は今一度原点に立ち返る。
ここから僕とデブリアを逃がせばいい。でなければ殺されてしまう。
なぜ助けないといけないのか。きっとジュリアは悲しむから。
これを見過ごしたらまたゴミ屑みたいな人間へと逆戻りしてしまうからだ。大手を振ってあの場所にかえるんだ。
「」
「どうしたの?裏切り者」
僕は助からなくていいんじゃないか。僕の安全は気にしなくていい。僕の命は考えないものとする。子どもが用意した僕をはめる策も少しは迂回できるだろう。
「」僕は笑った。そうだ。ここで僕を救う必要はない。デブリアだけでいいんだ。
「どうして笑うの?」
「僕が何を裏切ったというんだ」
「ウィンストンだ」
「裏切り者は何をされるんだい」
「そんなこと行けばわかる」
「知らないから教えておくれ。何をするんだい」
「…処刑だ」隊長は少し考えてそういった。
僕は安堵した。
「君から見て何が裏切り行為に該当したんだ?」
「石を投げないデブリアをかばった」
「怪我をしているんだ。当然止めるだろう。なにせ子どもは国の財産なんだから。君の両親だって怪我をしていれば止めるだろう」
「…これはウィンストンから任せられた大事な任務。命よりも大切だ」
「ウィンストンに銘じられれば死ぬのか?」
「そうだ」
「今まで何人告発してきた?」
「三人」
「『よくやった』とほめてくれたか?」
「お父さんが褒めてくれたんだ」隊長は少し緩んだほほから楽しそうな声で言った。
「どんなふうに?」
「久しぶりに頭をなでてくれたんだ。母さんも僕と一緒にご飯を食べてくれたんだ」少年らしい顔で僕に熱心に話しかけてくれる。同性だが可愛らしいと思うし羨ましいと思う。
「何を食べたの?」
「ベーコンの入ったカルボナーラだよ」
「ご褒美は貰った?」
「お母さんがおもちゃを買ってくれたんだ。ずっと、ずうっとほしかったんだよ。それでね」隊長は楽しそうに話している。僕は楽しそうに聞いている。
「ほかには?」
「…もういいだろう。裏切りもん」声のトーンが下がる。無垢な少年は霧散した。
「うれしかったのかい?」
「そうだ」
「君はウィンストンのためにやっていると心の底から思うのかい?」
「そうだ」
「両親に褒められるためにやっているわけではないんだね」
「…うん」
「ご褒美のために密告しているわけじゃないんだね」
「」
「私は誓える。デブリアの腕が悪化してしまえば国の損失だ。ウィンストンのためにならないだろう。僕はそれを堂々と言える。君はどうだい?」
「…僕の両親はウィンストンの熱烈な人。親は褒められる。僕の行いで」
「君は両親が褒められるためにやっているんだよね?」
「ちが」
「両親に褒められたときうれしかっただろう。気持ちがよくてあったかくなっただろう」
「」
「じゃあ周りの大人に聞いてみよう」僕は立ち上がる。少年の影は僕の半分だけを黒くした。
「え?」
「僕が正しいのか。君が決まりを破っているのか」
「」
「今から一人ずつ大人に聞いてくることにしよう。僕が一人選んだ後に君が選ぶんだ」
「…わかった」
「僕はもう決めた。あの木の下にいるきれいな女性だ」僕はアンフェミアを指さす。彼女ならどうにでもなるだろう。そんなに悪い奴じゃない。指を差されたアンフェミアは気の影に隠れた。恥ずかしかったのだろうか。
「 」少年の目が見ひらいた。まるで魚のようだ。ぴちぴちと跳ねる魚に神経締めしたようにおとなしくなった。
「君が決める番だ。ちゃんと選べよ」
「ねぇ」
「全部君が責任を持つんだよ」
「ねぇ!」隊長が僕の服の袖を引っ張る。
「ど、どうしたの?」
「あ、あの人知り合い?」わなわなとした手でアンフェミアを指さす。
「うん。そうだよ」
「 ぃ 」
「何?」
「ご、ごめんなさい。あなたは裏切り者じゃないです」
「誰が」
「お兄さんが」
「デブリアは」
「裏切り者ではありません」
「僕は善良な市民だよね?」
「はい。そうです。僕が間違っていました」
「だからごめ、
だから君を通報しなきゃね」
「やめてください」震える声でも涙をこぼさない少年。
「」
「お願いします。どうかお願いします」
「」
「どうしたの隊長?」デブリアを囲んでいた少年少女がこちらに来た。
「顔色悪いよ」
「ご公務で疲れたんだよ。今日はもう帰りなさい。隊長を送ってあげてもらえる?」
「「はーい」」
「僕はデブリアと帰るよ」
「あ、あの」隊長が声を出した。
「君がいい子にしていれば何にも起きないよ。いい子にしていればね。さようなら」僕は隊長に耳打ちした。
「 」隊長は何も言わずに下を向いていた。
子どもに意地悪をして気持ち良くなるほど子供ではない。けれど怒ったことに満足するほど年寄りでもない。自分の仮定が予定通りに進んだことが気持ちがいい。達成感を噛みしめている。
隊長は自分の役割を全うしているだけ。その報酬でご褒美をもらうのは別段おかしな話ではないだろう。少し悪いことをした。彼は恐怖の隣で生きてゆく宿命を背負わせてしまった。大人になった時にリングの上にいないといいけれど。
隊員たちが隊長を連れて広場を後にした。
「家まで送っていくよ」僕は残ったジュリアに問いかける。
「はい」少女は僕の問いかけに反応した。
「ちょっと待ってて。知り合いにサヨナラしてくるよ」
「どこにいるの?」デブリアが走り出す僕を止める。
「え?」
さっきまでいた場所に影はなかった。彼女はいなかった。
もう斜陽は公園に届かない。一日が終わる。影から出られない捕虜たちが肩を震わせる。
体を拘束されている捕虜と命を拘束されている僕。どちらが幸せだろうか。お互いに相手だと指を指し合う関係であってほしい。
「いこうよ」デブリアが僕を催促する。
「そうだね」
見覚えのある路地だ。デブリアと追いかけっこした裏路地にいる。大人二人がぎりぎりすれ違える幅に僕らは並んでいる。
「さっきの知り合いなの?」僕の前を歩くデブリアが話しかけてくる。
「そうだね」
「どうして助けてくれたの?」
「どうして投げなかったの?」僕はデブリアの質問をオウム返しした。
「…」デブリアは案の定口をつぐんだ。
「ジュリアもそうなの?」確たる証拠はないけれど僕はデブリアに聞いた。
「違う。私は頭が良くないからこうしている」
「なんでそう思うの?」
「あっちとこっちで違うことを受け入れられないから」
「…」
「お兄さんはそんなことないの?」
「別に僕はそっちから来たわけじゃないから」
「記憶ないでしょ。こっちでもあっちでもないところから来たの?」
「聞いていたの?」
「うん」
「全然違うところから来た。誰に言っても信じて貰えないところから来たのさ。そして帰り方もわからない」
「」煮え切らない顔をしている。そりゃそうさ。
「あの国はどんなとこだった?」
「」ジュリアは周りを見て誰もいないことを確認した。人差し指を口の前に建てた。
「そうだね。何でもないよ」
「不自由はなかった」
「え?」
「私たちは全然違うから」
それは僕と君なのか姉と妹なのか。含みのある言い方でこの話を煙に巻く。幼い年齢でここまで達観しているというか、大人びている。デブリアが望んだ成長だったのだろうか。僕の知らない苦労が目に浮かぶ。
「あとごめんなさい」謝るつもりなんてその横顔から全く感じない。清々しい顔をしていた。
「何が?」
「お姉ちゃんが最初カズさんを疑ってたのは私のせいなの」
「謝ることじゃないよ」
「わかった。謝らない」
「それがいいよ」
「」
今更ともいえるカミングアウトは時効を計算していたのか。子どもとは思えない話術に感心してしまう。ただここは大人としてきちんとするべきだったのかもしれない。
僕よりも精神年齢が上のこの子に何を説教するのか。
「もうここでいい」そういいながらも彼女は歩いている。
「いいよ、送っとくよ」
「…」
黙り込むデブリア。はっきりとした物言いをする彼女が言葉を止める。
「どうしたの?」僕はデブリアを見ている。
「あの女の人とどうゆう関係?」けれど彼女は僕を見ていない。
「恋人らしい」
「らしいって何?」
「前の僕の恋人さ」
「…話してないんだ」
「どう話していいかわからなくてさ。今も逃げてる」
「伝えたところでどうしようもないもんね」
「」僕のことをよくわかったようなセリフにたじろいでしまう。
「理解を押し付けても楽になるのは一人だけだもん」
「君は」
「デブリアでいいよ。カズさん」
「デブリアは何歳なんだい?」
「十一」
「大人びてるね」
「子どもはみんな死んだ」
「」強烈な返しに僕は反応できなかった。温室育ちで腐りきった僕は何を言っていいのかわからない。
「でも私は生きてる。お姉ちゃんと生きていく」
「どんなことがあっても?」
「どんなことをしてもお姉ちゃんだけは幸せになってもらう」
「優しいね」
「これは私に課せられた運命」
「重くはない?」
「」デブリアは首を振った。
「応援してるよ」
「もういいよ。さようなら」デブリアが僕から離れた。
「うん。さようなら」距離が離れても同じ声量で返す。
「あのさ」デブリアが振り返って僕を見る。
「?」
「私が石を投げなかったことは黙ってて」
「わかった」
「恋人がいることは黙っていたほうがいい?」
「デブリアに任せる。思いは君と同じだから」
「ふふ。わかった」
「あぁ、よろしく頼むよ」
「ありがとう。またね」
ジュリアそっくりに微笑みかけたデブリアはしっかりとした足取りで路地を抜け商店街へと走っていった。がやがやとした空間にデブリアはいつの間にか溶け込んでいた。
僕は少女に運命を任せた。人を見る目はないがデブリアなら許せる。
あの子を救ったことに後悔はない。しかし結果がたまたま良かっただけの大博打。
いつまでも勝てるとは思わないが僕は負けようがない。失う物なんて何もないんだ。
ポスターと目が合った。誰かを讃えている絵だ。これがウィンストンなのだろうか。
なぁ。ウィンストンなぜ僕はここにいるんだ。教えてくれよ。どうして今日は殺さなかったんだ。
国賊を助けデートをすっぽかした僕に罰はないのか。欲しいわけじゃないが来るのなら今来てほしい。僕は今日の行動に満足している。後悔は本当にない。
僕も明るい商店街を見に行こうと、軽い足取りで路地を抜ける。
『がさん』
手に持っていた空の弁当箱が鳴った。
アンフェミアのことを思い出した。といってもここのアンフェミアではない。僕を殺したアンフェミアのことだ。
ここに来てから路上で殺された人間なんていたのか?
路上で殺すのはいけないことなのか?あの少年もトラックで連れて行かれていた。まだ生きていたはずだ。あのリングだって大衆には見せていない。誰も殺してはいなかった。
「」
僕は路地へと引き返す。本当は聞きたかったことを、我慢していた質問を投げる好奇心が僕をあの広場へと連れて行く。彼女ではない彼女に聞かなければならない。彼女はそれでも知っている気がする。でも答えてくれない気もする。ただ僕がアンフェミアに聞きたいのだ。
「はぁ、はぁ」
広場には当然アンフェミアはいない。捕虜も姿はなかった。周辺も探したが姿はない。
さっきまで強く遠くに伸びた街灯の影は色も輪郭もぼけ、今度は自分が光源になり始めた。雲一つない空は容赦なく昼間の温かさを吸い取っている。
いつか彼女は僕に問いかける。そうでなくとも僕が聞いてしまう。この答えを僕が聞くことはないだろう。誰もが正しい世界では彼女はそれを許さない。刹那的な夢をもう少し噛みしめていたい。
ご覧いただきありがとうございました。
この物語は完結済みのため、添削でき次第投稿します。
次回も皆様とお会いできるのを楽しみにしております!




