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★大臣と所長の会話1 主人公転生直前

「久しぶりだね所長」

「大臣。お待ちしておりました」

「一年ぶりくらいか?」

「一年と三か月ぶりですね」

「政界引退のニュース見ましたよ」

「あれはデマだぞ」

「そうでしたか。いつまでやるおつもりなんです?」

「死ぬまでさ。やりたいことであふれているんだ」

「来世も政治家を?」

「まさか。もううんざりだ。君はどうだ?」

「来世ですか?」

「そうだ」

「考えたこともありませんでしたね」

「つまらない人間とまでは言わないが、こうゆう時に小粋なジョーク一つ出てくるほうがいい。今までの政治家業で気が付いた。どうだいでてきたかね」

「またこうして人間として生きていきたいですね」

「これまた。どうして」

「そのほうが幸せですから」

「君は今楽しいんだな」

「ええ。そうですね。」

「今日は装置を見せてくれる話だが。完成したのか」

「ええ、プロトタイプではなく完成品です」

「長かったな…私の目的がようやく叶う」

「おめでとうございます」

「あぁ、本当に長かった」

「研究所を案内します」

「よろしく頼むよ」

「かしこまりました」

「システムの名前は何だったかな。口になじませておかないと発表で噛んでしまいそうなんだ」

「『パスクプティコン』です」

「命名は博士か?」

「はい」

「初めて聞く言葉だ。由来は聞いているか?」

「後ほど説明します」

「エントランスでする必要もないな。寒くて凍えそうだ」

「山奥ですから。そろそろ雪が降ります。ではこちらに」





「っつ。んだよ!カバーおせーよ」

「˝あ?攻めすぎ?。拠点取れただろうが。モク炊いてプラントしろや!」

「だから負けたんだよ。カス!やめちまえ」

「は?俺のせいなのかよ!」

「はいはい。じゃあ抜けますよ!せいぜい仲良くやってくださいね」

 ヘッドホンを強引に頭からとって壁に投げ、強引にゲームの電源を落とした。

「いや、お前らのせいだろ」

「なんで俺がやめなきゃいけないんだよ。ゴミが」

「やる気がなきゃやめちまえ」

「なんだよ。足並みそろえろなんて。会社じゃねだろ」

 汚くて暗い部屋にあおむけに寝転んで唯一変わらない天井を見上げた。

 顔を戻すとぼこぼこの壁が見える。さっきまで一瞬で沸いた心が急速に冷めた。いつから僕は瞬間湯沸かし器になったんだろう。

 四年前までは普通に暮らせてたのにどうしてだ。

 汗と油と菓子のごみで汚れた布団。長年使われずに埋没した勉強机。ゴミ箱からあふれたゴミでいっぱいの部屋。カビで黒くなったカーテンに動かした形跡はない。どこからどう見ても完ぺきな汚部屋。開けっ放しのクローゼットにクリーニングの袋がかぶったままのスーツ。気分が悪くなってきた。

 人生途中までうまくいっていた。どこで間違ったのだろうか。学生時代、才能に満ち溢れた人間だった。学業もスポーツも人間関係もうまくいっていた。上級国民御用達のエスカレーター学校の卒業生なのに。生まれた時から親ガチャ失敗の田舎どもとは違う。

 就活だって最大手のゼネコンに入社していろいろな事業を仕切ってきた。優秀社員な社員だったし、下請け業者とも仲が良かった。

 問題はあのゴミ上司が入ってきてからだ。全部がうまくいかなくなった。理不尽なことは数えきれない。特に覚えているのは自分のミスを僕に押し付けてきたことだ。我慢が限界を超えた。それを機に退職してから、ずっと汚部屋暮らし。

 いい加減就活しなきゃいけないけれど、優秀な僕ならハロワに行けば確実に仕事がもらえる。なんてったって元超大手だったんだから。だがハロワなんてすべてブラック企業の求人。休みもまともにないだろう。今のうちに休んでおかなきゃ。特別な俺ならいざ企業に入っても即戦力として働いていける。だって僕は優秀で特別なんだ。でもとても繊細なことは僕にとって負の面だ。そのせいで精神病だとインターネットの診断結果でよく出てしまう。まだ本気を出さなくたって問題ない。まだまだこれから。これでようやく一般人と肩を並べたと言ってもいい。ちょうどいいハンデだ。まだ全然社会で活躍できる。

 しっかりとしたこれからのプランを思い描いてかゆい尻をかくために横を向く。

 埃かぶった姿鑑が醜い僕を映していた。

 中肉中背。高校時代の汚いジャージの下からみすぼらしいダルダルなシャツとパンツが覗いている。唯一褒めるとするのなら自分で散髪した髪だ。ほかに何もない。

 立てば醜悪、座れば汚物、寝転ぶ姿はまるで豚。

 こんな人を表しているのかわからない形容詞が今の僕にぴったりだ。

 何気なくスマートフォンを手に取ってSNSを開いた。三回スクロールをしてスマートフォンを投げた。高校時代仲良かった奴が起業して高級外車を乗り回していたり、昔好きだった女が結婚して二児の子持ちになっていた。

 僕だって何もしていなかったわけじゃない。不労所得で稼ぐためにニートブログを開設したが閲覧数が減ってきた。競合他社ひしめくネット界隈じゃ僕は輝けなかった。やっぱりしこティシュの山を投稿したのが悪かったのだろう。少ないコメントには『ウニみたいな生活してて草』と書かれたのでブロックした。更新はしていない。

 こんこんこん

「か、がすくん。今日はバイトの面接に行くって言ってたよね」扉の向こうから母親の声がする。

「あ?明後日だわ」

「ご、ごめんなさい。ご飯ここに…」

 数年前に思いっきり怒ってやったらよそよそしくなって就活の話をしなくなったのに。最近定年した父親が話しかけてくるが無視。最初は憚られたが、今ではそれが日常になっている。というか何を話していいのかわからない。俺に何もしてこなかったくせに。今更何を言われても遅いだろうに。

 最近はご飯をすっぽかすようになったから、床を叩いて催促していた。今日は久しぶりに定時にご飯が来た。

 僕は計画性のあるニートなので毎日の日課を決めて欠かさずに実行している。馬鹿なガキとのプロゲーマーごっこに疲弊しているが日課はこなさなくては。

 今日一回目のオナニーでもしよう。しかも今日は母親が定時にご飯を運んできた。日々精を出したかいがあったというものだ。豪勢に今日は道具でも使おう。

 枕の横にあったボックスティッシュを手に取るが空箱だ。仕方がないから部屋のドアを開けて母親に催促をしよう。空箱を壁に投げつけて立ち上がる。

「おい!ティッ…」

 ドアを開けるといつも通りのご飯と知らない二人組の男。その奥には涙を流す母親とそれをなだめる父親がいた。

 危機を察知した僕は扉を思いっきり閉めるが、男の一人が扉を体で止めた。

 力ずくで閉めようと懸命に頑張ったがもう一人の男の膝がみぞおちに入った。

 ふわっとした浮遊感の直後、一瞬呼吸が止まった。

「、、ぁぁ。っはっ」

 男たちは床に這いつくばる僕に黒い袋をかぶせた。

「がんばってね。母として応援してるから」

「友一。もっと速く助けるべきだった」

 意識が遠のく中親の声が聞こえた。

 もっと穏便な方法でヨットスクールに連行しろよと言いたいが言葉が出ない。

 同業他社のニートブログにこんなことは書いていなかった。

 ほら見ろ。僕が特別な人間だからだ。きっと僕のような特別な人間が住むところに連れて行ってくれるんだ。

 これで不労所得が手に入るな。つよがりの僕の笑みのほほに唾液がつたう。

 意識が途切れる直前、どこかから声がした。

『ようやくやり直せる』

 僕がやっと自分に向き合えたような気がした。


ご覧いただきありがとうございました。

毎週金曜日に投稿予定です。

次回も、皆様とお会いできるのを楽しみにしております!

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